表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン遺失物管理センター(B3F) ~最強の回収屋は、今日も「思い出」と「未練」を拾いに行く~  作者: AItak
爆裂娘と、見栄っ張りな騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/102

第30話:撮影準備・特訓(リハーサル)

 努力は必ず報われる。

 そんな言葉を信じられるのは、その努力の方向性が「正しい」場合だけだ。

 間違った方向へ全力疾走する努力は、ただの「暴走」であり、周囲を巻き込む大災害ディザスターにしかならない。


 ――遺失物管理センター、裏庭(兼・爆破実験場)。


 雲ひとつない青空の下、怒号と爆音、そして悲鳴が交錯する地獄の特訓が始まろうとしていた。


「カットォォォォッ!! 止めて! 全然ダメよ!」


 上空3メートル。

 幽霊秘書のマシロが、メガホン(丸めたカレンダー)を片手に絶叫した。

 彼女は監督ディレクター気取りで腕組みをし、眼下の主演男優を見下ろしている。


「レオ! 今の剣の振り方、なによアレ! 腰が引けてるわ! もっとこう、視聴者のハートを鷲掴みにするような『色気』を出しなさいよ!」


「い、色気と言われてもだな……!」


 地上で剣を構えていた剣崎レオが、息も絶え絶えに反論する。

 彼の純白の騎士団服はすでにすすで黒ずみ、整えられた金髪は爆風で逆立ち、まるで爆発実験に失敗した博士のような有様になっていた。


「物理的に無理があるのだ! 私の目の前で、3キロのC4爆薬が炸裂した直後だぞ!? 色気どころか、生きた心地がしない!」


「甘えん坊ね! 本番は一発勝負なのよ! カメラの前でビビってたら、同接100万なんて夢のまた夢よ!」


 マシロは聞く耳を持たない。

 彼女の掲げるスローガンは『妥協即死』。

 完璧な映像美のためなら、演者の人権など考慮に値しないというスタンスだ。


「……あーあ。見てるだけで胃が痛ぇ」


 俺、黒鉄ジンは、安全圏である物陰に座り込み、その惨状を眺めながらあくびをしていた。

 手には昨日ヤクモから奪った栄養ドリンク(毒々しい紫色)。

 俺の役目は「黒子」だ。

 今はまだ出番ではない。……というか、今のカオスな状況に巻き込まれたくないだけだが。


「先輩! 火薬の量、増やしますね! さっきのは『そよ風』レベルだったので!」


 ツムギが元気よく走り回っている。

 彼女は裏庭のあちこちに、対戦車地雷や指向性散弾クレイモアをせっせと設置していた。

 その笑顔は、花壇に花を植える少女のように無邪気だが、植えているのは「死」だ。


「ツムギちゃん! さっきの爆風、ちょっと左に流れてたわよ! 次はもっとレオの『顔面スレスレ』を狙って!」


「了解です、監督! レオさんの前髪だけを焦がす精度で調整します!」


「やめろォォォッ!! 私の前髪は命より重いんだぞ!」


 レオが悲鳴を上げるが、爆破娘ボマーの耳には届かない。

 彼女にとって、レオは主演男優ではなく、ただの「頑丈な爆破標的ダミー」でしかないのだ。


「……ねえ、ジン君。ボクの出番はまだかい?」


 隣でヤクモが、巨大な注射器を磨きながら呟いた。

 シリンダーの中には、蛍光グリーンの粘液が満たされている。

 どう見ても人間用ではない。放射性廃棄物か、あるいはエイリアンの体液だ。


「待ってろ。あいつが泡吹いて倒れたら、それがGOサインだ」


「楽しみだねぇ。この『トロール用興奮剤(改)』、臨床データが不足していてね。副作用で皮膚が緑色になるらしいんだけど……」


「絶対に打たせるなよ? レオがシュレックになったら放送事故だぞ」


 俺たちはそんな不穏な会話を交わしつつ、再び戦場リハーサルへと視線を戻した。


「テイク2! シーン『華麗なる回避』! ……よーい、アクション!」


 マシロのカチンコ(手拍子)が鳴る。


 ズンッ。


 レオがスイッチを入れる。

 ボロボロの姿でも、剣を構えれば一瞬で「白銀の騎士」の顔になる。

 そのプロ根性だけは、認めてやってもいい。


「――はっ! そこだ!」


 レオが架空の敵(俺が立てた案山子)に向かって踏み込む。

 その瞬間。


 カチッ。


 レオの足元で、ツムギが仕掛けた感圧式スイッチが作動した。


爆発ハッピータ〜イム♪」


 ドゴォォォォォォォォン!!!!!


