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ダンジョン遺失物管理センター(B3F) ~最強の回収屋は、今日も「思い出」と「未練」を拾いに行く~  作者: AItak
爆裂娘と、見栄っ張りな騎士

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第26話 はじめてのおつかい(爆破)

 採用か、不採用か。

 それは企業の未来を左右する重大な決断であり、ここ『遺失物管理センター』においては、俺の寿命を左右する死活問題だった。


「不採用だ! 却下! 即刻退場!」


 半壊したセンターのリビング(壁がないので青空教室状態)で、俺はテーブルを叩いて叫んだ。


「当たり前だろ! 面接で『特技』を見せろって言われて、自社の壁を吹き飛ばすバカがどこにいる! 修繕費どうすんだよ!」


 俺の目の前には、爆破犯の栗花落ツムギが正座している。

 彼女はシュンと項垂れている……ように見せかけて、その膝の上でこっそりとC4爆薬を粘土細工のようにコネコネしていた。反省の色が見えない。


「まあ待ちなさいよ、ジン」


 瓦礫の撤去作業をしていたマシロが、浮遊しながら割って入った。


「確かに火力はイカれてるけど、あの一撃でゴミ山が消滅したのは事実よ。焼却炉を買うコストも、燃料費も浮いた計算になるわ」


「家の壁という最大のコストが掛かってるだろうが!」


「それに、見てよこの子」


 マシロがツムギを指差す。


「こんな重い爆薬を背負って、山道を歩いてきたのよ? 体力と根性は本物だわ。あんたがサボってる間の『荷物持ち』としては最適じゃない?」


「……う」


 痛いところを突かれた。

 俺の腰痛(という名のサボり癖)にとって、強力なポーターは喉から手が出るほど欲しい。


「ボクも賛成だねぇ」


 ヤクモが崩れた壁の隙間から顔を出した。


「爆発の衝撃波による内臓破裂、熱傷、破片創……彼女がいれば、あらゆる外傷データを収集できる。まさに歩く災害ディザスターだ。採用一択だよ」


「お前の理由はサイコパスすぎるんだよ!」


 俺は頭を抱えた。

 2対1。民主主義の敗北だ。

 この狂った職場において、常識人(俺)の意見などカエルの鳴き声ほどの価値もない。


「……分かったよ。百歩譲って、『試験雇用』だ」


 俺はツムギに向き直った。


「ツムギ。お前に最初の仕事をやる」


「は、はいっ! なんでしょう!? どのビルを爆破しますか!?」


 ツムギがガバッと顔を上げ、目を輝かせる。


「しねぇよ! テロリストの発想を捨てろ!」


 俺はギルドからの依頼書を一枚、ペラリと出した。


「B1F(地下一階)での採取クエストだ。『月光ダケ』を30本採ってくる。それだけだ」


 月光ダケ。

 ダンジョンの浅い階層に生える、発光するキノコだ。

 魔物もスライムやゴブリン程度の雑魚しかいない、初心者向けの安全なクエスト。


「いいか、ツムギ。これは『おつかい』だ。遠足だ。戦争じゃねぇ」


 俺は彼女の目を見て、念を押した。


「爆弾は使うなよ? 火気厳禁だ。絶対にだぞ?」


「は、はい……! 分かりました! 平和的に、スマートに採取します!」


 ツムギは敬礼した。

 その背中のリュックが、金属音を立ててガチャリと鳴ったのが気になったが……まあ、B1Fなら大丈夫だろう。

 俺はそう自分に言い聞かせ、彼女を連れてダンジョンへと向かった。


 これが、間違いの始まりだった。


 ***


 ダンジョンB1F『始まりの森』。

 木漏れ日が差し込む穏やかな森林エリアは、今日も初心者冒険者たちのピクニックコースとなっていた。


「わぁ……空気が綺麗ですねぇ」


 ツムギはリュックを背負い、ニコニコと歩いている。

 その姿は、どこからどう見てもハイキングに来た文学少女だ。

 背負っているのが数キロの爆薬でなければ。


「……おい、キノコあったぞ」


