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久し振りにリスナーの要望でランクマッチ中。
「花見かぁ。桜は遠くから眺めて楽しむものであって、近寄りたくないんだよね。ショッキングな思い出だからいつのハナシか憶えてないけどさ、多分小学校低学年くらい、桜の木にビッシリと毛虫……」
[やめてっ]
「オーケー、誰も幸せにならないハナシはやめとこ。危うく今年全国の花見を中止に追い込んだ伝説のネガキャンVtuberになるところだったセーフ」
[くっ、それはそれで気になる]
[また会員限定に怪しげなヤツが増えそう]
「この時期はどこもバタバタしてるねー。俺はあまり縁のない環境だからいつ何が起きてるのか分からないことだらけだったりする。兼業のおかげで外とも繋がるけど、配信なんてプロのヒッキーだからな」
職場も入社退社がどうなっているのか分からん。社員の半数以上がアジア系って良く言えばグローバル、悪く言えばガサ入れされたら詰みそうなダークサイドだから。
ま、ホントに非合法なトコなら関わらないが。
「大学生はもう引っ越しとか済ませてるのかな? なんか春のスケジュールってまったく思い出せない。ずっとぽやぽやしてる感じ。タイミング知らんから言える時に言っとこ卒業オメー新生活フレー」
[ウス、一人暮らし始めました]
「おー、もうキッズ呼びもなしだな。かと言ってリスナーひとりひとりの名は呼ばないけど」
[そういえば呼ばないね]
[わりとそういう配信者多いな]
「多分スパチャを貰うと呼ぶって仕組みがあるからだね。俺の場合は単純に不公平感をなくすため。例えば誰かひとりのリスナーとばかり喋っているような空気感って不快じゃん?」
とか喋りながら戦ってたらゲームオーバー。ソロはなぁ、良い野良二人に当たらないとどうにもならん。こんなん真面目にやってたら病みそう。他の配信者よーやるわ。
キャラ選択はー、あー第六感発動中。
先日一線を超えて、俺もう吸血鬼じゃなくハイエルフやん? 真祖と同レベルの神話級精霊やん? なんて冗談混じりに思ってたらスピリチュアル方面が強化されて軽くビビってる。これ以上変なものが視えるようになるとか勘弁してっ。
配信者になる前からたまにではあるけど妖魔は見えていた。つまりリスナー云々は関係ない野生?の生霊が俺の近くで変質したパターンがあるわけで、俺の進化によって効果範囲が広がるなんて展開は嫌すぎる。
勘に従い索敵と狙撃専門みたいなキャラを選択。なるほどね。少し未来の俺がヒントを囁いているような感覚。
空間を無視できるのなら時間も干渉可能、ただし過去を覗くだけ、と考えていたけど未来もありえるのか? これはマジに考えたら駄目なヤツかも。論理的にはタイムリープは破綻していたような。まぁいいか。使いたくないチカラは使わなければいいだけのこと。
「うわっ、まじかコイツ、流石にこれはねーよ」
俺を含めた三人組のひとりが行き先を操作できる状態で、ゲームスタートと同時に飛行機からダイブ。それはいいけど周囲に他チームがっ、いーち、にーい、さーん……、自分たちを入れて五組て。なんで高ランク帯にここまで頭悪いヒャッハーいるんだよイヤ賢いヒャッハーがいたら怖いけれどっ。
