殿下と海
こういう子って現実にいてくれないのですか…
「お城を抜け出したい?どうして私にそんなこと言うんですか。私にそんな権限はないっすよ。もう算段はついてるから案内をしてもらいたい?ええ…そんなことしたら私も怒られるじゃないっすか」
「そんな顔したっていやですよ、クビになっちゃうでしょうし。え?一緒に来ないならそのまま帰ってこない?…あぁ、もう!わかりましたよ!一緒に行きますから!クビだけは止めてくださいね?頼みますよ?」
(ゴソゴソと支度をして城を抜け出す)
「ほんとにお城から出れちゃった…不味いっすよ殿下!これじゃ私クビです!当然だろって?いや、私失敗すると思ってたんですよ!?なんであっさり成功しちゃうんですか!ッモゴ」
(バレない様に彼女の口を塞ぐ)
「そんなにうるさくしたらバレる?バレずにまた部屋まで戻れれば私のクビも回避ですもんね…わかりました。付き合いますから。それで、どこに行くんすか?」
「海ですか?確かに帝都は港湾都市ですもんね。え?こんなに近くにあるのに行ったことなかったんですか!?もぅ…しょうがないですね。こっちですよ」
(コツコツと靴音を響かせながら足を運び、ガヤガヤした人通りの多い道に出る)
「ここがメインストリートです。帝都で1番華やかな場所で年中人通りはなくなりませんね。この先に海があるんですけど、その前にちょっと服だけ買っちゃいましょうか。いつまでもそんな黒いローブでいると逆に目立ちますし」
「なんすかその初めて私が役に立ったみたいな目は!?不満か?って、そりゃそうでしょう!こんなに献身的なサポートを今まで受けてきておいて…全くでん、むぐ!」
(彼女の口に屋台で買った串焼きを突っ込む)
「もぐもぐ…なにするんすか!急に私の口に串焼き突っ込んで!いつの間に買ったんすか!え?その名で呼んだらバレるだろうが…って、あぁ、そうでしたね。忘れてました。気を付けますね。あ!なに平然と残り食べてるんすか!」
「問題あるかって?か、間接キスじゃないっすか。嫌、ではないですけど…」
(恥ずかしそうな表情でそう告げる彼女に悪戯したくなって)
「あ、手、繋ぐんすね…確かにはぐれたらいけないですもんね。な、なんで恋人繋ぎなんすか!?恋人って設定の方が都合がいい?そ、そうかもしれませんけど!う〜やっぱり一緒に来るんじゃなかった」
「そんなにイジワルしないでください…は、恥ずかしいんすよ。ほら、ここです。ここでちゃっちゃと服を買っちゃいましょう」
(彼女に似合いそうなものを探す)
「…なんすか?いいっすよ、私の服は。あぁ、そんな悲しそうな顔しないでください。わかりましたよ、着ますから。うぅ…なんだかうまいこと丸め込まれてる気がする」
(シャーっとカーテンが閉まって衣服の擦れる音が聞こえる)
「ど、どうっすか?普段あまり着ないのでちょっと恥ずかしいですね…どうしたんすか?固まってないで感想の一つや二つ言ってくれたっていいじゃないですか」
「は?馬子にも衣装?はっ倒しますよ?よく似合ってる?ふん、最初からそう言えばいいんすよ!顔が赤い?き、気のせいです!ほら、次はあなたの分!」
(照れていることを隠す様に彼女は俺を引っ張って服を選び始めた)
「ん〜これはちょっと明るすぎ、、、こっちは暗すぎますね…スタイルがいいのでこういうのも、意外とありかも…ひゃ!きゅ、急に耳に息吹きかけないでください!」
「暇?知りません!モテる男はこういう女の子の買い物には付き合うもんすよ。あ、これなんてどうですか?」
(そう言って彼女が渡してきた服をもって試着室に入り、シャーとカーテンを閉めて試着してみる)
「着替え終わりました?うわぁ…流石ですね。普段はまず着ないものですけど凄く似合ってます。じゃあ次はこっちで…え?もうこれでいい?何言ってんすか、まだまだやりますよ」
(かちゃかちゃと彼女の手からハンガーの擦れることが聞こえめんどくさくなった俺は彼女の手を引いて会計を済ませる)
「え、あ、ちょっと!お会計私の分まで?じ、自分で払いますから!もう!そんな引っ張らないで!ついていきますから!」
(ガヤガヤとした大通りに戻ってくる)
「あなたって、意外と強引なとこありますよね。べ、別に嫌じゃ、ないっすけど…あ、ほら、見えてきましたよ」
(ザァァ…ザァァと波の音が聞こえる)
「綺麗ですねぇ…波の音も、潮風も心地いい。あ、あそこの階段から降りられそうですよ」
(ザァァ…ザァァ)
「冷たいくて気持ち良い…どうしたんですか?固まって。もしかして怖いんですか?」
(ザァァ…ザァァ)
「お〜い…ダメっすね。こういうときは…」
(バシャ)
「ふふ!びっしょびしょですよ?ちょっとは、かわすかと思ったのに…感動でかたまっちゃってたんですか?ははは!そんなことあるんですねぇ」
(バシャ!)
「あ?やりましたね?仕返しです!」
(バシャ!バシャ!)
「もう!ちょっとは手加減してくださいよ!」
(バシャ、バシャ)
「あ〜あ、もうびしょびしょですよ?今日は暑いですしちょっと待てば乾きますかね?」
(ザァァ…ザァァ)
「この辺に座っちゃいましょうか。よいしょっと…お昼ですし、ちょっと眩しいですね」
(ザァァ…ザァァ)
「どうしました?あぁ…こうやって改めてみると大きいですよねぇ…船」
(キュウキュウ)
「あ、海鳥ですね。今の時期だと、南からやってきたんでしょうか?気持ちよさそうですねぇ…私もあんな風に空飛んでみたいです」
(ザァァ…ザァァ)
「珍しいですね…あなたがそんな目をするのは」
「尊い…ですか。そうですね」
(ザァァ…ザァァ)
「大声でお客さんを呼びながら忙しなく働く商人達、楽しそうに海辺を歩く親子、民の安全を守る警備隊…みんな一生懸命生きてますからね。私たちの仕事がこの街を作ってるって思うと…なんだか胸が熱くなりますね」
(ザァァ…ザァァ)
「ええ…守っていきたいですね。これからも」
海ってなんでも洗い流してくれるような気がして大好きです




