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『第二八四回、パラパラチャーハン・チャレンジを開催します。実況はワタクシ天使のシューク、解説もしくは常識人枠は悪魔のベリームさんでお送りします。ベリームさん、よろしくお願いします』
『常識……、よろしくお願いします。何百回もしているのですか?』
『ワタクシの知る限りでは十回いくかどうかでしょうね。元ネタの中国では一日三秋が来日すると一日千秋に変わることを思えばカワイイだろ、とは本人のコメントです』
『返しを用意済みとは手際が良いですね。何故料理に活かせない』
『なにやら今回は勝算があるらしいですよ』
『まぁ勝算のない料理は闇鍋くらいですが』
『あと今回はコンロの周辺に一カメ、二カメ、三カメを用意しました。ついにパラパラに成功する瞬間、リスナーよ歴史の生き証人になれ、と本人は意気込んでます』
『トキの孵化?』
『あ、中華鍋が置かれて火が入りました』
『おや、彼はお玉でチャーハンを作ってましたか?』
『流石ベリームさん良くお気付きに。これこそが秘策らしいです。今まで彼はフライ返しでチャーハンを作ってました。液体をすくうお玉を使う意味が分からない、ましてや木のしゃもじてっ、と鼻で笑っていたのですが、プロの中華料理人の動画を観て答えに辿り着いたそうです』
『常々疑問に思っているのですが、彼、本当に中華料理人をリスペクトしていますか?』
『リスペクト、オマージュ、ワンチャン、便利な言葉ですね』
『確かに可能性ゼロは滅多にありませんからね』
『プロは鍋に投入したご飯の塊を、お玉で優しくノックします。するとアラ不思議、なんらかの特殊合成映像を疑いたくなるほど塊は解れてパラパラに変化するわけです。それを観て彼は呆然と呟きました。風の谷あった、ホラ、怖くない』
『可能性ゼロあった』
『あ、いよいよプロのインチキを再現する時がっ』
『百歩譲ってインチキだったとしたらソイツプロじゃないから』
『あぁぁーっと(一カメ)、あぁぁーっと(二カメ)、あぁぁーっと(三カメ)』
『でしょーね』
『お玉でペチペチ叩くだけっ。苦し紛れに鍋を揺すってみるも変化なしーっ』
『心の折れる音ってペチペチなんですね』
『リスナーの皆さんにお見せしたいっ。今本人虚無顔』
『きょじんへいきが溶けた時の副官の真似ですねソックリ』
注、このあとベチャベチャチャーハンは
オババ様みたいな男が完食しました。
良し、編集終わり。
会員限定コンテンツに登録してひとやすみ。
もうピン芸人の大会出ても戦えるんじゃね? とか妄想しながら蜂蜜生姜湯をすすってホッコリ。温まるぅ。
こんなネタ動画ばかり作ってるからリスナーにはメシマズ系と思われてるけど、いや普通に料理出来ますからっ。
たんに俺の期待値が、「大将、やってる?」て暖簾をくぐるだけで。そこ暖簾じゃなくてハードルなんですけど、ってヤーツ。
タブレットつついてネットサーフィンしながらふと思う。まったくお出かけしてないな。
まだ寒いけど震えるほどではなくなったから次の休みに近場の登山でもしてみっか。
配信始めてから旅行など遠出の選択は消えた。もともとインドア派だから何も苦ではないけど。積極的な連れがいると付き合わされるタイプだな。
ただまぁ毎日ネタを探すやってみた系配信者ほど飢えてはないけど、刺激はあったほうが良さそう。
東京自然少ねぇなぁとか謎の田舎マウントを発動しながら近場の観光地をビューってたらそろそろ時間だアッブネ。
「あー、もう朝? アレッこんな時間か。はぁー、肩バッキバキ。うぃーす、三日は寝てないブルーベリーの入ったシュークリーム、シューク・ベリームです。は? 全然元気だし」
[こんちゃー]
[その小芝居ずっとやるん?]