「初動死はしょーがないって割り切れるけどここまでイカレパーティは生理的にムリー、一員と思われたくねー」
前後左右煽り運転されてる高速道路、耐えられますか? 俺コイツらの仲間じゃありませんって叫びたくなるでしょ。
第六感グッジョブ。うわっ、と口にした時点で単独飛行に切り替えた。
「ひとりは勝てないよなー、でもセミはアイツらに笑われると思うとムカつくし、やるだけやったるか」
索敵と狙撃キャラならソロでもある程度はイケそう。
[今の判断早やw]
[普通は諦めるパターン]
[メッチャ分かるけど]
「アイツらのためにも別れたほうがいいのさ。おそらくだけど、初動ファイトを制する俺イケてる、とか勘違いしているタイプのヒャッハーさんだから、コスプレイヤーを口説き始めるカメラ小僧よりイタイですよ、て教えてあげるのが優しさだよねー」
ちゃんと珍走族と呼んで更生させてあげないと。
「で、単独降下を見て早速ボーナス扱いしてくる敵チーム来たかぁ賢い」
マップの仕掛け、レーダーを作動させて広範囲を索敵すると接近してくるのは一チーム。他は遠いから漁夫の心配はないのが安心。と言ってもワンブイスリー、ひとりでチーム相手は博打みたいなもんか。ちょっと本気出そ。
スコープで三人を覗いた後は周囲のコンテナを漁って武装を調えながら耳をすませて接近を待つ。三人を相手に遠距離攻撃は、いくら防御力が低くて倒しやすい序盤でも時間がかかって結局一人逃がすとかってオチになる。うん? もちろん全滅させる前提で戦うぞ。
「ククク、仲間二人消えた、早っ。どーせ今観戦モードでこの画面にしてるんだろうね。復活させるのが当たり前とでも思って。しねーよ。指くわえて見てろ」
頭の中のカウントダウンに合わせて、遮蔽物にしていた壁に沿って半身を出し、スリット越しに狙いをつけて狙撃。壁を飛び越えてワンダウンの確認と同時にアビリティ発動、短距離瞬間移動でダウンした敵の右方高台へ。倒れた味方を向いたプレイヤーの背後頭上からサブマシンガンフルオートでツーダウン。即座に狙撃銃に交換して、逃亡を選択した残りひとりを背中からヘッドショット、ソッチは俺から射線通りまくってるんだよドンマイ。三人は全滅判定で棺桶に変わった。
[瞬殺ヤバー]
[クリップ確定]
[ここはマジにショートあげて]
「序盤はワンショットキル出来るから大袈裟だよー。と言いつつドヤ顔解説すると、このキャラは遠くからスコープで覗くだけで相手の装備や質を見抜けるじゃん? 狙撃した二人はヘッドショットされた場合のダメージを抑えるヘルメットを被ってないから狙い、ヘルメットを被った一人は近接を仕掛けた。こういうのも立ち回りだから参考にするがいいフハハ」
クリップと呼ぶカッコイイシーンの切り抜きそんなにいいかな。俺はオモシロシーンのほうが好き。このゲームと落下死で検索してみ? 何回観ても笑える切り抜きがいくつもある。
「とりあえず三キルでポイントは十分に稼いだから、ここからは安全重視で高順位を狙ってくぞー」
具体的には漁夫だな。三対三で戦ってるトコに遠くからプスプス当てて、あわよくば、くらいのノリでいこー。
あ、VCは切ってるけどチャットにウザい何かが書かれる予感がしたから先回りしてブロック、と。記録が残るチャットは暴言はほぼないけどアウトにならない攻撃ってあるからね。何でコイツらってそういうトコばかり腕を磨くんだろ?
