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日々奔走  作者: 政宗
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寒い日



 今日はやけに寒い日だった。

 生まれも育ちも九州。 

 日本のどちらかと言うと暖かいと思われがちな地域ではあるが、体感での寒さは東京とそう変わらない。

 耳鼻科で薬を貰っても治らなかった蓄膿のせいなのか、はたまた寒さが原因なのかはわからないが、とにかく鼻の奥と頭が痛くてたまらないので、今日は残業もそこそこに切り上げ帰路に着いた。

 ドラッグストアで蓄膿の薬を買うついでにしばらく店内を物色していたのだが、レジ近くのパンコーナーでクリームパンの姿を見た瞬間、猛烈に腹が減っていることに気が付いた。

 いそいそとクリームパンと薬を買い、店を出る。

 幸い、夜道は暗く、人通りは少ない。

 信号を待つのも、自分ひとりだった。

 ──今なら、食べてしまっても問題あるまい。

 自分の脳が一度ゴーサインを出してしまうと、もう止められなかった。

 とはいえ、中途半端に理性はあるため、立ち食いなんてみっともない姿を見られてはたまらないと、いそいそとクリームパンをひとつ平らげた。

 幸い、誰もその場には現れることはなく信号が青になった。

 クリームパンが入っていた袋も綺麗に丸めて鞄の中へ。

 さあ、いよいよ信号を渡ろうとしたところで、猛烈に放屁が出そうになった。

 人もいないし、出てきてもいいかと尻に力を込めたところで、尻に異物感が走った。

 ──出た。

 絶対に、ガス以外の何かが出た。

 え、嘘でしょ?今いくつだと思ってんの?

 大抵の体の不調はストレスのせい、そのストレスは仕事のせいと考えているが、流石にこれについては濡れ衣を着せる事は憚られる。

 まさかこの歳にもなってウンコを漏らすなんて。

 あれだけの空腹を覚えてパンを貪り食った瞬間尻から出るってどういう事?ところてんか?

 走馬灯のように色々な考えが脳内を巡っている反面、自分の中の冷静な部分は正常に動いているようで、立ち尽くして絶望している暇があったら一刻も早く家へ帰れと一心不乱に歩を進めていた。

 歩けば歩くほど、妙に尻の間の滑りがいいという謎の感覚。

 尻の間が変にサラサラしている。

 そういう質のものが、尻に挟まっているようだ。

 そうこうしているうちに最寄りのバス停へ着いた。

 バスに乗り込むと、この時間には珍しく座席が空いていたが、流石にこの尻で座るほど非人道的ではない。

 死ぬほど疲れてはいるが、椅子には座らず揺られること数十分。

 なんとか家に着き、普段なら何よりも先に手を洗うところをバタバタとトイレへ駆け込み、おそるおそるパンツを下ろした。

「──ない」

 あると思っていたそれは、影も形もない。

 どこかに落としてきたのかとも思ったが、そんな跡はどこになかった。

 紙で尻を拭いてみたが、何も付かなかった。

 一通り考えたところで、とある結論に至った。

「寒いところで放屁をすると屁の暖かさが形を帯びて尻に伝わり、ウンコと勘違いすることがある」

 尻の間の妙なサラサラとした感覚は、ものすごい速度で尻から風が駆け抜けたおかげで乾燥したのかもしれない。

 何にせよ、真冬にウンコの幽霊が尻の間に現れたわけではなかった事に酷く安堵した。

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― 新着の感想 ―
尻に異物感が走った。  ──出た。 絶対に、ガス以外の何かが出た。 ▲ この件に深く頷きꉂꉂ(ノ∀≦。)σ爆笑ʬʬ そして共感してしまった……悔しい。 出物腫れ物所構わず。いやほんと、冷や汗もんです…
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