 裏庭が揺れた。

 レオの足元から、垂直に火柱が上がる。

 ただの爆発じゃない。演出用の「カラーパウダー」を混ぜた、ピンク色の爆煙だ。

 無駄にファンシーだが、威力はガチだ。


「ぶべらっ!?」


 レオが真上に吹き飛んだ。

 高度5メートル。

 美しい放物線を描きながら、彼は空中でキリモミ回転し、そして――。


 ドサァッ!!


 地面に顔面から着地した。


「……ぐ、ふっ……」


 レオがピクピクと痙攣している。

 髪の毛はチリチリのアフロヘアーになり、口からは細い煙が出ている。


「カーット!!」


 マシロが舞い降りてくる。

 心配するかと思いきや、彼女は倒れているレオの耳元で怒鳴った。


「何やってんのよ! 今の爆風を利用して、空中で二回転ひねりを加えて着地する手はずでしょ!? なんで無様に落ちてんのよ!」


「む、無理だ……! あんなゼロ距離爆破……受け身が取れるか……!」


「ジンはやってたわよ? 『爆発とワルツを踊る』って」


「あいつは人間じゃない! ゴキブリだ!」


 レオが俺の方を指差して叫ぶ。失礼な奴だ。


「はいはい、休憩! ヤクモ、衛生班!」


「待ってましたァ!」


 ヤクモが白衣を翻し、猛ダッシュで駆け寄った。

 手には、あの緑色の注射器。


「さあレオ君、お薬の時間だよ。腕を出してくれたまえ。いや、即効性を求めるなら首筋がいいかな? それとも心臓直打ち(パルプ・フィクション・スタイル)でいくかい?」


「ひぃッ!? ま、待て! その色はなんだ! 毒々しいにも程がある!」


「栄養剤だよ。トロールの肝臓エキスと、マンドラゴラの絞り汁を濃縮還元した『元気一発・緑汁』さ。飲むと死ぬけど、打てば3日は不眠不休で戦える」


「リスクが高すぎるわ! というか人間用ですらないだろ!」


 レオは這いつくばって逃げ出そうとするが、ダメージで足が動かない。


「逃げちゃダメだよ。患者の意思より治療が優先だ。……チクッとするよ?」


 ブスッ!!


「ギャァァァァァァッ!!」


 絶叫。

 太い針がレオの臀部ケツに突き刺さる。

 緑色の液体が注入されると同時に、レオの血管がドクンドクンと脈打ち、白目が充血し、全身から湯気が上がり始めた。


「う、うおおおおぉぉぉッ!? 熱い! 力が……力が溢れてくるぅぅぅ!」


「おや、適合したね。副作用で肌が少し緑色になってるけど、ドーランで隠せば問題ないさ」


「問題大アリだわ! シュレックになってるじゃないか!」


 レオは叫びながら立ち上がり、意味もなく裏庭をダッシュし始めた。

 薬の効果で暴走状態バーサークに入ったらしい。


「……よし。元気になったな」


 俺は頷き、立ち上がった。

 そろそろ、俺の出番だ。


「おいマシロ。あいつの動きが良いうちに、カメラリハーサルやるぞ」


「了解。……レオ! 戻ってきなさい! 次は『決めポーズ』の練習よ!」


 ***


 薬物による強制ドーピングでハイになったレオは、指示通りに指定位置に立った。

 だが、その目は焦点が合っておらず、口元はだらしなく笑っている。


「へへ……僕は無敵だ……爆弾なんて怖くないぞ……」


「……薬が効きすぎてアホになってるわね」


 マシロがスマホ(カメラモード)を構え、浮遊しながらアングルを探る。


「いい? レオ。大事なのは『角度』よ。あんたの顔は、右斜め45度から見た時が一番フェイスラインが綺麗なの。そして、剣を振った後の『残心ざんしん』……ここで憂いを帯びた瞳でカメラを見る!」


「う、憂い……? へへっ、任せろ……」


 レオが剣を振る。

 ブンッ!

 そして、カメラに向かってキメ顔を作る――はずが、薬の影響で白目を剥いた変顔になった。


「違うッ!!」


 マシロがブチ切れた。


「何その顔! 死にかけの深海魚!? もっとこう、世界の悲しみを背負ったようなイケメン顔をしなさいよ!」


「む、難しいこと言うな……! 顔の筋肉が勝手に引きつるんだ……!」


「言い訳無用! ……こうなったら、強制執行よ!」


 マシロが指を鳴らした。

 ポルターガイスト発動。


 ギチチチチッ……!


