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第八話 渦巻く夜の陰謀


話の後、ヴィルは城からの呼びつけがあり、庭を後にした。


「もう一度言っておきますが、絶対に森へ入ってはいけませんぞ、姫様」

去り際にヴィルは、そう強い口調できっちり釘を刺してから、返事も待たず背を向けた。


「ヴィルお爺さんったら…、私はそんな聞き分けの悪い子じゃないわ…」


残されたリリシュナは誰かに聞かせる訳でもなく、顔を膨らませて小さな声で文句を言った。


私だって、だめと言われた事ならやらないし、森へ行ってはいけないと言われたからには行くはずもない、と思うわ…特別なことがない限り。

心の中で訴えてみるが、語尾が揺らいでしまった。


(信用されてないのかしら、私…)


よく考えてみれば思い当たる節はいくつかあった。

たとえば小さい頃、木登りをしてはいけないと言われた次の日に木から落ちて足を怪我した事。

そして次に、池の側で走ってはいけないと注意された次の瞬間に見事な水しぶきを上げて落っこちて、危うく溺れかけた事。

更には、カビの生えたパンを食べるなと言われたにも関わらず食べてしまって、お腹を壊した事。


(我ながら立派な武勇伝だこと…。これでは、お転婆姫と呼ばれても仕方ないわね。でももうこの年だし、私も少しは落ち着いたはず……よね?)


最後がどうしても疑問系になってしまい、リリシュナは溜め息をついた。

すると吐き出された息は白かった。それに気づくとリリシュナは改めて肌寒さを感じた。


時刻はすでに夕方になっていた。今の季節は秋、昼間は暖かかったにも関わらず、日が沈むと温度は一気に下がる。その上、風も強いのでより一層寒さが増した。


朝は暖かかったことで薄着なリリシュナは当然のように寒さで「クシュンッ」とくしゃみをした。ぶるっと震え、両腕を手で擦った。


(うぅ、寒いわ~これじゃ何か肩に羽織るものを持ってくればよかったわ)


そう思った瞬間、突然肩に何かが被せられた。


「えっ?」


びっくりして後ろを振り向いてみると、そこには優しい微笑みを浮かべたリウが立っていた。


「駄目じゃないですか。そんな薄着では風邪をひかれますよ、シュナ」


優しい声で言うリウにリリシュナは少しドキッとしてしまった。


「あ、ありがとう。…リウのお仕事はもう終わったの?」


リリシュナはリウの登場に喜びつつも、引っかかったことを聞いた。確かリウはお昼の時も急がしくて顔を合わせられない程だった。


「あ、はい。元々今日の仕事は少なかったので、昼を過ぎた時間には全て終わりました」


「え、でも何だか忙しそうだったわ…」


「えっと…それはですね、少し私情がありまして。大切な人への贈り物を準備するために少々時間を使ってしまって」


「大切な人…?」


その言葉を聴いて、リリシュナは少しのショックを受けていた。


(…ん?何でショック?)


ショックの原因が分からないまま、リリシュナは平常を装ってリウに言う。


「そ、そうなの~リウにはそこまで思っている人がいたのね…」


動揺のせいか、かんでしまったリリシュナを見てリウはフッと笑った。


「あなたですよ…シュナ」


「え…?」


リウの言っていることが分からず、ただキョトンとするリリシュナ。


「僕の大切な人は過去も今後もシュナ一人です。贈り物と言うのもあなた宛てです」


真っ直ぐリリシュナを見つめて言うリウ。


突然真顔でこんなことを言われて焦らない人はまずいないだろう。生まれて初めて言われるセリフに、リリシュナは顔を真っ赤に染めた。

先ほどまで寒かったのに、今ではリウの一言で顔が熱くなり、寒さも感じない。いつの間にか、ショックだった気分もなくなっていた。

でもやはり気持ちの正体は分からないまま。気持ちの浮き沈みが早いな…と思う程度。


一方リウはというと、リリシュナの変化はもちろん、自分が今告白に近いことを言ってしまったとすら気付いてない様子。全ての事において無自覚。


「えっと…実は、今シュナの肩に被せた物がそうなんですが…」


無反応なリリシュナを見て照れているせいか、リウはそれを指差してオズオズと言った。


「え…そうなの?」


言われてみれば確かに今はおっているショールはリリシュナが元々持っているものではないと気付いた。それはいたって簡単な作りだが、深い藍色の生地の襟元や端には控えめな白いレースが使われており、とってもリリシュナに似合うデザインだ。


そして更に良く見てみれば、これがリウの手作りだと直ぐに分かった。所々の縫い目が間違っていたりしている。リウは基本的には何でも出来るが、裁縫だけは得意分野ではなかった。


リリシュナは嬉しくてショールをぎゅっと握った。


「暖かい…ありがとう、リウ。…でも、何で突然私に贈り物を?」


リウは首を傾げながらも答えてくれた。


「忘れたのですか?今日はシュナの一人暮らしが始まってからの四周年記念日です」


「リウ、覚えていてくれたのね。そしてね、リウと初めてお城で会ってからの四周年記念日でもあるわよ」


「いいえシュナ、あなたは覚えていないかもしれませんが、僕達はその前にすでに出会っていますよ」


「え、そうなの?」


「はい。…その時、あなたは僕に人の心の温もりを教えてくれました」


リウが段々小さな声で言うのでリリシュナは最後の言葉が聞き取れず「え?」と聞き返したが、リウは「いいえ、何でもありません」とだけ答えた。






▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽






「そういえば、気になっていたのですが。そのポケットの中に入っている物は何ですか?」


リウはリリシュナのドレスの両端の異様に膨らんだポケットを指差して聞いた。


「あ、そうだわ。うっかり忘れていたわ。これはさっきヴィルお爺さんと一緒にこの庭で取った林檎なんだけど、二つお父様に食べてもらおうかと思って…」


そう言いながらリリシュナは片方のポケットから一つの林檎を取り出してリウに見せた。


「良く熟れた林檎ですね。これなら食欲のない陛下でも食べるられるでしょう。でも果実のままでは硬くて食べにくいですし、僕が少し工夫しましょうか?」


「ええ、そうね。ではお願いするわ。…それと、こっちはリウの分よ」


二つの林檎の後に、リリシュナはもう一つの林檎を取り出してリウに渡した。


「僕にもくれるのですか?ありがとうございます、シュナ」


リウはパアッと表情を耀かせた。


「じゃ、今から別行動ね。私は先にお父様の部屋に行ってるわ、リウは後で林檎持ってきてね。楽しみにしているわ」


リリシュナはきびすを返して、アデル王が居る寝室に向かった。



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