[流れるようなブロックw]
[害悪には容赦ねぇな]
「ブロックしたら二度と同じチームにならない、という仕組みだったらいいのにね。なんでもそういうゲームはあったらしいけど、妨害のためにプロゲーマーをハブる事態が起きたんだとさ。いやプロなら組む味方くらい揃えろよ、とはならなかったのかな? まぁいやらしいハナシ、このテのゲームのプレイヤーの半数は問題ありとして、チーム拒否可能にしたらゲームが崩壊するのかも」
モラルのない人にも支えられているゲーム、て情けないけど。
「不満ばかり言ってないで理想のゲームを考えてみるか。花見の席取りを巡る高度な心理戦。立派な桜には多くのプレイヤーが集まり、貧相な桜は人気なし。でも占領し続けて陣地を広げれば、激戦区で負けてポイントゼロの連中よりずっとマシ。リスクとリターン、どちらを取るか? 使用キャラによってバフ・デバフの差がエグい。新入社員ゴギョウはスタミナ無限だけど出来ることが少ない。そこウチの縄張りっス、と他プレイヤーを牽制し続けることしか出来ず、陣地を削られると奪い返せない先行逃げ切り型。営業部長ハコベラは敵が目を離した隙に陣地を拡大していく速度が最も速いが、ヘイトメーターが溜まりやすく、横領、セクハラ、パワハラなど、気を抜くと捕まってゲームオーバー。OL三年目のスズナは要領の良いバランス型。ただしストレスメーターが溜まりやすいから、ハコベラをセクハラで訴えるトラップを仕掛けられるかがチャンピオンの……、て減り早いな」
ログの流れが早いからとっくに気付いていたけど、こりゃプロかプロ級チーターのフルパが暴れてますなー。
初動で爆死するイカレ集団がいたこともあって、残り五部隊。ちとヤバそう。
[ぐぅ、気になる]
[春の七草優雅だね]
お、良く気付いたな。ホトケノザが人名ぽくないからイロモノキャラにしようか迷ってた。まぁ思いつくままに垂れ流してただけだけど。
最終安全地帯に駆けつけるころには残り三部隊、が二部隊に変わった。
アチャー、漁夫れる可能性消えた。
激強フルパにひとりはムリムリ。でも、なーに勝利を確信してニヤけてんの? 吸血鬼、もといハイエルフ、いややっぱ吸血鬼のままでいいわ変えるのメンドイ。吸血鬼センサーに頼るまでもなく、敵チームの三人は無防備に全身晒して俺を見ているとかナメてんね。そういうトコだぞ。表のスポーツマンにお前たちがまったく届かないダッセー性根。
しばらく黙る。全力吸血鬼に震えろ雑魚。
固有必殺技発動、特殊スナイパーライフルで左端、二階建ての小さな砦の屋上に突っ立ってた間抜けをヘッドショット。倒せはしないがデバフ付与、即座にアビリティ発動、砦の手前の通りの遮蔽物に隠れる。
足音接近。俺がトドメを差すために射線の通らない砦の一階から上を目指すと思うよな? デバフまでかけたんだから一枚落とすチャンスと思うって思うよな?
FPSって心理戦でもあるんだぞ、もっと頭を使え。
砦の屋上にひとり、回復中。そこに建物伝いに上からひとり駆けつけた。もうひとりは地上を走り、外から一階を狙おうと俺の目の前に飛び出した。俺が一階、この先にいると思い込んでいるから銃を構えもせず横面晒した間抜けをサブマシンガンフルオート。ワンダウン、からの弾倉交換してもう一度フルオート、棺桶に変えた。二階からの射線は切れているから攻撃は受けない。
九、八、七、六。
足元に転がす感じで一階出入り口の扉の前にグレネード投擲。
リキャストタイムが終わって再び使えるアビリティ発動。五十メートル離れたビルの屋上へ。
五、四、三、二、一。
扉が開くと同時にヘッドショットと爆発でツーダウン。ついでに扉が破壊されて遮蔽なしだから狙撃を続けて棺桶に。
ま、これくらいで許してやるか。例えば俺がどこに隠れているか見えているチーターだったら潰すつもりだったけど、普通のプレイヤーらしい。
砦に突撃。階段の上から連射された。ちょっと脅しすぎたかな? モニターの向こうで「く、来るなぁ」とか言ってそうな反応。
気にせず階段を駆け上がると、弾倉交換を終えた直後の敵と俺がほぼ同時にフルオート。
[惜しいっ]
[メッチャカッコよかった]
[ひとりフォーカス痺れたー]
「はぁーーー、強くなったなぁ、タカシ」
[!]
[ま?]
「お待たせ。タカシ、そして伝説へ」