 俺は木の根元を指差した。

 青白く光るキノコが群生している。


「あ、本当ですね! 採取します!」


 ツムギが駆け寄る。

 よし、順調だ。これなら午前中に終わる。

 俺があくびをして、近くの切り株に座ろうとした時だった。


「……あ」


 ツムギが困ったような声を上げた。


「どうした?」

「先輩、キノコが……岩の隙間に生えてて、手が届きません」


 見ると、確かに大岩の亀裂の奥にキノコが生えている。

 手を入れるには狭すぎる。


「ああ、よくあることだ。棒か何かで掻き出すか、諦めて他を探すか……」


障害物ジャミング……ですね」


 ツムギの声のトーンが、スッと下がった。

 彼女が眼鏡をくいっと押し上げる。レンズが白く光った。


「採取の邪魔をする障害物は……排除クリーニング、対象です」


「おい? ツムギちゃん?」


 ガサゴソ。

 彼女がリュックから取り出したのは、木の棒ではなかった。

 黒光りする金属の筒。

 太い銃身。

 回転式弾倉シリンダー


 グレネードランチャー(MGL)だった。


「は?」


 俺の思考が停止する。


「岩盤破砕用の徹甲榴弾(AP弾)を装填……。角度よし、距離よし」


 ツムギは流れるような動作でランチャーを構え、大岩に照準を合わせた。


「え、ちょ、待て! 何を出してる!? それ爆弾だろ!? 火気厳禁っつったよな!?」


「大丈夫です先輩! これは『爆弾』じゃなくて『工具』です! 岩をどかすための!」


「工具の定義がワイルドすぎるわ! やめろ、キノコごと消し飛ぶぞ!」


「計算通りです! 爆圧で岩だけを粉砕し、キノコは風圧で優しく手元に飛ばします! ……たぶん!」


「たぶんって言ったな今ァァァッ!!」


 ドンッ!!


 俺の制止も虚しく、発射音が森に響いた。


 ズドォォォォォォォン!!


 着弾。

 爆発。

 大岩が内側から破裂し、石礫つぶてが散弾銃のように四方八方へ飛び散った。


「ぐわぁぁぁッ!?」


 俺はとっさに木の陰に隠れた。

 バラバラバラッ! と石の雨が降ってくる。


「……けほっ、けほっ。……おいバカ! 岩をどかすのに榴弾使う奴があるか! 死人が出るぞ!」


 俺は煤まみれになって怒鳴った。

 だが、ツムギは爆心地に立ち、舞い落ちてくる黒焦げの物体を空中でキャッチしていた。


「採れましたー! 月光ダケ(焼き)です!」


「焼けてんじゃねぇか! 炭だろそれ!」


 ツムギは真っ黒になったキノコを掲げ、満面の笑みを浮かべている。

 ダメだ。こいつ、話が通じねぇ。

 思考回路がニトログリセリンで出来てやがる。


 ――ガサガサガサッ!


 その時、周囲の茂みが一斉に揺れた。


「グルルルル……」

「ワオォォォォォン!!」


 狼の遠吠え。

 一匹や二匹じゃない。森全体が共鳴しているような数だ。


「……あーあ。やりやがったな」


 俺は額を押さえた。

 爆音だ。

 B1Fのぬしとも言われる『キラー・ウルフ』の群れが、爆発音を聞きつけて集まってきやがった。

 その数、目視だけで30匹以上。


「囲まれたな。……ツムギ、下がれ。俺が……」


 俺がデッキブラシ(代用品のモップ)を構えようとした、その時。


 カチャッ。


 背後で、小気味いい装填音がした。


「……敵性生物、多数確認。業務の妨害と認定します」


 振り返ると、ツムギが両手に手榴弾パイナップルを3個ずつ持ち、ピンを歯で引き抜いていた。

 その瞳孔は開ききり、頬は紅潮している。


一掃おそうじ……しますねぇぇぇッ!! ヒャッハーー!!」


「やめろォォォォッ!! ここは密林だぞ! 山火事になる!」


 ツムギは聞く耳を持たない。

 彼女は手榴弾を、節分の豆まきのように四方八方へばら撒いた。


「プレゼントフォーユーですぅぅぅ!」


 コロコロコロ……。

 狼たちの足元に転がる鉄の塊。

 狼たちが「?」と首を傾げた、次の瞬間。


 ドカァァァァァァァン!!!!


