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雑談吸血鬼  作者: 丘上
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 「それはムカつくな」


 NAKORUKINの名で人気FPSの配信中、本人は義憤に燃え上がった。本当に義憤かどうかは怪しいがとりあえず怒ったつもりではいる。


 『でしょ。ナコ君はいつも頑張ってるのに不公平だよね』


 配信画面に映る同接数は一人。底辺も底辺。NAKORUKINことナコはまったく人気がなかった。男子高校生が無言でゲームをしてあわよくばスターダムを駆け上がるかも、と夢見ている配信に現実は厳しい。ネーミングがビミョーにパクり気味な点もマイナスだが本人は気付いていない。


 そんなナコも最近は舞い上がっていた。何度も暖かいコメントをしてくれるリスナーが一人できて、その人はゲームをしなくて観るのが楽しいらしいが、チャットやボイスチャットが使える汎用ツールを持っていたから繋いで会話してみれば女性だった。しかも本人曰く、高校生。ハンドルネームは乱れ雪月花、ユキちゃんと呼びはするがなんか渋くてエロい。


 ユキちゃんことミカはつまらないゲーム配信を観ながら、マイクに入らないようソっと溜め息をついた。思ったより大変だったがあともう一押しだ。


 シューク・ベリーム。人の恋路を二度も邪魔したヤツ。馬に蹴られて死ねばいいのに今日も元気に配信している。何より自分に恨まれていると気付いてないのが腹立たしい。


 情報収集目的でゲーム配信をハシゴしていたころに観たひとり。他の配信者と違ってまるでやる気がなく、ずっとウンチクを語ったりリスナーと他愛のない口喧嘩したり鍋奉行になって具のポジショニングとタイムスケジュールをサッカー選手に置き換えて解説したり、やたらうるさくて印象に残った。

 ゲームのプレイヤー名は各種ベリー。憶えていたから気付いてしまった。


 タカシの時はたまたまだ。そんな偶然もあるのだろうと、苛つきはしたが見逃した。

 だが、ヒロユキの時も倒したプレイヤー名に各種ベリーと表示されてミカは復讐を決意した。


 多少人気はあるようだが所詮はなんの後ろ盾もない個人勢。同じ配信者をぶつけてやればいい。

 ミカはテキトーに底辺配信者を探し、ナコに目をつけて近付いた。男なんて全員チョロい。少し(おだ)てたら鼻の下を伸ばす。そのくせ無駄にプライドが高くて最後の一歩で日和(ひよ)る習性はなんなのか。


 ミカはナコにそれとなくシューク・ベリームの話をした。配信中の配信者に他の配信者の話、ましてや悪口と受け取られるような話題はNGなのだが、指摘できる良識者はどこにもいない。

 いい加減な態度でゲームするアイツに人気があって、全力でゲームするナコに人気が出ないのはおかしいよね、という方向で話したらイチコロだった。なにもおかしくはないのだが指摘でき以下同。


 「俺さ、知り合いの配信者たちとよくフルパで遊んでるからさ、ソイツらにも声かけてみるよ。チョーシに乗って俺たちの戦場を荒らすチャラ男はボッコボコにしてやる」


 ミカは微笑んだ。あとはゲームとは別の、今繋いでるツールのVCでナコたちの声を聞きながら、シューク・ベリームの配信を観てやればいい。自分は何も関与していない。

 流石にミカは、一歩間違うと法に触れそうな危険なことをしている自覚はあった。自覚のない、ネットリテラシーの欠けたナコが愚かなだけで。


 ここから先は自分は傍観者。お前たちだけで破滅してね。シューク・ベリームが粘着されて声を荒げて暴言のひとつも吐いてくれたら上々。この捨て垢で切り抜いて拡散してやる。


 そしてついに決戦の時。

 午前中に遊べる休日にメンツを揃えていざ出陣。ナコと仲間の二人はゲーム外でVCを繋いでゴースティング、シューク・ベリームの配信を観ながらエキシビジョンに何度か参加していたらやっとかち合った。


