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雑談吸血鬼  作者: 丘上
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おまけ9



「リホリホってなんだっけ? 漫画にいたか? あー、ここまで出てる。アイツだよアイツ、えーと。てモヤモヤしながら風呂からあがって検索。カメハメハ二世って誰やねーん。どもー、記憶力の怪しさに定評のあるイチゴの入ったシュークリーム、シューク・ベリームです」


 だからしつこいけど俺の話なんて鼻で笑うくらいがちょうどいい。


「今日のツッコミポイントは墾田永年私財法。三世一身の法の失敗から二十年経って、もう開墾したらずっと自分のものでいいから開墾してくれー、てとこまで妥協した。それでも農民個人が開墾することはない。個人の資金じゃ足りないから、てな説明があるけど失笑だね。農民は財布持ってねーわ」


 例えば金のない社会は盗賊が生まれない。権力闘争とかは別として、個人の犯罪者はほとんど生まれようがない。俺が古代日本のムラに転生して悪党になってやるぜゲヘヘ、とか思っても実行できるのはお野菜ドロボーくらいなんだよ。飛鳥時代くらいに西日本で暴れたお野菜ドロボーの記録はあった気がする。金のない環境ってそれくらい平和。日本のモラルが異常に高い原風景。


「農民が反応しないのは、そもそも三世一身の法から落とし穴が見えているから。地を耕し用水路を作れば自分のものだけど、日本の川も湖も地下水も天皇のものなんだよ? 水道料金上乗せの年貢をぼったくられるのに引っかかるわけないじゃん。その落とし穴は賄賂を渡して回避出来る貴族のための法律なわけ。根本的なズレ、見えた?」


 戦争のない時代の権力者は全員アレ。戦争のある時代の権力者は優秀かっていったら……、アメリカとロシアをニュースで見ながらなんも言えねー。


「だから墾田永年私財法とは、貴族と宗教団体による荘園拡大競争の始まりになる。貴族と宗教団体の私有地が増えれば増えるほど国有地が減って将来の税収が減る。政治の視点では究極に頭の悪い悪法だね。ただ、庶民の視点ではわりと愉快な法律といえる。だってさ、現代はともかくとして、当時は土地より人の数に限りがあるんだよ? 農民の大半は安定したムラから離れないし。貴族や宗教団体の立場で想像してごらん。荘園拡大のためにどれだけ農民をゲットできるかの競争になる。農民に対して過酷な要求ができると思う? 逆でしょ。ウチの荘園はこんなにも好待遇ですよー、いやウチのほうが凄いよ兄さんここだけの話ゴニョゴニョってキャッチだらけになる。貧窮問答歌の類いを鵜呑みにして、昔の農民は貴族から搾取されていたとか思い込んでいる人にはこういう想像ができない」


 画面に映す。九八八年、尾張国郡司百姓等解文。


「これは大学入試問題くらいの範囲だっけ。知らない人のためにざっくり。名古屋に赴任してきた国司の藤原元命(もとなが)がクズだったから、郡司と農民が都の役人に不正を訴えて、元命はクビになった。その訴えが書かれた告発文のこと。貴重な史料だね。国司は代議士で郡司は知事とでも思ってもろて。この事件の問題点は、当時の農民がいかに苦しかったかの証拠と受け取られていること。あのさ、当時日本中の農民が苦しんでいたとして、名古屋の農民が勝訴って噂を聞いたらどうなる? 日本中の農民が訴え出るに決まっているよね。誰だって自分が一番可愛いのだから、ちょっとでも理不尽を感じたら訴えるよね? でもそんな騒動は聞かないから、名古屋だけが特殊な例外だった、てことじゃん。しかも都の役人が田舎の農民を門前払いもせず訴えを聞いて処分してみせた。メッチャ農民に甘い証拠って受け取るのが正しくね? つけ加えておくと、告発文の中身は徴税が不当に多い、労働時間が長い、部下の上前をピンハネしている。つまり、死人は出てないし暴力がヤバいってわけではないし、悪口のネタが少なくて自分たちとは関係ない元命の部下も可哀想ってよく分からん攻撃までしてる。これで勝つって農民がどれだけ大切にされてたか分からない?」


 一四八五年、山城国一揆。


「農民がキレて、京都から支配者を追い出した最初の一揆。守護大名を始めとする武士たちは戦いもせずに逃げた。何故か? シンプルに暴力勝負なら農民が一番強いからだよ。農民の一揆といえば竹槍やクワを持ってそう、というイメージは戦国末期の刀狩り以降の話。それ以前は全員武装しているのだから、数が桁違いに多い農民が武士より強い。平安末期まで農民が大切にされた原因な。外国と違って室町時代までの日本はいつでも革命が起こせた。起きなかったのは、日本を支配するルールが暴力ではなく、空気を読むといった類いの協調だったから。平安末期から武士が台頭してルールが暴力に変わって、この一揆を堺に農民は荒れるけど、なんせ戦国時代に突入したから革命のエネルギーは殺し合いの熱狂にすり替わっちゃった」


