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雑談吸血鬼  作者: 丘上
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 早朝。帰宅途中に毎度すぎて飽きた妖魔をサクッとエナジードレインしたら、突然答えが分かった。

 レベルアップのおかげか。にしてもこの、過程を無視して結論が下りてくる精神文明? のシステムは馴染まないなぁ。仏僧じゃあるまいし、悟った、とか受け付けないんですけど。


 答え? 胸糞だった。俺と妖魔って同類らしいハハハ俺をこうしたヤツ絶対◯◯す。


 まぁアレだ。赤ちゃんがいずれ聖人君子に育つこともあればチンピラに育つこともある。同じと言われて同じになる気はねーよ。


 はぁー、俺って二月に花粉症にかかるのか。眼球洗いたいって表現分かるぅ。早よ帰ってコタツに避難せねば。


 帰るとしばらくボリューム大きめでギターを鳴らしてカラオケ。今は無心になりたい。ひとりで考えすぎるときっと壊れる。

 一時間ほど歌えば気も済んだ。問題ない。もともと世捨て人になれるタイプだし、なにより今はひとりであって独りじゃない。


 動画編集とか細々(こまごま)とした作業で気を紛らわせてそろそろ始めるか。


 「どもー、ファションで伊達メガネをかける人がなんか許せない視力抜群のイチゴが入ったシュークリーム、シューク・ベリームです」


 [こんちゃー]

 [あん? いきなりケンカ売ってきたな]

 [コチラ本物メガネ]


 「メガネはなぁ、レーシックとか言うんだっけ? あの手術を怖がる不器用な人がかけるからイイね、の高評価なんだよ。伊達メガネ? ハッ。天然に混じる産地偽装どもがぁポテチ食った指でレンズ触ってやろか」


 喋りながらいつものゲームをスタート。少し前からランクマッチを始めてもうすぐオレンジ、高ランク帯に行きそう。実力に見合ったランクまで早く上がるからあっという間だった。


 [人のメガネとスマホは触んな]

 [伊達はいいよね。本物は高くて]


 「あー、らしいね。数万円は飛んじゃうか。要領のいい人は手術しちゃうんだろうさ。俺も無理な側だな。眼をつつかれるって相当な恐怖じゃんか」


 野良の後方から狙撃中心に援護しとくと楽。困るパターンは、と思ってるそばからコレか。


 「まーた初動ファイトしたがる野良かぁ多いなぁ」


 三人一組で飛行機から飛び降りて、うち一人が行き先を決めるんだけど、他のチームが降りる場所に被せる人が結構いる。順位にこだわらないから負けてもいいんだけど忙しいからヤダ。


 [近接観てるの好きだぞ]

 [天然だけになったら肩身が狭い]


 「いやいや、希少性が高まるほうがオトクだって。レーシックより簡単に視力が良くなる方法が生まれるとして、伊達メガネだらけになるとして、それでも天然は消えないって断言できるね」


 近接しながらでも喋るけど。なんか倒された野良が自分にピン連打でファファファファ音鳴らして起こせアピってくるけど無視。敵が近くにいるのに起こしていたら隙だらけで撃たれてゲームオーバーって見て分かんないかな? 分かんないから初動ファイトしたがるのか。パープルランク、もうそれなりに高いランクなのに草。


 [メガネが消えるルートはナシかよ]


 「消えるわけないじゃん。え、百年二百年後はメガネ男子とメガネ女子は絶滅しているとでも? 笑止」


 もう一人の野良と協力して敵チームを倒し終えて、落ち着いて物資を漁る。蘇生? もう一人がするんじゃね?


 「メガネが消える可能性が少しでもあったら腕時計はとっくに消えとるわ。これこそ金をかけて本物をつける意味が分からないお洒落アイテムでしょ。もう中身カラの伊達でいいじゃん。時計のフリして猫の写真でも貼っとけば幸せじゃん。ずっと見てられるわ作るか」


 まぁ全部スマホでいいんだが。もうアイツひとつでいいんじゃね、てことか。

 おっともうひとりも無視か、流石に可哀想だから蘇生、と。次うるさかったら放置ってことで。


 [おー、時計は絶滅しそう?]


 「それはないんじゃね? テクノロジーを纏う自分イケてる、てアイテムだから。アナログ懐中時計の頂点、カンストはマリー・アントワネットが持ってたヤツらしい。うるう年にも対応したカレンダー、アラーム、百分の一秒まで測れるストップウォッチ、歩く振動で自動でゼンマイが巻かれるとか意味不明なブツだったらしいぞ。スイスの時計職人はオーパーツを作れる域まで飛んでるから、時計の生産が消えたら代わりに何作るか結構怖い」


 また突撃すんのか血の気が多いな。逃げ腰よりはマシか。援護援護と。


 「マリーが多機能時計を使いこなしていたらウケる。そういやこの人、月イチの入浴で潔癖症呼ばわりされていたとか。俺潔癖症じゃないけどヨーロッパ無理ー。嘘かホントか分からないけど中世のパリは汚物を窓から捨てていたとか、フランスのキタネーエピソードって度を超えてない? どうやったらその環境で美食が生まれたのやら」