 見えない力がレオの頭蓋骨を掴み、無理やり右斜め45度に向けさせる。

 さらに、口角を指(見えない手)で引っ張り上げ、瞼をこじ開ける。


「い、痛い痛い! 首が! 首がメリメリ言ってる!」


「我慢なさい! これが『黄金の45度』よ! この角度を骨格に刻み込むの!」


「拷問だ! これは撮影じゃない、拷問だァァァッ!」


 レオの首が不自然な角度で固定され、顔面は見えない力で笑顔(という名のひきつり)に固定される。

 傍から見れば、悪霊に取り憑かれた哀れな男の図だ。


「よし、ジン! 照明!」


「へいへい」


 俺は手元の鏡(レフ板代わり)を操作し、夕日を反射させてレオの顔面に当てた。

 強烈な光が、無理やり作られた笑顔を照らし出す。


「眩しッ! 目が焼ける!」


「瞬き禁止! 瞳にハイライトを入れて! ……そう、その涙目! それが『エモい』のよ!」


 カシャッ! カシャッ!

 マシロが連写する。

 画面に映っているのは、涙と鼻水と脂汗にまみれ、首を変な方向に曲げられながらも、必死に笑顔を作っている男の姿。


「……これ、イケメンか?」


 俺は首を傾げた。

 どう見ても「限界を迎えた社畜の末路」にしか見えないが。


「加工アプリでなんとかなるわ! 素材たましいの輝きは本物よ!」


 マシロは満足げにサムズアップした。

 レオは白目を剥いて崩れ落ちた。


 ***


 夕闇が迫る頃。

 リハーサルは、ようやく終わりを迎えた。


 センターの裏庭は、クレーターだらけの荒野と化していた。

 その中央で、レオは大の字になって倒れていた。

 服はボロボロ。アフロヘアーはさらに巨大化し、肌はほんのり緑色。

 だが、不思議と、その表情は晴れやかだった。


「……終わった……。生きてる……」


 レオが掠れた声で呟く。


「お疲れさん。生きてりゃ丸儲けだ」


 俺は彼に近づき、手を差し出した。

 レオはその手を掴み、よろりと立ち上がる。


「……ひどい目に遭った。貴様らのプロデュースは、命がいくつあっても足りん」


「言うな。その分、は撮れたぞ」


 俺はスマホの画面を見せた。

 そこには、マシロが編集したテスト映像が映し出されていた。


 爆炎を背景に、傷だらけで剣を構えるレオ。

 首の角度は完璧な45度。

 瞳には涙が光り、それが夕日を反射してキラキラと輝いている。

 BGMには悲壮感あふれるオーケストラが流れ、テロップには『傷ついても、僕は戦う』の文字。


 ……カッコいい。

 悔しいが、無駄にドラマチックで、心を打つ映像に仕上がっていた。


「……これが、僕か?」


 レオが目を見開く。


「ああ。詐欺レベルの加工技術だがな。……でも、悪くねぇだろ?」


「……フン。まあ、及第点か」


 レオは口元を緩め、ニヤリと笑った。

 その笑顔は、作られたものではなく、彼本来の自信に満ちたものだった。


「チームの連携コンビネーションも、なんとかなってきたな」


 俺は周囲を見渡した。

 ツムギは爆薬の残量をチェックし、ヤクモはレオのバイタルデータを分析している。

 マシロは映像の最終チェックに余念がない。

 全員がバラバラで、イカれていて、協調性のかけらもない。

 だが、奇妙なほどに「役割」だけは噛み合っていた。


「ああ。……まさか、貴様らのような『はぐれ者』と、こうして肩を並べることになるとはな」


 レオは自分の手を握りしめた。

 高枝切りバサミを持った俺。

 スマホになった幽霊。

 爆弾魔。

 闇医者。

 そして、堕ちた英雄。


 最悪で最高のチームだ。


「明日は本番だ。……場所は『水晶渓谷』」


 俺はレオの肩を叩いた。


「失敗は許されねぇ。俺たちの借金と、お前のプライドがかかってる。……準備はいいな?」


「愚問だな」


 レオはアフロヘアーをかき上げ(指が引っかかったが)、ビシッと敬礼した。


「私は白銀の騎士、剣崎レオだ。……最高の『ショー』を見せてやるさ」


 夕日が沈み、夜が来る。

 明日は決戦の日。

 虚構の英雄劇が、いよいよ幕を開ける。


 俺は高枝切りバサミの刃をカチカチと鳴らし、不敵に笑った。


「さて。……邪魔な枝葉(敵)は、全部俺が刈り取ってやるよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