表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

第7話「そばにいたい、もう少しだけ」

赤ちゃんと過ごす時間は、もう残りわずかだと分かっている。

でも、「さよなら」を言うには、あまりにも心が追いついていなかった。

今回は、現実を受け入れなければならない入院の日。

ただ“そばにいたい”という、母としての切実な想いと、

それを許してくれない時間とのあいだで揺れる心を描いています。

「分かっているけど、離れられない」

そんな、痛みを抱えた気持ちに、そっと寄り添ってもらえたら嬉しいです。



死産の診断を受け、大きな病院への転院が決まった日。

彼女は紹介状を手に、ゆっくりと病院の門をくぐった。


そのまま入院が決まり、病室に案内された彼女は、

ベッドに腰を下ろし、しばらく天井を見つめていた。


やがて現れた医師は、淡々とした口調でこう告げた。


「お母さんの身体のためにも、できるだけ早く赤ちゃんを取り出しましょう。

帝王切開は、3日後のクリスマスを予定しています」


彼女は静かにうなずいた。

でも心の奥では、激しく叫んでいた。


-まだ、一緒にいたい。

動かなくなってしまったとしても、そばにいたい。

もう声が聞こえなくても、私の中にいるこの子を手放したくない。


これまでの十か月。

彼女は毎日、お腹に話しかけていた。


つらくて身体が動かない日も、

「この子がいるから、頑張ろう」と自分を励ましながら過ごしてきた。


だから今、すぐに別れるなんて、できなかった。


「死んでしまった子をお腹に置いておくのは、よくない」

「お母さんの身体も限界です」


医師の言葉は理解できた。


でも、心がついてこなかった。


その夜――


カーテン越しに、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。


それは夢の中の出来事のように遠くて、


でも、確かに胸の奥に響いた。


-赤ちゃんの泣き声が、


こんなにも苦しく、


悲しい音だなんて知らなかった。


彼女は、


眠れないまま、朝が来るのが、ただ怖かった。



愛しい命を、この腕で抱くこともできないまま。

私は、入院生活を迎えました。

「もう少しだけ、そばにいたい」

そんな願いは叶えられないまま、時間だけが静かに過ぎていきます。

けれどこのあと、

思いがけない“変化”が、私の心と身体を揺さぶります――


【次回予告】

第8話「予定変更——あの子が選んだ旅立ちの日」


帝王切開の予定を3日後に控えた夜。

突然、彼女の陣痛が始まった。

もしかしたら――

あの子は、自分の旅立ちのタイミングを、静かに選んでいたのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