眷属 壱
「この村にも同じ祠がありますね」
「そうだねぇ」
風岬村に到着したのは、昼頃だった。一睡もせずに移動したからか、足がふらふらだ。それでも村人に聞き回り、祠について聞き回った。そしてようやく、”存在しない祠”の場所にたどり着いた。
前にいた村と同じ祠だ。
「やっぱりサークルの人たちが、神主たちを・・・?」
祠について聞き回るとき、この村の神主が死んだことを聞いた。死に方も、まるっきり同じだ。
「・・・連続殺人の可能性が高くなってきたねぇ。俺的にはまだ人による殺人だと思っているんだけど・・・桜田君はどうかな?」
「まさか、神様だの幽霊だのの仕業だなんて思っていませんよ」
「そうだねぇ。とりあえずこの村に来たからには、まず調べるべき場所があるね。神社だ。行こうか」
「はい」
祠を後にして、この村の神社に向かう。梅貝さんの車の助手席に乗り、窓から外を眺める。雲一つない真っ青な晴天。しかし僕の心には暗雲が立ち込めている。ここでも神主が殺されたとなると、いよいよ彼女が死んでいる可能性が高くなってくる。
もし本当に死んでいたら、僕は立ち直れる気がしない。
「・・・俺は安易に希望を見せるのは嫌いだからさ、どう慰めていいか分かんないや」
「ご、ごめんなさい。大丈夫です。気を遣わなくても・・・」
エンジンをかけ、車のナビを入れた後、梅貝さんは僕の方を一瞬横目にちらっと見た。手にハンドルを握ったまま、じっとしていた。
「この先何があるか分からない。一緒について来るかなんて言っちゃったけど、君は後悔してない?」
「僕は睦美の事を知りたいです・・・怖いですけど」
このまま何も知らずにいるよりか、行動して少しでも真実に近づきたい。大人しくしているなんて、僕には難しかった。
「そうかぁ・・・。その言葉を聞いて、少し安心したよ。行こうかぁ」
神社にたどり着いた。
「人、いるんでしょうか?」
「いるみたいだねぇ」
梅貝さんはそう返事をしながら、登ってきた後ろの階段の方をじっと見た。
すると、カツカツと誰かがこちらに近づいてきている音が聞こえた。
二人でその人物が見えてくるまで、息をひそめて待った。
やがてその人物ははっきりと姿を現した。
「お二人が祠について調べていると聞き、急いで参りました」
浴衣を着た30代ぐらいの男であった。
「あなたは・・・?」
「私はこの村の霊媒師、霊媒師走と申します。微力ながらお力になれたらと思います」
「霊媒師?怪しいなぁ」
「無理もありません。霊は信じる者にしか見えませんから・・・」
梅貝さんは少し訝し気ながら、霊媒師に質問をした。
「霊媒師さん、ここで神主さんがお亡くなりになったんでしょう?じゃあ神主さんの霊に聞いて、犯人が誰か聞いてくださいよぉ」
「それは・・・無理です」
「へぇ、何で?」
「魂ごと食べられてしまったからです」
「・・・残念ながら、俺はオカルトの類はあんまり信じていないんだよねぇ。邪魔するなら帰ってほしいなぁ」
「申し訳ございません。しかし代わりの情報を提供いたしましょう」
そう言いながら、霊媒師さんは僕の方へ向いた。
「あなたの想い人でしょうか?女性が一人あなたの後ろについております」
え・・・?僕は後ろを振り返るが当然誰もいない。困惑する僕を置いて、梅貝さんは話を続けた。
「女性?どんな女性?」
「若い20代の女性です。髪は短めで、薄い黄色のワンピースを着ています」
「そ、それ!!睦美が居なくなる前の恰好!」
「・・・それ本当かい?」
「は、はい。今でもはっきり覚えています」
でも、この霊媒師さんの言うことが本当なら、睦美はもう死んでいる・・・?
「あの霊媒師さん!!睦美は死んじゃったんでしょうか!?」
「そうですね・・・魂はまだ大丈夫ですが時間があまりないようです。この村に召喚された何かが、睦美さんの魂を少しずつ食べようとしています。急ぎましょう。あなたが来てくれたおかげで、睦美さんは私に助けを求めることが出来るようになりました。今から睦美さんに、睦美さんの居場所を案内してもらいます」