5
「開け天界の門、右目に宿りしセフィロトに従いケテルよりセフィラへ、かの生命を繋ぎに来たれシェキナ!」
姉さん(雑)に注射器プスリと手当て。
[厨ニ大好き旧約あざます]
[これ即興て……、真正認定]
黙れ。厨ニの深淵までは逝ってねーわ。
「こんな棺桶漁っても時間と品性減るだけだから行くよ」
『うん。ショボっ』
「ね。これで襲うとか何も考えてなさそー」
精神的なものは物理を超える。チーターを倒した時、ドロドロな感情が流れ込んできて、内心ちょっと不快で荒れそうになったから深呼吸して落ち着かせる。こういうのもあるから良くも悪くも真剣な人の多いランクマッチはイヤなんだよなぁ。さっさと切り替えよ。
「ほら急いで。そろそろ漁夫来るよ」
一チームなら問題ないけど複数来る場合が多いからね。ランクを上げるためのポイント欲しさに誰もが目の色変えるオソロシヤ。
走り続けてしばらくすると後ろで小さく銃声が響いた。漁夫と漁夫がかち合う泥沼、巻き込まれなくて良かった。一応この強者ムーブで惨敗はダサいからチャンピオン取りますとも。反転してポイント稼ぎ? ないない。あそこ、縮小するダメージゾーンに飲まれて下手すると参加者全員消える。高確率で誰も得しないおバカムーブなんだなぁ。
「クッ、邪眼を使いすぎたか」
合間合間に
「おっとグングニル(別のサブマシンガン)発見」
リスナーが喜びそうな小ネタを挟み
「ワンダウン。あれでハイドのつもりかい? フフッ、ネズミを一匹脅かしただけだよ。状況終了先を急ごう」
十分程度駆け続け
「遠くに鉄塔群が見えるかい? 懐かしいな。フォールンエンジェル共の墓標だよ」
縮小の最終地点付近に早めに陣取った。ちなみにしょーもない雑学をひとつ。フォーリンエンジェルだと格下げされた会社や社債の意味になるらしい。じゃあ外れ馬券はサタンかやかましい。厨ニ初級は気をつけよう。
[イキイキしとる]
[むしろ素では?]
[初見です。面白い]
初見ん゙ん゙。部屋で詠唱中に親フラくらいキっツイ。
言い訳したい衝動を抑え、周囲を索敵する。きっといつか良い思い出になると信じて……、って救われねぇ。
表示を見ると生存チームは俺たちを含めて五つ。北の方、来た道を覗いても誰か来る気配なし。やっぱ全滅か。逃げて正解。
細長い塔の屋上で指示を出すけど聞かなくても構わない。雰囲気作りだね。
「兄さんはW、姉さんはSの方角の監視をお願い。ボクはEと一応Nをカバーするよ」
マップに指示アイコンを出すと二人は従ってくれた。姉さん(怪)はともかく兄さん(優)は意外と頼れそう。てか兄さん(無)VC聞こえてる疑惑。外国人だったら申し訳ねぇ。
方角のSだのWだのは画面上部に表示してあるから南や西って言うより伝わりやすいかなって配慮だよ。こんな指示出しは初めてだから正しいかどうかは知らん。
最初のスカイダイビングの時にわざと後降りして他のチームの降下地点の大半を見たから戦況は大体読める。先に来ているとしたらE、東からだ。高所から視界に収まる建物四つを焦点を合わせず眺めていると、窓越しに動く影を見つけた。
マップに敵発見の印をつけるとVC。
『攻撃する?』
「まだダメ。さらにEかSEあたりから来る別チームと交戦するタイミングで仕掛けられたらベストだね」
『ふーん、どうして?』
待ちの態勢になって暇になりそうなのと少しは慣れたせいか、積極的に質問してくるなぁ。てかタメ口って馴れ馴れしい。まぁ俺のロールプレイにノリ良く合わせてくれてると受け取ろう。
「挟み撃ちが一番楽だから。三対三より実質六対三のほうが強いでしょ」
『なるほどぉ。でもその考えを読んで今あちらから攻めて来たら?』
「フフッ、ただのカモネギだよ。こちらはヘッドショットしやすい高所から撃ち放題、あちらは建物を出てノーガード。的でしかないね」
『おぉスゴーイ』
「あちらの賢いムーブは外側に移動して敵を排除しながら迂回して内側へ来る仕切り直し。でも特殊能力使ってガチガチに防御を固めた建物を捨てる判断ができる人ならとっくに上位ランクだろうね」
[立ち回り勉強になります]
[あれっ、実はシュー君ゲームIQ高い?]
