第7話「そばにいたい、もう少しだけ」
赤ちゃんと過ごす時間は、もう残りわずかだと分かっている。
でも、「さよなら」を言うには、あまりにも心が追いついていなかった。
今回は、現実を受け入れなければならない入院の日。
ただ“そばにいたい”という、母としての切実な想いと、
それを許してくれない時間とのあいだで揺れる心を描いています。
「分かっているけど、離れられない」
そんな、痛みを抱えた気持ちに、そっと寄り添ってもらえたら嬉しいです。
死産の診断を受け、大きな病院への転院が決まった日。
彼女は紹介状を手に、ゆっくりと病院の門をくぐった。
そのまま入院が決まり、病室に案内された彼女は、
ベッドに腰を下ろし、しばらく天井を見つめていた。
やがて現れた医師は、淡々とした口調でこう告げた。
「お母さんの身体のためにも、できるだけ早く赤ちゃんを取り出しましょう。
帝王切開は、3日後のクリスマスを予定しています」
彼女は静かにうなずいた。
でも心の奥では、激しく叫んでいた。
-まだ、一緒にいたい。
動かなくなってしまったとしても、そばにいたい。
もう声が聞こえなくても、私の中にいるこの子を手放したくない。
これまでの十か月。
彼女は毎日、お腹に話しかけていた。
つらくて身体が動かない日も、
「この子がいるから、頑張ろう」と自分を励ましながら過ごしてきた。
だから今、すぐに別れるなんて、できなかった。
「死んでしまった子をお腹に置いておくのは、よくない」
「お母さんの身体も限界です」
医師の言葉は理解できた。
でも、心がついてこなかった。
その夜――
カーテン越しに、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
それは夢の中の出来事のように遠くて、
でも、確かに胸の奥に響いた。
-赤ちゃんの泣き声が、
こんなにも苦しく、
悲しい音だなんて知らなかった。
彼女は、
眠れないまま、朝が来るのが、ただ怖かった。
愛しい命を、この腕で抱くこともできないまま。
私は、入院生活を迎えました。
「もう少しだけ、そばにいたい」
そんな願いは叶えられないまま、時間だけが静かに過ぎていきます。
けれどこのあと、
思いがけない“変化”が、私の心と身体を揺さぶります――
【次回予告】
第8話「予定変更——あの子が選んだ旅立ちの日」
帝王切開の予定を3日後に控えた夜。
突然、彼女の陣痛が始まった。
もしかしたら――
あの子は、自分の旅立ちのタイミングを、静かに選んでいたのかもしれない。