表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

第2話「目覚め」

光が消えた。


そして――静寂。


それは、戦場の喧騒を浴びていた耳には異様すぎるほど、静かな世界だった。


***


目を開けた瞬間、まず目に飛び込んできたのは、天井の木材。


粗く削られた節のある梁が、ぎしぎしと軋みを上げるたびに、木の香りが鼻をくすぐる。


「……どこだ、ここは……」


口を開けば、自分の声に違和感を覚えた。


高く、透き通っていて――まるで、**少女のような声**。


不安定な体を起こし、辺りを見渡す。


肌に触れる布は薄くざらついており、シーツの下は干し藁が敷き詰められた簡素な寝床。


遠くで誰かが薪を割る音、鳥のさえずり、土の香り――


都市戦線とはあまりにかけ離れた、**田舎の風景**。


「体が……」


小さな手を広げて見る。


華奢な腕、子供の足。


膝に乗せた毛布の重みすら、以前より何倍も重く感じる。


「……まさか……」


鏡を探して立ち上がる。


部屋の隅に置かれた銀板のような古びた反射面に映ったのは――


紫の瞳に、銀色の長い髪。


目元に知性の影を落とす、まだ五歳にも満たない少女だった。


「私……女になってる……?」


身体は別人。


だが、記憶と精神は、紛れもなく**シオン・レーヴェンハート**のそれだった。


***


「お目覚めかい?」


扉の向こうから声がした。


開け放たれた木製のドアの隙間から顔を出したのは、エプロン姿の中年女性。


「……シオンちゃん、体調はどう? また熱でも?」


(シオン……? 名前も同じ?)


「……平気。ありがとう……おばさん」


「んまぁ、言葉遣いが妙にしっかりしてるのねぇ。ま、いいわ。もうすぐ朝の祈りだから、下においで」


彼女――世話役のリナは特に疑問も抱かず、軽やかに階段を下りていった。


(この子……この体の名前も“シオン”……偶然? それとも何かの必然?)


思考を巡らせながら、シオンは衣服を手に取り、着替え始めた。


布は質素ながら丁寧に繕われており、着心地は悪くない。


「状況整理だ」


小声で呟く。


(この世界は、前とは異なる。魔導演算もホログラフもない。だが、魔力らしきものの感知は可能)


内面に意識を向ければ、かすかに“流れるもの”を感じる。


それは前世で使用していた《戦導核》とはまったく異なる、**生命と混ざった“魔力”のようなもの**だった。


(そしてこの体には、それが“通っている”)


科学ではなく、**魔術的な素地**を感じる。


つまりこの世界では、**魔力と身体の共鳴**が力の鍵を握っている可能性がある。


(ならば、この体でも“戦える”)


拳を軽く握る。


「少しずつ試していくか……」


***


朝の礼拝堂。


薄いガラス窓から差す光の下で、数人の子供たちがベンチに座っていた。


「おはよー、シオンちゃん!」


「今日は薪運び当番だよ、一緒に行こう!」


(……この子たちが、今の“仲間”か)


短髪の元気な男児はジル。


隣にいたのは、ふわふわした栗毛のミーナ。


他にも、年相応の幼い顔ぶれが数人。


「……うん、一緒に行こう」


表情を崩すと、ミーナが小さく笑った。


「やっと笑ったー。最近、ちょっと怖かったよ?」


(……感情を顔に出すのが苦手だったな、私)


内心で苦笑する。


だが、ほんの少しだけ、心が温かくなるのを感じた。


***


その夜。


部屋の隅、隠れるようにして取り出したのは、小さな木製の盤面と駒。


この世界の子供たちが遊びに使っていた“魔方陣遊戯”という娯楽具だったが――


シオンにとっては立派な戦術ツールだ。


「この動かし方……意外と理にかなってるな。初歩的な布陣に使える」


何度か試していくうちに、これは単なるゲームではなく、**この世界の戦術概念の入門ツール**であることに気づく。


(これを子供に遊ばせているということは、社会構造に“軍事教養”が根付いている可能性が高い)


つまり、**戦術を遊びとして自然に身につけさせる文化**。


「面白い。この世界、前よりずっと……やりがいがあるじゃない」


窓の外、星が流れる。


「次は、情報だ。私はどこにいて、何を目指すべきか」


目を閉じ、深呼吸する。


すべては、始まったばかり。


だが、彼女――シオンは、すでにこの世界の“盤面”を読み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