[ロールプレイでエアプじゃね]
ははは、知ったかぶりといえばエアプではある。実際は複数のチームが絡むし、一般人だらけのランク帯で無双するイキり配信者が混じってるパターンもあるから想定通りの展開になるわけがない。超特大ブーメランクリティカルすぱーん。
これは基本方針。建物を捨てる判断と同じく、戦況によっては今話した方針を即座に捨てることのできる人が強い。それをエアプとバカにしたければどうぞ雑魚メデターぷぷっ。
悪意のあるコメントではないかも? それはないんだなぁ。リスナーもゲーム内の敵味方も、感情は全て察知してるから。
まぁ本当に他人の感情を全部拾ってたら気が狂うから、心理的なフィルターを作って小さなものはシャットアウトしてるけど、度を超えた悪意は拾ってすぐ反撃可能な心構えはしておく癖はつけている。
余程のことがない限り吸血鬼としての反撃をする気はないけど。
その気になればモニター越しに今のコメデターの生気を吸い取ってミイラどころか塵に変えることもできるコエー。そんなことするようになったら本格的に人類の敵コースだわ。
今だってコメントの流れが早いから見なかったことにする。いちいち言い返してもその他大勢のリスナーが不快になるでしょ? 無視が一番だね。
マップに印が点灯。兄さん(良)が遠くに敵発見。あー、やっぱ混戦になりそうメンドクセー。
「兄さん姉さんはWを警戒。射程に入ったら撃っていいよ。当たらなくても良い牽制になる」
タイミング次第で自分たちが挟み撃ちされかねないから慎重に、と。高所は有利だけどひっくり返すアビリティを持つキャラもいるからなぁ。
新しい詠唱文を考えながら待つこと数分、一度に状況が動いた。
西側は二人の牽制で一チームが足止めをくらい、しばらくは拮抗しそう。
俺の見る東側は建物に陣取るチームに二チームが近付き三つ巴で逆にどこも消極的になっている。要はグダグダ三竦み。
FPSあるある。戦場を俯瞰する人はほぼいない戦術素人だらけだから冗談みたいな展開になりがち。一つのボールに全員群がる小学校低学年昼休みの校庭サッカーみたい。
「さて、全員ボクの掌で不運と踊っちまえ」
[!?]
[あ゛?]
[!!]
