「生きる」
彼はしらない
ヨハン シュトラウスをしらない
ピカソをしらない
木もれ日をしらない
きもれびってなんですかという
彼は絵を描く
愛するときいて 恥ずかしそうに口を尖らせると 手を重ねるふたつの腕を描いた
温かい手ときいて ちびた鉛筆で 真っ黒な大きな手のひらを描いた
いま今を生きていると口ずさみながら 長針と短針を太く 古時計を描いた
時計から 鳩が飛び出した
いつの間にか公園ができていた
店ができ、街ができていた
買い物をする人がいた
絵のなかで別の物語が始まる
詩が いま きみを通り抜けていったよ
きみに伝えたい
見開きのノートいっぱいの その絵の名を
机に向いた一心の顔の名を
いま琴線に触れて 去っていったものの名を
また訪れる 何度でも舞い降りるその名を