 南北朝のころにラスボスの天皇を倒して革命終わり、だったらスッキリしてたかもだけど、天皇は影が薄くなって、戦国大名って中ボスだらけの蠱毒な盤面になった。


 一六四九年、慶安の御触書。


「昨日調べて知ったけど、これ、いつの間にかデマ認定されて教科書から消えたらしい。こういうのを知ると学問もまだ捨てたもんじゃないなって感心する。いやこれ相当頭の悪い文章だからね。農民はアワやヒエを食べて米は控えろ、て正気とは思えない。で、俺が学生のころは、当時の農民はこれほど貧しかったのです、という同意だったから、このせいで俺、歴史学者にあたりが強いんだよ。最近はマシになってたんだな、あらためよ」


 和歌や貧窮問答歌とかもそうだけど、読解力のない学者や教師を軽蔑してた。


「昔、キリスト教の戒律を知ってドン引きした覚えがある。獣姦はするな、ってヤツ。誰もしないことを禁止する法はないし、誰でもすることを命令する法もない。古代ローマは獣姦が珍しくないからこんな戒律があるってことだね。十七条の憲法に獣姦するなとか無くて良かった。そういや第二次大戦の時、東南アジアあたりのどこかの話。現地民が日本兵に山羊をプレゼントした。現地の女が襲われないようにという意図で、当然山羊の使い途は性欲処理のつもりだったんだけど、数日後に現地民が、山羊はどうでしたか? と感想を聞いたら日本兵は答えた。みんなで食べましたよジンギスカンご馳走様。日本のほうがおかしいのか?」


[www]

[わかりみぃ]

[慶安の御触書と関係ある?]


「あるよ。アワやヒエを食べて米は控えろ、ということは、当時の農民はアワやヒエは食べずに米をたくさん食べていた、という証拠だね。そもそもアワやヒエを主食にしていたら現代まで郷土料理としてレシピが大量に残っとるわ。あとアワもヒエもれっきとした五穀、米より下ってことでもない。差別発言がもう頭悪いでしょ」


 画面に簡単なグラフと棒人間を描き描き。


「もっとしょーもない話。分かりやすくするために日本の人口を百人にしよう。十人が権力者、九十人が農民で、百人が一年食える量の米を作っている。これを時代劇でおなじみの百石って単位で呼ぶんだけどおいといて、権力者が言いました。農民はもう米を食うな。すると一年分の米を十人で山分けして、権力者ひとりにつき十人前の米をゲットしました。だからなに? サムライがスモウレスラーにジョブチェンジする以外になんの意味があるの? 売る? 九十人は買わないし、同僚の九人も買わないよ。だから米の価格は暴落する。これが慶安の御触書を実行した場合のシミュレーション。権力者の自爆スイッチポチっとな」


 金はいくら貯めても困らないけど、米はみんなで食べないと食べきれないから、人口の大半を占める農民に食うなと言ったらとんでもない量が余って捨てるしかないから無価値になる。当たり前だよね。教科書を読んでこんな計算も出来ない連中が心底不思議だった。


「こんくらいにしとくか。武力を奪われた江戸時代の農民は不遇だったとは思うけど、最初からずっと不幸と決めつけるのはただの偏見だよ。学問の中でも特に歴史は諸説ありが基本だから、そこらじゅうにおかしな点がある。興味があったら探してみるといい。ひとりで楽しむぶんには正解不正解どうでもいいしね」


 時間はまだまだあるから今日は目新しいゲームを起動。


「期間限定割引きって誘惑に負けてついに格ゲーに手を出してみた。いやー、これオモロイね。ドはまりした。エフェクトが派手でなにが起きているのか分からないし中段のガードがどっちか分からないしダメージ量が意味不明だしいつの間にか勝ったり負けたりしてるしどこに頭使う要素があるのか考えているうちに終わるし対戦相手は全員ドパガキでリアルにパンチしたくなるし、俺今日から格ゲーを本気で取り組むからさ、配信終わる昼までに初見コメント千人こなかったら格ゲー引退しますっ!」


[辞めたいって言えや]

[どんだけ嫌いなん?]

[達成不可能な目標設定w]


 チッ、リスナーの読解力が上がってやがる。


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