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雑談吸血鬼  作者: 丘上
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 「eスポーツは可能性無限が魅力だね。スポーツのほうは打ち止めじゃん? サッカーバスケを越える人気競技が生まれる気配はないから、選ぶ楽しさがないってのが減点なんですぞチミぃー」


 言いながら狙撃。世界的な大会にeスポーツが加わることがあるのか聞かれて考えをまとめ中。ランクマッチしてるから少しゲームのほうに意識割いてるけど。


 「eスポーツとスポーツがくっつくかと言ったら疑問だな。モータースポーツも仲間に入れろブーンブブンて言う走り屋が絶対現れるし。剣道は当然入りますよね中指でクイッ、てメガーネも現れるね絶対。人差し指で自分のオデコを撫でてから同級生の眼鏡に指紋をつけていつまで気付かれないかゲーム、ダイイングメッセンジャーも良ければどうぞ、と命名者の俺も参加するかも」


 [お前かよ]

 [全メガネのタブーっ]


 とっくに忘れた放課後に他人からバラされた相手との温度差が改善点でしたな。人気種目へのハードルは高い。


 「eスポーツはこの先いくらでも現実には不可能な種目が生まれて盛り上がるのは確実だから、スポーツとは別の道を進むんじゃね? わりと頭オカシイ方向なのは剣道だな。柔道と同じく日本のモノから世界のモノに変えたら、体重別で階級作るとか身長かリーチに合わせて竹刀の長さを制限するとか、ゴッソリ違う中身になるって分かって言ってるならソイツ剣道潰すつもりのアンチだろ」


 それで自分は剣道愛してますヅラ出来るのコワ。


 「まずスポーツと武道の区別がついてないのがダッセー。スポーツは他人と競ってナンボ。武道は自分を鍛えてナンボ。似ているようで全く違う。柔道はとっくに手遅れでスポーツに変わったけど他の武道まで変えなくても」


 [柔道手遅れなんw]


 「柔道はそれでいいんだよ。創始者と言ってもいい嘉納治五郎は、わざとスポーツに変えてでも諸外国と交流して平和を築こうとかって理念があったみたいだから、現状に満足してるんじゃない? でも基本武道ってさ、現実は無差別級で当たり前、不公平な環境で腐らない精神を育むためのツールなんだよ。おまけとして対戦相手に、自分の修練に付き合ってくれてありがとうペコリ、という礼儀も加わったりさ。例えば高校野球は試合の始めと終わりに整列して頭を下げる。外国とかプロはやらない。日本だけは武道の精神がスポーツにも影響を与えている証拠だねー。まぁそのせいで区別がつかないのか」


 [剣道がスポーツになったらオワル?]


 「終わるよ確実に。例えば残心なんて客観的に判定できない気持ちの問題は真っ先に捨てられる。いやそれでいいなら勝手にすればいいけどね。スポーツチャンバラよりチャラくなってオモロイかも。もともと剣道は厨二をこじらせてるしねぇ」


 野良が逃げるから後をついていく。いつの間にか戦闘中にボッチになることも。ソロあるある。お、剣道に興味ありますか。


 「突きだけはチョイ危ないけど、面、胴、小手、防具に攻撃って相手を傷つけるつもりがない。しかも(今から振り上げてあなたの頭を攻撃しますよ)メーン、て舐めプでしょ。剣道は思いやり特化の鍛錬なんだよね。まぁ上級者は奇声コンテストに変わるけど、剣の道ではないのに剣の道がどうとか自分に酔ってる厨二病だからあーなる。本物の剣の道は今も日本に残ってはいる剣術のほうな。コッチはある意味スポーツ寄りの武道、人を殺してナンボの技術を学んで、もちろん実際に試しちゃダメだから自制する精神も養われる侍になりきれる」


 剣術道場では首や太ももなどを攻撃する。安全第一の現代はいろいろ大変みたいだけど。


 「言うなれば宮本武蔵はスポーツマン、佐々木小次郎は武道家なんだな。武蔵は勝つことしか考えないからわざと遅刻したり、小次郎敗れたり、て戦う前からハッタリかまして動揺誘ったり、卑怯な手段も平気でとれる。兵法書を書いたのも勝ち負けしか頭にないからだしね。小次郎は殺し合いに向いてない。人としては小次郎の圧勝だとは思うけど、この人素性不明だからどうかな」


 武蔵はまともなプレイヤーから嫌われるチーター扱いだから生きてる時は理解者いなさそう。


 「武蔵の生きた江戸時代初期がもういろいろこじれていたっぽい。戦国時代が終わって燃え尽き症候群が蔓延していたような空気感? 十六歳まで生きたら上等、みたいな詩を刻んだ刀を振り回す傾奇者と呼ばれる珍走族が暴れたり、侍は庶民を斬っても謝れば許される人斬り御免が流行したり。剣道の原型、竹刀を使った武道が始まったのもこのころになる」


