今日からオマエ、転生者。
初投稿です!よろしくお願いします!
(お父さん、お母さん…俺は、神になりました。)
遡ること数時間前。岩岡 天人は死んだ。死因は複雑骨折と出血多量。車に轢かれそうな子供を庇って赤信号を無視した結果、運悪く曲がってくる車と鉢合わせた。
死んだ後の感覚は、彼にとってとても不思議なものだった。夢を見ているような。記憶を元に再現された、曖昧な学校。そこで天人は、生前仲が良かった友人や先輩後輩、優しくしてくれた家族や親戚のことを考えていた。
「どうなるんだろ…天国とか地獄とか?はたまた生まれ変わり?幽霊や妖怪になるかもしれないな…」 そんなふうに独り言を言っていた天人は、十字路に誰かがいることに気付いた。
「…誰だ?見覚えは…ねぇな」
天人は人の名前と顔を一致させて覚えるのが得意だ。そしてそれを自負している。が、その人物は彼にとって全くと言っていいほど見覚えがなかった。
身長は180cmほど、細身でスーツを着ている。髪は短く耳が見えているものの、毛量が多いため長いようにも見える。
なにより一番気になるのは、その男がこちらを向いているのに、微動だにしないことだった。
天人はそのまま歩いて、彼の前に立った。いざ目の前に立ってみると、見つけた時と違って逆光も無いため、様々なことが分かる。
天人との身長差は恐らく15cm程。つまり、男は185cm近くあることになる。
また、スーツの色は真っ黒で、髪の色は少し茶色を帯びた、焦げ茶色のような感じであり、目も同じような色をしていた。
そして何より気になったのは、そのネクタイだった。ネクタイは白い太線と青い細線が紺色の下地に入ったようなよくある柄だが、ネクタイピンには『管理にん』とあった。
「…こ、んにちは…」
「こんにちは。あなたがアマト・イワオカですか?」
男は柔和な表情を浮かべた。優しい先生がするようなものだった。
「はい…あなたは?」
「私は管理人です。ほら、ここに書いてあるでしょう?」
男はネクタイピンをつまんで、少し下、天人から見やすいような角度に向けた。
「そ、それは分かってるんですけど…なんの管理人なんですか?お名前は?」
「何の管理人…強いて言うならここら辺の世界の管理人…ですかね。名前は…シュド、と呼んでください」
シュド、そう名乗った男はそのまま胸に手を当てて、天人に会釈をした。天人も流れに乗せられて会釈を返す。
「えっと…色々質問があるんですけど…」
「いいですよ。時間は無限です」
「じ、じゃあまず…さっきシュドさんが言ってた"ここら辺の世界"ってなんなんです…?」
「ソレ、聞きますか」
男は少し見上げた。天人から表情は分かりづらくなる。
「長くなりますよ?恐らく」
「…だ、大丈夫です」
「んじゃあ、解説しましょう。着いてきてください」
彼はそう言うと、天人の横を通り過ぎて歩き始めた。曲がり角を曲がった彼に急いで追いつくと、彼は後ろを振り返るでもなく、淡々と階段を登っている。
「な、なんで移動する必要が…」
「黒板。アレがあった方が便利なのです」
彼は3階で止まり、天人が以前いた『2年3組』の教室に入った。それに引き続き天人が教室に入ると、そこには机と椅子のセットが1セット、中央にポツンと置いてあった。
天人がそこに座ると、チョークを見ていた彼がこちらを向き、教卓に手を置く。
「今から、私と私の仕事の簡単な説明を行います」
「お、お願いします…」
彼は黒板の方を向き、いくつかの丸と、その上に人型を書いた。
「私達がなんなのか。端的に言うと"上位存在"というものです。ゲームキャラクターに対するクリエイターやプロデューサー等のような」
「上位存在…で管理人…ってことは」
天人は嫌な想像をした。それは、天人の一生や生死、知人までもが彼の掌の上で管理されているのでは、というものだった。天人は下唇を噛む。
「あー、語弊のあるような言い方をすみません。管理人と言っても干渉の度合いは大家みたいなものです。虫や魚を買う人間程には干渉できません。精々、大きな損傷が出たらそれを修復する為にリソースを動かせるだけ」
そう言うと彼は天人に背中を向け、丸の中に『世界』という文字を書き足した。
「この、世界の上の人型を私だと思ってください。私はいくつかの世界を借家のように管理しています。あなた方は居住者。私は管理会社です」
彼は大きな丸の下にそれぞれ、いくつかの小さな丸を書いた。天人はその小さな丸が自分達を表しているのだと考えた。
「寿命が契約年数のようなものです。契約年数を終えたあなた方は、別の住居に移り住む。そしてそれは時々、管理会社の違う家になる」
そう言うと彼は小さな丸から矢印を延ばし、別の『世界』へと繋げた。
普通、このような話が信じられるわけがない。著名な教授が学会で話そうとも、受け入れられることは無いだろう。だが天人は疑わなかった。彼の雰囲気か、話し方か、それ以外の影響か。理由は分からなかったが、納得させるだけの何かがあった。
