第3話「この子は生きている——胎動がくれた光」
身体の異変は進んでいくのに、はっきりとした原因は分からない。
「赤ちゃんは大丈夫」と言われても、心のどこかで不安は消えず、
私は毎日、目に見えない何かと戦い続けていました。
そんな中、ある日ふいに感じた、小さな“ぴくっ”という動き。
それは、私の心を一瞬でふわっと温めてくれた――
今回は、初めての胎動に心を救われた日々と、
命の気配に触れながら、少しずつ前を向いていこうとする母の記録です。
これは、ある女性が体験した「異常妊娠」と「死産」の記録をもとに綴った物語です。
出産を心待ちにしていた彼女の身体に、ある日、異変が起こります。
不安に揺れる日々、信じたい気持ち、そして訪れた別れ。
それでも彼女は、悲しみの中にある“光”を見つけました。
この作品には、現実に起きた体験をもとにした描写が含まれます。
読んでくださる方の中には、つらい記憶がよみがえることもあるかもしれません。
それでも、この物語が、誰かの心にそっと寄り添うことができたなら。
そう願いながら、言葉を綴っています。
紹介された大きな病院での初診。
医師は、穏やかな口調でこう言った。
「子宮は守られています。
お母さんの体がどんなにしんどくても、赤ちゃんへの影響は少ないと思いますよ。
男の子ですし、男性ホルモンの影響も、あまり心配はいりません」
そう言われても、心は安らがなかった。
体の異常は進んでいくばかりで、その原因についても医師の口から続きがあった。
「おそらく妊娠に伴うホルモン異常でしょう。
ただ、あなたのような症例は非常にまれです。
卵巣や下垂体に腫瘍がある可能性も否定できません。
でも、胎児が子宮にいる今は、積極的な検査はできません。しばらく様子を見ましょう」
しばらく様子を見る、というのは、つまり「今は何もできない」ということ。
その言葉を胸に抱いたまま、病院をあとにした。
「赤ちゃんは大丈夫」と言われても、本当に信じていいのかどうか分からない。
体は日々変化し、心は追いつかないまま、不安と恐怖に押し潰されそうになる。
でも、それでも、どこかで思っていた。
「赤ちゃんが元気なら、それでいい」
そう言い聞かせながら、毎日をなんとかやり過ごしていた。
「赤ちゃんは大丈夫」
その言葉は、あの子の心音が途絶えるその日まで、何度も聞いた。
たしかに、あの子は生きていた。
小さな体で、彼女のおなかの中を力強く動いていた。
-あの日の朝、胎動がふっと消える、その瞬間までは。
初めて胎動を感じたのは、妊娠6か月に入る少し前。
その頃、毎日おなかをさすりながら、「元気にしてる?」と心の中で声をかけていた。
だからこそ、ある日、おなかの中で“ぴくっ”と動いた瞬間、
込み上げてきた喜びと安堵は、言葉にならなかった。
「この子は生きている。ちゃんと育っている」
その実感が、張り詰めていた心をふっと緩めてくれた。
あの日を境に、彼女はおなかの命に話しかけるようになる。
「今日も元気ですか?」
「お母さんもがんばってるよ」
「今日はね、こんなことがあったよ」
身体は苦しくても、胎動があることで、気持ちは不思議と落ち着いていた。
その命の気配こそが、彼女にとって唯一の光だった。
たった一筋の、確かな希望。
どんなに暗く重たい日々も、あの子がそこにいる限り、
彼女はきっと乗り越えていける -そう信じていた。
【次回予告】
次回、第4話「羊水が少ない?逆子?——それでも、生きていてくれさえすれば」
妊娠後期に入り、さらに不安な診断が重なります。
それでも私は、「生きていてくれさえすればいい」と願っていました -。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
身体がしんどくても、胎動を感じるたびに「生きている」って実感できた。
それだけで、どれほど救われたか分かりません。
あの頃は不安の方が大きかったけれど、
それでも、お腹の中の命と過ごす時間は、たしかに温かいものでした。