[もう普通に言えよw]
「料理シリーズ。普通に作ってちょっとアテレコでボケてるだけなのにウケるの何か納得いかないけど、まぁ後で観ろー」
[アレ公開したらいいのに]
[パンナコッタリベンジは悔しいけど五回は観た]
最後閃いてオーブンに入れて出したらクレームブリュレになってた我ながら神回な。
「とか言いながら自分たち少数がダイヤの原石磨いてるの楽しいんでしょ素直じゃないなぁ」
[備長炭]
「同じ炭素でも見るだけの宝石より価値あるじゃねーか褒めんなって」
[ポジティブモンスター]
[解釈させたらヤベーな]
「ニーチェだっけ? この世に事実は存在しない、あるのは解釈だ、て。いい言葉だねぇ言ってみてー。すれ違いの一番好きな話は東方見聞録だな。今は誰でも検索して情報がすぐ手に入るから起きないすれ違い、歴史はこういうネタが転がってるから好き」
最近はエキシビジョン。ランクマッチは見たいコメするリスナーがいる時だけにした。オレンジの上、最上位のプリズムはヒロユキの口を借りて言った通り、フルパで一日中ゲームするガチ勢専用だから狙う気も起きない。
「例えばマルコ・ポーロは、アフリカに一角の生えた馬のような動物がいた、と語った。みんなはサイのことを言ってるってすぐ分かるでしょ。でも十三世紀だったかな、のヨーロッパ人はサイを見たことも聞いたこともないから、脳裏に思い浮かべた動物はファンタジーのユニコーンだった」
俺は恵まれてる。好きなことをやって結果がついてきている。
「東南アジアで竜退治の話も、ヨーロッパでは嘘と決めつけられたけど、嘘ではない。ソイツの通り道、下り坂の斜面から刃物が出るように埋めておくと、ソイツは巨体で滑り落ちる時に自滅する、て今でも行われているワニ退治だね」
可愛い女性Vtuberを見つけた。まぁ可愛くない女性Vtuberはいないか。よく喋るしよく笑う。同じゲームを楽しそうにプレイする。他をチェックすると歌も歌っていて上手。デビューして一年くらい。
「そんで最高傑作は誰もがご存知黄金の国ジパング。マルコ・ポーロは嘘をついていない。ポイントは、彼は来日はしてない。じゃあ誰から日本の話を聞いたのか。十数年暮らした中国で地元民からに決まってる。じゃあ十三世紀の中国人は日本人をどう見ていたのか。当時は交流が絶えていたから、彼らのイメージする最新の日本人は、九世紀まではよく来ていた遣唐使になる」
俺と同じポテンシャルがあって、俺より売れそうなのに底辺。俺と同じくカタギのお仕事しているようだから悲壮感はないし、もとより上から目線で憐れむ気もないけど、そういう人を見ると良縁こそが大事としみじみ思う。
「遣唐使の使命とは、唐から最新文化と呼べるモノを可能な限り全部持ち帰ること。空海のように個人で留学した人もいるけど、大半は権力者のパトロンがついていた。当時の日本と中国に定期便なんてなく、唐に渡ると日本に帰れるのは何年後か分からない。結局帰れなかった人もいるし。そんな状況で基本にして一番大事なこと。生活費ってどうするの? 答えは、ヒくほど大量の砂金を持たせて派遣した。唐のお金はあまり持ってないし、あったとしても価値の乱高下がヤバそうだから砂金か加工した金塊が無難になる。で、唐で学んで数年、日本から迎えの船が来ました。遣唐使は帰る前に何をするか? 有り金全部ぶっこんで爆買いじゃー。フハハハその棚からその棚まで全部チョーダイ、という狂騒を中国人は見ていたわけ」
今推してくれる人に最大の感謝を。だから会員限定コンテンツを充実させることが楽しいのさー。
「知ってるか? 東の果てににーぽあんという国があってだな、その国は金が腐る程余っていて黄金の国と呼ばれているんだぜ。と地元民から聞いたマルコ・ポーロはそのまま鵜呑みにしたわけ。中国人のこの話し方には毒がある。基本古代の中国はぶっちぎりの超大国だったせいで周辺国を蔑んでいてさ。一番わかり易いのは卑弥呼。卑しいと呼ぶなんて、日本人がトップにそんな名付けをするわけないでしょ? 邪馬台国もそう。中国人による当て字、珍走族の夜露死苦と同じ。ヒミコの時代の日本に漢字は定着してないから正解はわからないけど、日神子ってとこじゃね。というわけで、中国人は黄金の国なんて信じていたのではなく、爆買い遣唐使の伝説をからかっただけなんだけど、外国人の丸子には伝わらなかったのであった。あたしゃ疲れたよ」
最後だけナレーション風に。そして女声で〆。
[別人w]
[クソッ、気付かなかった]
[薄々は察したさ]
「テメーらは何と勝負してんだよ。こんな風に遣唐使は爆買いして帰れば依頼達成だからポンだらけ。パトロンなし、つまり生活費は自腹だから現地の寺に住み込み、必死に知識の習得に励んだ空海が一番優秀として後世に名を残すのはスカっとしない?」




