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煌と僕


「よろしくお願いします!」


第一武道館。2、3年生で構成されている現在の部員、総勢9名。インターハイ出場を誇る剣道部の活動場所にいた。


説明をしておこう。湊耀高校には三つの進学方法がある。

一つは普通受験。希望者が3教科と面接を受け、合否を判定する。

二つ目は推薦受験。学力、スポーツ成績など、公式で実力を認められている者をスカウトし(もしくは中学から推薦され)、別の入試内容で合否を決める。

そして三つ目、栄転受験。あまり見られないタイプの受験方法である。

まず、これには、夏までに何かで結果を残す必要がある。そして秋までに推薦をもらえなかったとき。湊耀高校から推薦を決定したというお知らせが出た次の日から、"下剋上"のような仕組みが校内で適用される。どういうことかと、自分が得意とすること、将来に向けた考えなどを、湊耀高校で権限を持つ、教師、生徒会、各部部長などに話しかけ、自己アピールできる。そんな制度である。

要するに、認められさえすれば推薦受験と同じ待遇で受験、入学できるのだ。推薦受験者の入試の2週間前までこの制度を利用できる。


そんな中、スポーツ推薦を早々に決め、中3の冬から湊耀高校の部活にお邪魔して一緒に活動させてもらっている男がいた。

佐伯煌。剣道、全中優勝者である。


「おはようございます!本日もよろしくお願いいたします!」

「今日も来たのか、煌。あと十分で始まるぞ。」

「着替えてきます!」


剣道部新部長、後藤樹も相当な実力者で、人望も厚い。進級早くも全校生徒・先生から信頼を勝ち取っている、すごい人である。中学の頃、同じく学力推薦の枠を確保していた奏太も煌について部活に行ったことがあるが、堅実だが優しさ溢れる真面目な人だ、という印象を受けている。


武道場の隅に案内され、剣道部の様子をただ静かに見る時間が過ぎていた。


「はぁ…」


思わず口から出たため息は、面倒くささからくるものではないだろう。

憂鬱そうな雰囲気を醸し出していることを察したのか、部員の一人が声をかけてきた。


「えっと…大丈夫?」

「え、あ、僕ですか?」

「うん。悩み事?」

「いえ、少し…僕とは違うな、と思ったんです」

「それはどうして?」

「中学のとき、僕は…あることを諦めました。僕がそこでしっかりやれていれば何か違ったんじゃないか、そう思えてしまって。後悔しても変えられないんですけどね」


「ふーん。よくわからないけど、しっかりやれていればってことはないんじゃないかな。だって、後悔するくらいそれについて真剣に考えているだろう?君にとってその時の最善を尽くしたはずだ。胸を張れ、八神くん」

「ありがとうございます…って、なぜ僕の名前を?」

「それはまたの機会に。じゃあね」


全てを見透しているような不思議な人だった。


後日、僕は彼の正体を意外な形で知ることになるのだった。

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