 [臭けりゃ香水使えばいいじゃない]


 「マリーってるねぇ。あの迷言って悪意ある解釈らしいぞ。同じ小麦を使うのにパン組合とお菓子組合に分かれて売値が違う指摘が歪められたとか。第三のお酒みたいなメンドクセーことずっとやってるのな」


 仲間が撃ち始めた敵に狙撃。なんちゃってフォーカスがかなり強い。一枚ダウンしたら即詰める味方。うるさくないほうは分かってるねぇ。


 「酒はまだマシか。煙草の値上げは容赦なく続いたねー。俺吸わないけど世間の風当たり強すぎて同情する。歩きタバコは通り魔扱いじゃん。なくすのはいいけど攻撃性高すぎてコエーよ。どう考えても喫煙者より酔っぱらいのほうが桁違いに人を害して迷惑かけてるのに、変なの」


 [電子タバコに変えた]


 「タバコがダメなら電子タバコを吸えばいいじゃない? アレ仕組みどーなってんだろ。なんかスゲーハイテク感出してるけどぶっちゃけダサい。アレ吸うキャラが漫画に出てもイマイチだろうな」


 [今の連携スゴ]


 仲間がアビリティ使って敵に接近するのに合わせて俺もアビリティ発動。近距離瞬間移動で敵の横に展開してサブマシンガン乱射。一瞬で片付けた。


 「ソロでも野良と息が合うのは楽しいね。てかこの人上手いな」


 [タバコは絶滅?]


 「日本ではしそうな勢いだねー。トルコ文化が流行って水タバコが普及したらオモロイ。ストレス社会で抑圧するような方向はかなり怖いんだけどね。アニメのワンシーンに喫煙があって批判された話はゾッとする。現実とフィクションの区別がつかない人がたくさんいるんだなぁ」


 [子供の教育に悪いって常套句]


 「ハハハ、だね。何が良いか悪いか取捨選択させるのも教育だろうに。子供に良いものしか触れさせたくないって、自分の低すぎる教育力じゃ対抗できないって情けないことを胸張って言ってる自覚ないんだろうさ」


 ダラダラ喋りながらチャンピオン。チャットにgg、と。


 [ナイチャン]

 [やっぱ普通に強いやん]


 「午前中はチーター少ないような? まぁプレイ人口が少ない時間か」


 おかげで警戒するほど変なのは少ない。

 続けてマッチングを選ぶと二名の仲間はさっきと同じ。人が少ないから余計にあるある。


 「いつか話した今の文明の行き着く先はロボットかメタバース。そのころまでメガネだの腕時計だのタバコだの酒だのが残っているかは不明だねー。メガネは最後まで残るに昼飯を賭けよう」


 また同じヤツが初動ファイト仕掛けに行くとかマジか。むしろさっき成功したから勘違いしてるのか。まぁいいや。


 [誰が判定すんだよ]


 「そこは妄想シミュレーションに付き合えよ。全員俺のガワみたいにアバター選んで画面の中で暮らす時代が来ました。ハイ酒タバコ消えたー。飲むフリ吸うフリはできるけど実物ではない」


 倒されるんかい。ピン連打はしないから少し賢くなったと褒めてやろう。さっきの延長だから、もうひとりの仲間との連携はスムーズ。敵ひとりを片付けて時間が空く隙に蘇生してあげる。


 [メガネも実物ではないじゃん]


 「甘ーい。この銃のスコープと同じだよ。つけると解像度が上がるのだ。具体的に何が見えるのかは知らんが」


 [それ言うなら最後まで残るの時計じゃね?]


 「時間ってさ、太陽の周りを一周したら一年、日が昇って落ちてまた昇る一巡りを二十四時間、一時間を六十に分割して一分、てな概念じゃん。全員メタバースで暮らすころはさ、もうとっくに太陽系を離れてると思うんだよねー。つまり時計があるとしても、今とは全然違う何かに変わってる」

 

 漁夫をテキトーに撃って散らして安全圏を目指して進む。


 「だから最後まで残るのはメガネなのだっ。俺の昼飯は守られたセーフ」


 [オカルトとやらに進むルートはないの?]


 「ないんじゃね。人はもともと科学とオカルト両方の属性を持っている。誰もが持つ、科学では説明できない最たるものは魂だね。そこから派生して、人によっては守護霊が視えるだのオーラの色が視えるだの勘が鋭いだのスピリチュアルなチカラを伝え聞くわけだけど、そういう話を怪しいで片付けなかった時代ははるか昔だからね」


 人目線でしかないはずのミクロとマクロ、量子力学と宇宙物理学がファンタジーなこと言ってるからワンチャン今後科学が崩壊とかありえる、のか?


 ダメージゾーンが収縮した最終円で四チームがグチャグチャにぶつかって俺たちは三位。まぁしょーがない。よくあるよくある。


 [ナイファイ]

 [シュー君大丈夫そ?]

 [今日少し変?]


 な、んで。この人たちこそ感情でも読めているのか? てくらい鋭い時があるの何だろ?

 あーもう、花粉症やめろ。


 「大丈夫。……あり、がと」

 


 

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