表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/22

第1話 滅びかけの領地と、誰も見向きしない迷宮

ダンジョンとは、冒険者が命を賭けて潜る場所だ。


より深く、より危険な階層へ挑み、

貴重な素材と名声を持ち帰る。


浅い階層で引き返す者は、

臆病者か、初心者扱いされる。


――少なくとも、この世界では。


もし、

「深層に行かないダンジョン利用」が

領地を救うとしたら。


もし、

冒険者ではなく

“作業としてダンジョンに入る人間”が

主役になったとしたら。


これは、

そんな“常識外れ”から始まる物語です。

 冒険者にとって、迷宮とは何か。


 それは――

 命を賭けて潜り、より深くへ到達し、

 より貴重な素材を持ち帰るための舞台だ。


 浅い階層で引き返す者は、こう呼ばれる。


 ――臆病者。

 ――半端者。

 ――初心者。


 少なくとも、この領地ではそうだった。


 アルノルトが領地に到着した日、市場は静まり返っていた。


 露店は出ている。

 商品も並んでいる。


 だが、人がいない。


「……冒険者の町、だったはずだが」


 そう呟くと、案内役の老兵――ドグラスが苦々しく笑った。


「“だった”な」


 彼は、遠くにそびえる巨大な縦穴を指差す。


 黒い石で縁取られた、巨大な迷宮。

 この領地の中心であり、かつての誇り。


「みんな、あそこを目指して来た」


 執務室で渡された帳簿は、悲惨だった。


 税収は激減。

 人口は半分以下。

 特に減っているのは、冒険者と加工職。


「理由は、明白です」


 文官のエルナが、淡々と告げる。


「このダンジョンでは、

 “深く潜らなければ稼げない”と信じられてきました」


 アルノルトは、顔を上げた。


「事実ではないのか?」


「……事実だった時期はあります」


 エルナは、少し言い淀んでから続けた。


「この迷宮は、十層以上ある多層型です」


 広げられた図面には、階段が幾重にも描かれている。


「六層以降から、高価な素材が出始める。

 八層、九層ともなれば、一攫千金も夢ではない」


「だから、皆そこを目指した」


「はい」


 そして、静かに言った。


「――十層で、事故が起きました」


 冒険者たちは、違反していなかった。


 装備も揃っていた。

 人数も規定内。

 経験も十分。


 それでも、帰ってこなかった。


「構造が歪んだと言われています」


 エルナの声は低い。


「通路が閉じ、出口が消えた」


 アルノルトは、しばらく黙った。


「……それで、冒険者が消えた?」


「ええ」


「違います」


 ドグラスが、割って入る。


「消えたのは、冒険者じゃない」


 重い声。


「“夢”だ」


 事故の後、王都から通達が来た。


 ――当該迷宮は危険性が高い。

 ――管理体制が確認できるまで、利用は慎重に。


 それを、冒険者たちはこう受け取った。


「もう、稼げない」

「深層に行けないなら、意味がない」


 そして去った。


 浅い階層には、

 目もくれずに。


 夜。


 アルノルトは、一人で帳簿を見ていた。


 ダンジョン関連の収入は、ほぼゼロ。

 だが――完全に途絶えてはいない。


「一層から三層……」


 小さな数字。


 だが、確かに素材の記録が残っている。


 価値は低い。

 量も少ない。


 だが、事故報告はない。


「……奇妙だな」


 独り言のように呟く。


 誰もが、

 “浅層には価値がない”

 と思い込んでいる。


 だから、誰も見ていない。


 だが――


「本当に、何もないのか?」


 翌朝。


 アルノルトは、エルナとドグラスを呼び出した。


「ダンジョンを、封鎖する案は?」


「あります」


 エルナは即答する。


「ですが、その時点でこの領地は終わります」


「だろうな」


 アルノルトは、頷いた。


 そして、続けた。


「なら、逆だ」


 二人が顔を上げる。


「深層に行くな」


 ドグラスが目を見開いた。


「……何だと?」


「浅い階層だけを、使う」


 言葉を噛みしめるように言う。


「冒険でも、挑戦でもない。

 生活のために使う」


「そんなことをして、誰が潜る?」


 ドグラスが吐き捨てる。


「名誉にもならん。

 英雄譚にもならん」


「だからだ」


 アルノルトは、静かに言った。


「誰もやらなかった」


「誰も、考えなかった」


「なら――」


 机に手を置く。


「俺が定義する」


 冒険者の夢でも、英雄の舞台でもない。


「この迷宮を、

 “生活を支える場所”として使う」


 エルナが、息を呑む。


「……それは」


「価値観を、ひっくり返す話だ」


「分かっている」


 夕暮れ。


 アルノルトは、迷宮の入口に立っていた。


 多くの冒険者が、

 深く潜ることだけを夢見た場所。


 だが今は、誰もいない。


「なら、なおさらだ」


 ここには、

 まだ使われていない層がある。


 誰にも評価されず、

 誰にも称賛されないが――

 確実に生きて帰れる層が。


「冒険じゃない」


 呟く。


「公共事業だ」


 その言葉は、

 まだ誰も知らない。


 だが、この瞬間――

 確かに、物語は動き出していた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