 「キタっ、行くぞ、ビグス、ウェジ」

 『ユキちゃん観ててねー』

 『今日の俺、誰にも負ける気しねぇ』


 三人で固まって移動してたらソッコーバレた。配信観てたらチーミングって言い当てちゃってる。


 『おい、ヤベーよ。よく考えたらこれ確かにチーミングじゃねぇか』

 『運営に報告されたらBANじゃね?』


 よく考えなくてもチーミングだ。そして報告されて即BANするほど運営も暇ではない。これでBANされるならチーターは撲滅している。


 「落ち着けっ。ゴースティングはバレてねぇ。さっさと襲ってやっちまうぞ」

 『あーっ、コイツ笑ってやがる。ぶっ56す』

 『一気に詰めろっ』


 三人は突然犯罪者になっていろいろ終わりそうな不安に襲われて、変なスイッチが入った。出ちゃイケない脳汁出てラリった。


 『ハッ、なーにがドコに出てくるか分かるだっ。じゃあ当ててみろやっ』


 ピコーン 〜スパイダーハイ〜


 ビグスは建物の壁をよじ登り、二階に侵入した。


 ピコーン 〜レインショット〜


 二階の窓から下を覗くと……、発見。ビグスは忍び笑いを漏らした。見当違いの方向に銃口を向けている間抜けに狙いを定め、閃きのままに新技を放った。普通に撃っただけだが。


 ……、ドンピシャのタイミングでスライディングして避けられた。そのまま相手はビグスに照準を合わせようとしている。ビグスは慌てて避けようと思ったが間に合わない。


 ピコーン 〜金城鉄壁〜


 今ならなんかサブマシンガン程度の攻撃は跳ね返しそうな気がする。気がするだけだが。


 ……、ヒット。狙撃銃は無理でした。一発が痛すぎて瀕死。


 『ビグスっ、大丈夫か? っの野郎』


 ピコーン 〜縮地〜


 ウェジはダッシュした。普通に。


 ピコーン 〜オール・オア・ナッシング〜


 アサルトライフルの全弾発射(フルオート)。……、全弾外した。


 ピコーン 〜空蝉の術〜


 分身を出して幻惑したつもりだが本体にダメージ。そりゃ相手の見ている前で分身しても。


 「二人とも落ち着け。バラバラじゃなく連携キめるぞっ」


 ピコーン 〜四神相応〜


 三人は三方向に散った。東西南北、ひとつ足りない? 誰も気にしない。


 ピコーン 〜ジャッジメント・リング〜


 ナコは牽制射撃した。当たらない攻撃も物は言いようだ。


 ピコーン 〜エクスプロージョン・ダイナミック〜


 ビグスはグレネードを投擲した。あさっての方向に。


 ピコーン 〜一人時間差〜


 ウェジは物陰で回復してから顔を出したら敵を見失ってキョロキョロしている。


 バシュウウウン 〜三連携 四神ジャッジダイナミック時間差〜

 

 ノーダメージ。ナコは挨拶代わりのようにヘッドショットを喰らった。


 『協力と言うならフォーカスと呼ぶ同時攻撃ができなきゃ論外だよ。フルパが強くて当たり前の理由だね。もしかしてこの人たちはエキシビジョンで練習のつもりだったのかな? エキシビジョンにも三人一組モードはあるのに、チーム戦じゃ何もできないからソロを相手にチーミングでガンバローて? プッ、ククク……、よっわ』


 観られているとも知らず、相手は狙撃銃より重い一撃を放ち、三人は泣きながら回線を切った。


 そしてミカも、呆然と魅入ってしまった。三人組は冗談のように弱く、シューク・ベリームは化物のように強かった。以前は気付かなかった、視点移動は誰よりも滑らかで見易く、遮蔽物越しに一回跳ねた一瞬でターゲットの位置を把握、即座に違う位置から半身を出して照準を合わせて外れナシ。

 初めてこのゲームを面白そうと思ってしまい、なんかもう全部バカバカしくなった。


 「たかがゲームに……、なんで男って……、ハァ、カッコイイじゃないの」


 まだはなをすする音が聞こえるVCを切り、配信を映すPCも切り、ミカは自室の学習机に上半身を投げ出した。脱力してしばらく何もしたくない。もう彼らと関わることもない。


 「なんで上手くいかないかな」


 中学の終わりごろからだったか、ミカは同性に妙に嫌われるようになった。自分ではそんなつもりはないのに計算高いとか、男に媚びてるとか。

 そっちだってアタシと男とでは話す時のトーンがまるで違うじゃない。自撮りや化粧をより上手になろうって、周りの目を意識しているからでしょ? アタシと何が違うの?


 陰湿な女はコッチからお断り。能天気で幼稚だけど単純で明るい男のほうが楽しい。

 でも、本当は気付いている。一番嫌いな陰湿な女は誰か。


 「タカシでいいのにな。タカシが……、いいのに」


 バカ

        

   次回ラストエピソード『タカシ、そして伝説へ』comingsoon?


 「いやまだタイトル思いついただけだけど」


 [やっぱミカちゃん悪くないじゃん]

 [はよくっつけろや]

 [タカシってどんなキャラだっけ]

 [へー、そうもってくるか]


 タカシとミカが俺より人気ありそうなの何かムカつくな。

 あとミカって俺を炎上させようとか充分ヤベーキャラなんですけどー。


 

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