殿下と雨の日
短い連載…してみました
(チクタクと時計の針が時を刻む)
「うへぇ…ほんと激務っすねぇ。もう深夜ですよ。流石の私も、もうヘトヘトです。一歩も動けません!」
「え?終わったらご褒美にお菓子っすか?やります!書類の100枚だって200枚だって一瞬で片付けてやりますよ!あ、やっぱり200枚はキツいかも…」
(現金な彼女にふぅとため息をつく)
「あ、今私のこと馬鹿にしましたよね?してない?ほんとっすか?まぁ私の広〜い心に免じて許してあげます…針の穴よりも狭いですって?喧嘩売ってますよね?いいっすよ、その喧嘩買いましょう…もごぉ!」
(立ち上がった彼女の口にクッキーをねじ込む)
「こんなクッキーで、もぐ、私の機嫌が取れると思ったら、もぐ、大間違いなんすからね!もぐ、もぐもぐ。ま、まぁ今日はこの辺で許してあげます。あ、サクサクして美味しい…もぐもぐ」
(口の中をクッキーでいっぱいにした彼女は幸せそうな顔でクッキーをもぐもぐと頬張る)
「いやぁ〜ほんとにこの職場につけてよかったっす!普通の平民じゃこんなお菓子食べれないっすよ〜」
(随分と早い変わりように溜息が出る)
「私を採用したあの日に戻りたい?何するつもりっすか?もう私はこの職を辞めませんよ?殿下のイケメンフェイスを堪能しながら休憩時間には美味しいお菓子が食べ放題!ここまで努力した甲斐があるってもんです」
(そういうとまた彼女はもぐもぐとクッキーを食べる、、んん!と喉を詰まらせその慎ましやかな胸をドンドンと叩く彼女に紅茶お渡す)
「ぷはぁ…助かりました。それより殿下、今また私のこと馬鹿にしましたね?何考えてたんですか?」
「…いくら食べてもその慎ましやかな胸に栄養は届かないんだな?せ、セクハラですよ!私じゃなかったら本気で怒ってますからね!?私はまだ成長期なんです!背だってまだ伸びるんですから!」
(そう言ってううんと彼女は背伸びをする)
「どうだかな…って、絶対信じてませんね。いいっすよ!5年後にはボンキュッボンの魔性の女として殿下のことを誘惑してあげますから!」
(自信満々にそう言う彼女にニヤリと笑って問いかける)
「と言うことは5年後も一緒にいてくれるのかって?そりゃそうでしょう?仕事ですからね…なんすかその可哀想なものを見る様な目は?あ、今絶対わかってないんだろうなって言いましたよね!?どう言う意味っすか!」
「ねぇ、無視しないでくださいよ!殿下!ねぇってば!」
(しとしと雨が降り出す)
「あ、雨ですね。これはなかなやまなそう…」
「ふふ、私、雨好きなんですよね。街全体が雨の音に包まれて…なんだか不思議な気分になるので」
「あ、あそこで雨宿りしている鳥さんがいますよ。可愛いですね…え?よそ見しないで仕事しろ?やってますよ。」
(雨の音に紛れてペンと紙の音が空間を支配する)
「なんか、いいですね。こういうの」
(彼女の言葉に首を傾げる)
「マイナスイオンっていうのが出てるんですって。それが雨の音が心地よく聞こえる原因らしいです…殿下も、雨はお好きですか?」
「そうですか!一緒ですね。それにしても…なんかこうしてお話ししてると案外殿下も普通の人間なんだなって気がします」
「どういう意味だって?別に深い意味はないっすよ。殿下に会う前は雲の上の人って感じでしたけど、実際会って色々話してみると自分と変わらない、血の通った人間なんだなってしみじみ思うんです」
「なんですかその複雑そうな顔は?威厳?雲の上みたいな殿下もいいですけど、私は好きですよ?人間らしい殿下」
(ザァザァと少し雨が強くなる)
「雨…強くなってきましたね。ざぁざぁって…まるで空が泣いてるみたいです」
「そうっすね…空だって泣きたくなる日ぐらいありますよね。あぁ、そうだ。殿下もたまには泣いてみたらどうです?」
「なんですかその意外そうな顔は?…わかりますよ。これだけおそばにいれば。無理しなくていいんすよ?」
「一回、休憩にしましょう。殿下もソファに来てください。ほら、こっちです」
(トントンとひと足先に座った彼女は自分の隣を叩くので、そこに座る)
「ふぁ…ちょっと眠たくなってきました。肩、お借りしてもいいですか?」
「ありがとうございます。よいしょっと…ふぅ、殿下は、辛くないですか?沢山仕事して」
「最近は私の世話まで増えてるから大変だ?あ、そういうこと言うんですね。ふん!このまま寝てやりますよ!」
(グリグリと彼女が俺に頭を擦り付けている)
「痛いからやめてくれ?…知りません!そのままグリグリされててください!」
(されるがままにしているとポタポタと雨漏りが聞こえてきた)
「おや?珍しいですね。雨漏りですか…うんしょっと、コップを置いて、これでよし」
(ポタ、ポタ、と雫が落ちる音がする)
「この音いいですね…なんだか癒されます」
(ポタ、ポタ)
「それにしても、最近クマを作ってますけど何か悩んでるんですか?私が力になれることでしたらお手伝いしますよ?」
「そうですか…それならいいんですけど、あんまり根を詰めすぎないでくださいね」
(暫く無言の時間が流れ、ザァザァとした雨の音とそこに紛れ込むポタポタという雫の音が部屋の中に流れる)
「止まなそうですねぇ…今夜は一晩中降りそうです」
「殿下。ゲームしませんか?この部屋にあるものでより気持ちいい音出せた方の勝ちです」
「じゃあ私からいきますね」
(スゥ、スゥと紙を引き裂く)
「次、殿下の番です」
(コツコツと机に指を叩く)
「ぐぬぬ…なかなかいい音出しますね。勝敗はどう決めるのかって?そうっすね…どうします?」
「勝敗なんて決めなくていい?…それもそうですね。確かに心地いい音は心地いい。それだけで十分ですね」
(ぽけーとしていたが、思い出したようにゴソゴソと本を取り出す)
「あれ?本ですか?珍しいですね…ふうん、子供の頃はよく読んでたんですか。え?私ですか?う〜ん、、外で遊ぶ方が多い子でしたね…」
(雨の音と共にペラペラと本を捲る音が流れる)
「ふぁぁ…心地よくてさらに眠たくなってきました…」
「少しだけ、、眠っちゃうかもしれません…しばらくしたら起こしてください」
「あり…がとう…ございま…す…」
(今までの音の中にスゥスゥという音が混じる)
(そんな空間が心地よくて暫くのんびりと音に身を任せていた)
この連載は、ほっこりしっぽり回しかないです




