第1話「この妊娠、何かがおかしい――不安のはじまり」
妊娠中に声が出なくなった私。
検査を重ねても「原因不明」。
それでも信じていた。
「この子は、必ず生まれてきてくれる」と——。
異常妊娠と診断されながらも懸命に生きた命。
生まれることは叶わなかったけれど、
この子が私に残してくれた“光”を、私は一生忘れません。
……これは、私自身の体験をもとに綴った、10か月間の記録です。
どうか、読んでくださるあなたに、
この小さな命の“物語”が、そっと届きますように。
妊娠がわかる前から、身体に小さな異変が現れていた。
だから彼女は、妊娠が判明したとき、嬉しさと同時に、どこか説明のつかない違和感を抱いていた。
初めての健診は、自分が生まれた個人病院だった。
実家のすぐそば、昔から変わらないたたずまい。
あの時代に母が命を懸けて産んでくれた場所で、今度は自分が命を迎える。
そんな巡り合わせを、少しだけ運命のように感じながら診察台に横たわった。
「心音、聞こえるよ。元気に育ってるね」
医師の言葉に、ふっと身体の力が抜ける。
胸の奥にじんわりと安堵が広がり、思わず笑みがこぼれた。
けれど、それでも違和感は消えなかった。
顔のむくみが強くなり、頬がまるくふくらんだ。
ふっくらした輪郭には、いつの間にか深いしわが刻まれていて、
眉間には小さな溝が、まるで疲れた証のように浮かんでいた。
皮脂のベタつきもひどく、顔を洗ってもすぐに脂が浮いてくる。
その変化が「妊娠によるもの」と片づけられない気がして、彼女の心は次第に曇っていった。
夫はそんな彼女の顔を見て、笑いながらこう言った。
「なんか、ブルドッグみたいになってきたな。かわいいけど」
冗談混じりのその言葉に、彼女はくすっと笑った。
けれどそのあとで、少しだけ胸が痛んだ。
わかってはいる。夫に悪気がないことも、心配してくれていることも。
でも ― この不安は、自分にしかわからない。
病院では、「よくあること」と軽く流された。
けれど、彼女の胸の奥では、じわじわと不安が膨らんでいた。
眠れない日が続き、身体は重く、心も沈んでいく。
そして、体調は日ごとに悪くなっていった。
夜中に何度もトイレで目が覚めるようになり、
眠っても熟睡できず、日中も頭がぼんやりしていた。
何気ない家事すら辛くなり、家の中で横になる時間が増えていった。
妊娠7か月が近づくころ、彼女の中にある確信めいた感覚が、ゆっくりと形になっていく。
「この妊娠は、順調じゃないかもしれない。
もしかして……この子は……」
その思いが、次第に胸の奥に居座りはじめた。
理由のない不安が、黒い靄のように心の中を漂いはじめ、
前を向こうとするたびに、それがじわりと視界を遮ってくる。
カレンダーを見つめるたび、健診の日が近づくたび、
彼女は、ただひたすら祈っていた。
――どうか、今日も心音が聞こえますように。
そして、妊娠7か月。
ついに、その「違和感」が現実のものとなる。
やっぱり。
彼女は、そう思った。
次回、第2話「“赤ちゃんは元気”という言葉を信じた日々」
読んでくださり、ありがとうございます。
死産という重いテーマですが、どうか心静かに見守っていただけたら幸いです。