反応早っ。あれっ、リスナーは若い女性率高めのはずだけど勘違いか? 忍び笑いと共に建物内の一人にヘッドショット。流石に終盤は防御力高くて俺だけの一撃ではダウンはとれないけど、扉を開けて半身を出して東の敵と撃ち合い削れた瞬間を狙ったからダウン、すかさず次弾を装填して発砲。棺桶に変わった。
これで建物内に二人、外に三人と三人。外二チームは突撃を選んで建物内でじゃれあってちょーだい。
「おまたせ。おやおや削れてるねぇ、じゃお疲れ様でした」
地理的優位を活かして二対三で拮抗しているところに俺が加われば当たり前だけど、西側は特に梃子摺ることもなく全滅。
回復アイテムが尽きた二人に俺の持っている分を全部あげて一息ついてもらっている間に東の戦況を文字通り高みの見物。
おっとビックリ。俺の狙撃によって棺桶に変わるところを目撃したプレイヤーのいるチームがいち早く建物に突撃して、プレイヤー全員の画面に表示されるログから一人死亡を知った別のチームが遅れて突撃したようだが、建物内の二人は建物を出て、突撃して来た二チームが鉢合わせて撃ち合っているところに再突入、勝ちそうな勢いを感じる。真っ先に中心で待ち構える方針といい、このチームだけはベテラン感あるね。普通のランク帯のベテランって哀愁漂うけど。
うん、ダメージゾーンが収縮しきるまでまだ余裕はあるけど勝機は今だな。建物内の勝者が決まって回復させる時間を与えてから動くのは遅い。
「さぁ! フィナーレのカウントダウンだよ。二人共ついてきてね」
塔の先端から三人並んで見下ろす。
「フンフ、フィーア、ドライ、ツヴァイ、アインス……」
[厨ニ大好きドイツ語あざます]
[カウントダウンは英語なのな]
[もう許して、腹筋がぁぁぁ]
「ゼロっ!」
激闘が終わりかけの建物近くをめがけて飛び降りた。
[0はドイツ語知らんのかーい]
[ヒィッ、4ぬ、4ぬるぅ]
空中でさっきから考えてた詠唱。
「開け冥界の門、左目に宿りし七つの大罪に平伏しアスタロトよりベルゼブブへ、全ての生命を刈り取りに来たれルシファー!」
一瞬俯瞰にしてズダンと着地。サブマシンガンのリロード音をカシャンと鳴らし、狙撃銃その他いらないアイテムを地面にばらまく。全く意味はない。そして先陣を切ってダッシュ。
[厨ニ大好き新約あざます]
[へんじはない、しかばねのようだ]
[ちょっとカッコイイと思い始めている自分がいる]
「二人は右手の正面から行って」
壁に向かってジャンプ、三角飛びで二階の窓に手をかけてよじ登って侵入。音でどこに何人いるかは既に把握済み。三階は無人、二階に一人、一階に二人、つまり最初に建物内にいたチームが生き残ってトドメを差しに二階に上がろうとしている、と。ここからは力ずくの蹂躙だ。
「家に固執した地縛霊ども、迷わず成仏しな。りん、びょう、とう、しゃ、かい、あと、なん、だっ、けー」
マシンガン乱射してたらファンファーレと共にチャンピオンの文字。やったぜ。
[最後ひでぇw]
[厨ニ大好き密教たしなんでないのは低評価]
[なんだかんだ勝ったのスゴ]
[ナイチャン]
[gg]
[各宗教団体に叱られろw]
「ナイスファイト。これにて実況終了ありがとうございました」
チャットのほうにもggと打って回線を切った。
ちなみにしょーもない雑学パート2。グッドゲームを略したgg、日本人的感性では毎試合使って良さそうだけど、英語圏の人は試合内容によっては「どこが良い試合やねん煽ってんのか?」とキレるらしいぞ。知らんがな、だね。
ゲームの待機画面のまま今日の総括。
「リスナーを楽しませることに特化した実況、面白かった? でもコレもう無理文化部が体育祭に出た後くらい疲れたぁ」
[有料級]
[シリーズ化希望]
「無理だっつってんだろ。お昼休みに見てくれてる人はリフレッシュできたかな? んじゃ今日はここまでオツカレー」
配信を終えてミスはないかチェックするルーティンも済ませてホッと一息。
見切り発車でスピード出しすぎた。まぁその甲斐あってか流れてくるエナジーがスゴイことになってる。多すぎてもパンクしそうで怖いから人気はそこそこでいいのに調子にのりすぎた。
反省終わり。歯ぁ磨いて寝よオヤスミー。
翌日、チャンネル登録者数が約三千人から六万人に激増してた。何かバズったらしい。