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1 灰の残響


 ――風が鳴いた。


 焼け焦げた土の匂いが肺を刺す。

 体温を奪う灰色の空気の中、ルシアン・ヴェイルは声を張った。


「撤収だ。全員、引け!」


「でも、伍長が――!」


「走れ。今は生き延びろ!」


 返事は砲声にかき消された。

 倒れた影が一つ、また一つと沈む。

 呼びかける声は遠ざかり、夜の底に呑まれていく。


 視界の端で、若い兵が地に伏した。

 ルシアンは足を止めかけ、しかし一瞬で判断する。


「……行くな。今は助けられない。前へ!」


 仲間を引きずる兵に向かって叫ぶ。


「泣くな。足を動かせ。家族のもとへ帰るんだ!」


 その声が届いたかどうか、もう確かめようがなかった。


 風が唸り、爆ぜる音がすべてを覆い隠す。


 闇が落ち、炎だけが空を照らした。




 ――時間が経った。

 戦は終わり、灰だけが残った。


 瓦礫の中で、ルシアンは膝をついていた。

 腕の中の兵士の頬は、もう冷たかった。


「……ちくしょう……」


 掠れた言葉は、夜の底へ静かに沈んでいった。



---



 目を開けた時、声は出なかった。


 ルシアンは勢いよく上体を起こした。

 額を汗が伝い落ち、胸の鼓動だけがやけに大きい。

 砲煙の残響が、まだ胸の奥にこびりついていた。


 金の髪を乱暴にかき上げ、手で顔を覆う。


「……まだ、俺は囚われているのか……」


 薄明の窓の向こう、遠くで汽笛が鳴った。

 街は新しい一日を始めようとしている。

 だが胸の奥では、まだ灰が燻り続けていた。




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