 三位でゲームオーバー。リスナーに一声かけてエキシビションに行こ。雑談だからあまり気にしないけど何喋ってるか分からなくなる。


 「そもそも戦国時代に剣道が流行るどころか生まれてすらいないのだからお察しではある。武将がこぞってハマったのは何か? 茶道だね。百年前だったか、大昔に取材したイギリスのジャーナリストは茶道のことを、ルールのためのルールでがんじがらめのティータイム、と評した。所作の全てが決められていて堅苦しいからね。同じ島国のイギリスでも理解出来なかったかドンマイ。禅僧でもある千利休開発から分かる通り、茶道は禅ありきの思想だ。全ての所作にルールがあるのは、自分の一挙手一投足に集中しろ。おもてなしを重視するのは、相手の一挙手一投足を見逃さずに察しろ。つまり茶道とは、セルフコントロールと人間観察力を磨く鍛錬。明日は誰が敵で誰が味方か分からない世で自分と一族を守らなくてはいけない戦国時代だからハマった。どんなに強くても感情のままに剣を振り回すポンに価値ないから。そして平和な世になると、男は剣道、女は茶道をたしなむようになるのが滑稽だよね」


 こういうガチの意味で女が茶道を極めていたら日本はとっくに女性上位になってたかも。ただでさえ浮気はすぐ見抜くくせにもっと観察力を鍛えられたら、ヒィッ。


 「この世は無差別級で当たり前。チビの嘉納治五郎はチビでも泣き寝入りしない思想の柔道を開発した。だから今の柔道に複雑な思いはありそうだけどね。無差別級って言葉がオモロイ。言い換えると他の階級はガッツリ差別してますけど何か? てことだもん。あれっ、みなさん差別肯定派なんですねぇプププ」


 差別のハナシかぁ。辛気臭いけどしとくか。


 「差別をしてはいけません、このセリフがどんなに下らないか分かる? 自分は差別が何かを理解していませんって言ってるに等しいんだよ。差別の定義は、同じなのに違う、もしくは違うのに同じと思い込んだ無根拠の言動のこと。簡単に言い直すと頭が悪くて恥ずかしい言動のこと。頭が悪くて恥ずかしい言動をしてはいけません? 言われなくてもしねーよ、て返すのがまともな人だよね。具体的にどこが頭が悪くて恥ずかしいのか教えもせずに、差別の一言でまとめて分かったツラするポンが上から目線でよくもまぁ、この世から差別が消えないわけだ」


 同和教育とか呆れる。被害者が可哀想だねぇ、て同情するのが差別と分かってらっしゃらない? プププ。部落差別と呼ばない部落差別は今もそこらじゅうに溢れているのに、見えない? プププ。


 「差別とは頭が悪くて恥ずかしい言動のこと、すなわちフル……、全力時代劇」


 アッブネ、フルチンのナンパ言いかけた。配信者として居眠り運転ガードレールを破って崖からダイブするところだった。とっさにブレーキかけながらハンドル切ってドリフトで頭文字(イニシャル)ってみたけどフルチンのナンパが配管工すぎてヒイウィゴーてぶっちぎって行くから全力時代劇とかわけ分からん例えを出してしまったどうしましょう?


 [ほう(ニヤニヤ)]

 [フルの後が気になるけどまぁいいでしょう]

 [待ってましたっ]


 「はぁぁぁん何でへぇぇ」


 草木も眠る丑三つ時、薄暗い室内で男が二人、顔を突き合わせていた。


 「……、というわけで、大幅な経費削減に成功しまして、秋からウチが独占出来ればと、もちろん便宜を図ってもらう見返りは、(コソッ)こちらをどうぞ」

 「クックック、ウニクロ屋、お主も悪よのぉ」

 「いえいえ、お役人様のお力添えあればこそ、コンゴトモ ヨロシク」

 「合体成功か、邪教の館に乾杯」


 バターン。勢いよく扉を開き、現れたるはシュークリームを頭に載せた貧乏旗本三男ぽい誰か。


 「ようやく尻尾を出したな。ぺるそなからついていけなくなっためがてんファンの恨み、思い知れっ」

 「ソッチ? ええいものども、であえっ、であえーっ」


 「チャチャチャー、チャーチャーチャーチャー、めぇぇえんいぃやぁぁあ、はっ、はっ、ふぅー、でぅおぃぃぃんなあっ、つきぃぃぃぃmtwmp〒#、チャーチャーチャ、チャチャチャ━━」


 [鼓膜逝くっ]

 [奇声やめろ]

 [ムリっ、はらいてー]

 [BGMも口て小学生かw]


 「安心せい、峰打ちじゃ」


 『昨夜未明、ウニクロ東京本店ビルに何者かが侵入し、バールのようなものを振り回して逃走したとの通報をうけ……』


 [現代かいっ]


 「これが差別だよ。してはいけません」


 [言われなくともしねーよ]


 グッド。


 

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