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21 燃え残る約束


 古びた木製テーブルの上に、次々と料理が運ばれてきた。

 石炉で長く煮込まれたスープは、スプーンを沈めるととろりと揺れ、香草の匂いが立つ。自家製パンに肉の煮込み、定番のじゃがいも、そして泡を立てた麦酒。

 早い時間にもかかわらず、炭鉱夫や職人たちが既に飲み始めていて、店内は暖気と喧騒に満ちていた。


 二人は店の隅のテーブルで向かい合っていた。


「お前も麦酒を飲むんだな。いつもはブランデーだろ」

「こういう料理には麦酒のほうが合うと思ってね」

「乾杯」

「乾杯」


 軽くグラスを合わせてから、エドガーはひと口含み、ルシアンのほうを見る。


「ピップは今どうしてる?」

「マルコム卿に預けてある」

「本当に懐が深い人だよな」

「……うん。尊敬してるよ」


 ルシアンはいつも通りだった。

 伏せがちな琥珀の瞳は飄々とし、整髪料のない金の髪は自然に落ちている。

 辺境の服装をしていても、彼はやはり彼だ。


 エドガーはスープを口に運びながら、小さく息を吐く。

 確かに美味しい――だが、それ以上に、店内の視線が刺さる。


 ルシアンはそれに気づいて、声を落とした。


「この街の人は、軍人が嫌いなんだ。

 そして、俺が“この街にいた軍人”だと分かってる」


 琥珀の瞳は麦酒を見つめたまま、淡々と続ける。


「グランディア南部でグランディアとエッセンの紛争が起きた時、アルストリア軍が“友好国支援”と名目をつけて派兵した。

 だが実際は資源と市場の確保が目的だった。

 フェルンウォルドの人間は国境防衛に駆り出され、終わって帰ってきたら……街はこんなだ。

 戦争孤児と負傷者ばかり。そりゃ、軍を信用しろって方が無理だ」


 突然、彼の瞳がこちらを向く。

 エドガーの心臓が一度、強く打った。


「……ルシアン」

「居心地が悪いだろ。すまない。俺たちのせいで」

「君のせいじゃない」

「そんな理屈、街の連中には関係ないさ」


 ルシアンは肉の皿を押しやる。


「ほら、もっと食えよ。美味いだろ」

「うん……。美味しいよ」

「そいつは良かった」


 エドガーが微笑むと、ルシアンもわずかに肩の力を抜いた。



---


 寝支度を整え、エドガーはベッドの上に座り、厚い羽布団を肩に羽織るようにして暖炉の火を見ていた。

 ルシアンはベッドの端で煙草を燻らせ、橙の光に横顔を照らされている。


「ルシアン」

「ん?」

「……聞いてもいいかな」

「聞けよ」


 火だけが部屋を照らし、影が揺れる。


「あの女性は……知り合いなんだよね?」

「お前がそういうことを突っ込んで聞くのは珍しいな」

「君は人を無視するような人間じゃないだろう?」


 ルシアンは煙をゆっくり吐き、視線を炎へ落とした。


「……昔、結婚の約束をしてた」

「そう」


 エドガーは声を挟まず、ただ耳を傾ける。

 ルシアンはぽつりぽつりと語った。


「戻ったら結婚しようって、約束して出征した。

 俺は小隊を率いていてな。偵察任務だった。……今思えば、深く踏み込みすぎたんだろう。

 ある日、敵襲を受けて――小隊はほぼ壊滅した。

 右腕だったハロルドだけは生き残った」


 煙草の火が小さく明滅する。


「ボロボロで帰ってきたら……彼女はもう腹が大きくてさ。

 俺のことは死んだと思ったらしい。

 相手は俺の幼なじみだった」


「……」


「心が折れた。

 軍も辞めた。

 功績があった分いくらか金は出たから、それを握って王都へ来た。

 知り合いも目的もなく……ただ逃げたんだ」


 暖炉が小さく爆ぜた。


 雪深い辺境の夜は、人の傷を容赦なく浮き彫りにする。



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