 連鎖爆発。

 爆炎の花が、森のあちこちで咲き乱れる。


「ギャンッ!?」「キャイン!?」

 狼たちが宙を舞う。

 だが、問題はそこじゃない。


「うおおおおおッ!? こっちにも飛んできてんだよバカ野郎!!」


 爆風と破片が、味方である俺の方へも容赦なく襲いかかってくる。

 フレンドリーファイア(味方撃ち)なんてもんじゃない。無差別テロだ。


「先輩! 右から3匹来ます! ロケットランチャー行きますね!」


 シュゴォォォォッ!!

 ツムギが俺のすぐ横に向けてロケランを発射した。


「近けぇよ! 俺の鼓膜が破れるわ!」


 俺は必死で動いた。

 狼を避けるんじゃない。ツムギの爆撃を避けるために。


「『床掃除・第六工程』――緊急回避サイド・ステップ!」


 俺は地面を滑るように移動した。

 爆風の衝撃波を計算し、爆心地からのベクトルに対して垂直にステップを踏む。

 熱風が髪を焦がし、破片が頬を掠める。


「ひぃぃぃッ! 死ぬ! 敵より味方が殺しに来てる!」


 俺はモップを盾にし、爆風を利用してバックジャンプ。

 空中で体を捻り、飛んできた狼(炎上中)を蹴り飛ばして着地。

 その足元に、また手榴弾が転がってくる。


「またかよ! 『床掃除・掃き出し(パス)』!」


 俺はモップで手榴弾をホッケーのように打ち返し、狼の群れのど真ん中で起爆させた。

 ドォォォン!!


 阿鼻叫喚。

 森は炎と黒煙に包まれ、もはやキノコ狩り会場ではなくベトナム戦争の激戦地と化していた。


 数分後。


 動くものはいなくなった。

 狼たちは全滅(というか消滅)し、周囲の木々は薙ぎ倒され、更地になった地面からは黒い煙が立ち上っている。


「……ぜぇ、ぜぇ……」


 俺は地面に大の字になっていた。

 生きてる。

 奇跡だ。

 服はボロボロ、顔は真っ黒だが、五体満足だ。


「……終わっ、たか……?」


 俺が体を起こそうとすると、煤まみれのツムギが駆け寄ってきた。


「せ、先輩っ!!」


 彼女は目をキラキラと輝かせ、俺の手を両手で握りしめた。


「すごいです……! すごすぎます!」


「……あ?」


「あの爆撃の嵐の中で、傷一つ負わずに立ち回るなんて……! 爆風の軌道を読んで、あえて爆心へ踏み込んで衝撃を相殺していましたよね!? それに、私の手榴弾を蹴り返して起爆させる『時間差攻撃』……!」


 ツムギの顔が、崇拝の色に染まっていく。


「まるで……爆発とワルツを踊っているみたいでした……! 破壊の神様が、そこにいました!」


「……は?」


 俺はポカンとした。

 いや、必死に逃げてただけだぞ?

 モップで手榴弾打ち返したのは、ただの条件反射だぞ?


「一生ついていきます、破壊神シヴァ先輩! 私にその『爆発を御する体術』を教えてください!」


「だから破壊神じゃねぇよ! ただの清掃員だっつってんだろ!」


「ご謙遜を! ……あ、見てください先輩! キノコ、たくさん採れましたよ!」


 ツムギがリュックを開ける。

 中には、爆風で根こそぎ吹き飛ばされ、ほどよくローストされた(黒焦げの)月光ダケが山のように詰まっていた。


「……これ、ギルドに納品できるのか?」


「『乾燥キノコ(焼き)』として出せば、高値がつきますよ! たぶん!」


「またたぶんかよ……」


 俺はガクリと項垂れた。

 森は消滅した。

 キノコは炭になった。

 そして俺は、不名誉な「破壊神」の称号を得てしまった。


(……マシロ。ヤクモ。お前らの言う通り、こいつは優秀だ)

(……敵に回したくないという意味でな)


 俺はフラフラと立ち上がり、帰路についた。

 背後では、ツムギが「次はどの山を爆破しますか? しちゃいますね!」と楽しそうに鼻歌(軍歌)を歌っている。


 こうして。

 アンラッキー・カルテットに、最強にして最悪の「火力」が加わった。

 センターの修繕費が経費のほとんどを食い潰す未来が確定した瞬間だった。


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