「アマト、ここまでは分かりますか…?」
「あ、あぁ、はい」
「良かったです。では、続けますね。家と世界の違いはいくつかあります。居住者が契約年数を知らないことや敷金礼金が要らないことなど。ですが一番大きいのは別にあります」
「な、なんですか…?」
「それは、"居住者は野宿ができない"ことです」
彼はこちらを向き、人差し指を立てて淡々と言った。そのせいか、天人は数秒間、彼が言ったことを理解するために時間が必要だった。
「つまり…どこかで死ねば別の世界に行かなければいけないということてすか…?」
「えぇ。物わかりがよくて助かります。もちろん、契約を刷新して新居住者として…言わば"輪廻転生"の手順を踏むこともできますが…行く宛ての無くなった人は存在ごと消えます」
「じゃあ、この世界が俺の新しい…」
彼は天人の言葉をさえぎり、チッチッチッと指を横に振った。
「ここは言わばプレハブです。アマト、あなたには次の家が決まっています。しかし今は事情があって、一時的にここに留まっていただいているのです」
事情。天人にはよく分からなかった。ただ、来世とはいえ彼に決められているようで気に食わなかった。
「け、契約を新しくして元いたとこに戻れはしないんですか」
「…それはオススメしません」
納得がいかなかった。そこまで干渉できないとはなんだったのか、と彼に対する苛立ちが生まれた。
ただ、言葉にも態度にも出ていない天人の苛立ちを彼は分かっているのか、手を出して静止した。天人の苛立ちは不自然に揺らいだ。
「すみません、少し強引な策に出ました。…管理会社は、契約できる家がどのようなものなのかをある程度知っています。そしてやり取りをすることにより、客が住みたいと思う家の条件を知ります」
彼は、少し黙った。天人には、言葉を選んでいるように見えた。できるだけ、傷つけないように。そういう意図を感じた。
「今後契約を刷新できる可能性のあるところで、他に良いところを知らないのです…」
「刷新…しなくてもいい場所はあるんじゃないですか…?」
「それなんですけど…契約延長は分かりますか?」
「延長…って、必要に応じて住むことができる期間を延ばせるってことですよね…あっ」
天人はその時、彼の言う『延長』の意味を理解した。つまり、やり直しという事だ。だが同時に疑念も湧く。どうやって?彼の理論を借りるなら、あの日自分は退去したはず。それにあの時の子供はどうなるのだろう。
そんな、天人の疑問を取り払うように、彼はチョークを置いて、再び人差し指を立てた。
「これが住居と世界の違いです。すぐにはできませんが、帳尻を合わせて戻すことが可能です。そして、その間の仮住居として提案しているのです」
天人は、悔いがあった。やり残したこと、やりたかったこと。残した友達や家族への心配もあった。夢もあった。一生をかけて成し遂げたいこと。他の誰かに譲れない程の熱意も。
「シュドさん…お願いします」
「分かりました。では、本題に移ります」
シュドはどこからともなく、一枚の紙を取りだした。RPGさながらの羊皮紙で、冒険の地図のような形だ。
シュドは教卓を周り、天人に紙を手渡した。その紙には日本語が書いてある。
「再興プロジェクト。アマト・イワオカ、あなたをこのプロジェクトの実行者とする…」
「簡単に言うと、あなたは転生先の『神』となって、その世界を救って貰います」
「…は?」
唐突に言われた責務。天人は訳が分からなかった。神?再興プロジェクト?文字数も単語数もそこまで多くないはずなのに、二つとも理解できない。
「所謂媚び売りとか貸しを作るとかそういうヤツですよ。もちろん人力とは言いません。文字通り神のスキルを与えるので、ちょっと世界を救ってきて欲しいのです」
「い、いやシュドさん、あなたが…」
「言ったでしょう、私は管理人だと。あなたがこれから行うのは、事故物件の記載を消すために一時的に住んでもらうようなものです」
事故物件。天人はその言葉の意味は知っていた。以前の住居者により、心理的な悪影響が及ぶ可能性のある物件のことだ。
「い、いやそれ厄介事の押し付けじゃ…」
「お願いします。一応、御使いにあたるものをついて行かせます」
「…っえぇ……」
シュドは手を合わせて天人に頼み込んだ。天人も申し訳なくなる。
「わ、分かりました…」
「じゃあ、詳しいことは御使いに聞いてください。お願いしますね、グッドラック!」
風景が回り出す。シュドはいなくなっていた。だんだん視界が白に染まっていく。天人は困惑と不安の中、この先待ち受けることに若干の諦めを感じていた。
(お父さん、お母さん…俺は、神になりました。…ってかなんか俺も開店してるんだけどアアァァァァーッ!?!?)
『転生』『世界』の設定は拘ったので気に入って貰えると嬉しいです!