眷属 参
綺麗だった睦美の顔右半分が砕かれ、目玉が視神経と繋がったまま垂れ下がっている。
しかし目玉は宙に浮き始めた。視神経がギチギチと音を立てながら引っ張られ、目玉は嚥下音と共に消えていった。再び引っ張られる力を無くした視神経は、地面へと風に揺られながら垂れ下がり___
獰猛な雄叫びが、僕の顔の目の前で轟いた。
「危ない!!」
梅貝さんに後ろに引っ張られ、睦美と離れてしまった。
いる。いる。いる!!!
何かがそこに!!
「お二人とも、下がってください!!」
霊媒師さんが僕たちの前に立ちはだかり、何やらお経のようなものを唱えている。
透明な怪物は、徐々に姿形がハッキリ見えるようになっていった。
「な・・・!!そんな馬鹿な・・・!!」
梅貝さんは呆然として立ち尽くし、その怪物を見ていた。
その怪物は、全長おおよそ10メートル近くの龍のような何か。だが、神聖さはまるで感じられない恐ろしい見た目をしている。口蓋にびっしり鋭利な歯が並んでおり、最近ついたのか血痕と思しきものが付着していた。大きく口を開けたそれは、横たわっていた睦美の体を簡単に吞み込んでしまった。
ゴリゴリという咀嚼音、口元にはワンピースがはみ出している。怪物は天へと背を伸ばし、こちらにお腹が見える形になった。
そして嚥下音と共に、お腹がうねった。よく見ないと気が付かなかったが、腹部には縦に鱗のように目が連なっていた。うねりが山となれば瞼が開き、谷になれば瞼は閉じていった。
怪物は満足したのか、ワンピースを吐き出した。穴だらけになってしまったその服に、もう睦美の体はどこにも見えなかった。
「効かない・・・!!お二人とも逃げてください!」
霊媒師さんの言葉に、僕も梅貝さんも動けなかった。この世のものではない怪物に、腰が完全に抜けてしまった。