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第4話 平穏を打ち破るもの

 彼女と公言してから、優梨(ゆうり)と教室から一緒に帰るようになった。今日も一緒に帰ろうと、教室を見回すが優梨の姿がない。


「あれ?優梨は?」

「あ〜……。騎士(ないと)、怒らないよな?

 怒らないで待っててくれるよな?」

「何が?」


 おそるおそるといった感じで、クラスメイトが何人かまとめて僕のところにやってきた。


「その、瀬田(せた)さんのこと好きだっていうヤツが他のクラスでいてさ。

 騎士が彼氏だって言ったんだけど、それでも告白したいって……」

「告白?!」

「あ、うん、言うだけ言ってフラれて終わると思うんだけど、思い込んだら聞かなくて。

 同じ系統の漫画を読んでるし、可愛いからって……」


 はあ?


 優梨が可愛いのは生まれた時からだし、漫画の趣味が合ったとしても別に優梨は厨二病仲間を求めてないのに。


「……ふぅん。迎えに行ってくる。

 どこに呼び出したんだ?」

「ちょっと待て!騎士!

 大丈夫だって!瀬田さんはお前の彼女で、間違いないんだから!」

「彼女だけど?

 だったら、行ってもいいんじゃないか?」

「その顔で行くのか?!

 そいつの息の根を止めそうに見えるんだけどな?!」

「いいんじゃないの?人の彼女にちょっかい出してくるんだから」

「いやいやいやいや!ただ、告白してごめんなさいされるだけだから!な!」


 一体、僕がどんな顔しているって言うんだろうか。


 ただ優梨と一緒に帰るために、探しに行くだけなのに。


 教室を出て行こうとする僕と、それを背後から羽交締めにして、その上片足ずつしがみついてくる計3人の男子との戦いが勃発した。


 しかし、その戦いは決着がつく前に終局になった。


 優梨がすぐに戻ってきたからだ。


「……なにやってるの。騎士(ないと)

「……別に」


 僕がいじめに遭っているような状況なのに、明らかに僕以外のクラスメイトがほっとしたように、息を吐いた。


 なんでだよ。



 **




 クラスメイトたちと何かあったのかと、優梨が帰り道に聞いてきた。


「……別に。それより、優梨、告白されたの?」

「うん」


 自分のことは話したくないのに、優梨のことはすぐに問い詰めてしまう。


「それで?」

「それでと言われても……特に何も。私は騎士(ないと)と盟約を結んでいるんだから、当然断ったけど」

「ふうん」


 どうしてだろう。

 優梨と付き合ってからの方が、不安で仕方ない。

 もしかして、優梨の厨二病に合わせて告白したのが、僕が一番先だったから付き合えただけなんじゃないだろうか。


 本当は、そんなに僕のことは好きじゃないのかな?


 考えれば考えるほど、沈んでいく。


 だって、額にキスした後は、全然僕に触れようともしない。

 本当は間違ったとか、思っているんじゃないだろうか。


 何度か帰り道に手を繋ごうとしても、優梨はすぐに手を引っ込めて、カバンの持ち手を握りしめてしまう。


 やっぱり付き合うこと、やめたいのかな。


 目元を隠すほどの長さはそのままに、非対称に切りそろえられた前髪は、優梨の小さな顔に映えるように整えられていた。

 メイクをしていたクラスメイトが何度も説得した成果で、今の優梨は包帯をどこにも巻いていない。


 ちょっと不思議な雰囲気のある可愛くて綺麗な女子高校生にしか見えない。


 優梨のまとっていた厨二病という名の鎧は、もうどこにもなかった。


 喜ぶべきなのに、僕は素直にそれをいいとは思えなかった。


 時々話して、時々黙って。

 いつも通りに、いつも通りの帰り道を帰る。


 それなのに、鬱々とすることが止められない。


 隣を歩く優梨は沈んだ僕の心に気づく様子もなく、いつも通りに毘沙門(びしゃもん)商店の前まで行くと立ち止まった。


「ねえ、騎士。奢るから寄って行かない?」

「何?優梨、金曜日じゃないのにテイクアウト頼みたいの?」

「……だって、なんか不機嫌なんだもん」


 なんだろう。いつも通りに優梨の言葉を聞き取っているはずなのに、どこか掛け違ってしまっているようなチグハグな感じがする。


 優梨は不機嫌そうに黙って、下を向いた。


 どうしたんだろう。


「ねぇ、優梨」

「お、騎士と優梨ちゃん!

 金曜日じゃないのに、珍しいね!さあ、注文は決まったか?」

「――おぉ、栄光あれグローリア!!ようやく見つけたぞ!我が愛しき漆黒の薔薇姫!」


 僕と毘沙門商店のおじさんと……誰だ?

 知らない男の人の声が重なった。


「へい、兄さん!タピオカマシマシミルクティーお待ちどうさま!」

「うむ。いただこう。

 セバスチャン、支払いを」

「菊池です。現金払いですね。はい」


 そして謎のセバスチャン・菊池がさらに増えた。

 だから、誰だ。


 毘沙門おじさんが筋骨隆々の腕を差し出して、タピオカミルクティーを渡す相手を僕らは見た。


「ふむ。これがタピオカミルクティーか。ほう、このかわずの卵のようなものはなんだ?」

「それはタピオカです」

「そうか!さすが博識だな、セバスチャンは!」

「菊池です」


 上下燻し銀の仕立てのいいスーツに、黒シャツで銀色のネクタイをしめたその男の人は、片眼鏡をつけていた。僕たちと目が合うと、黒いシルクハットを軽く掲げた。

 その手には、もちろん白手袋。


 ……なんていうか、大人なのにすごく厨二病の匂いがする。


 その隣で男の人の代わりにタピオカミルクティーを受け取ったセバスチャンと呼ばれた人は、オールバックのロマンスグレーの髪で、普通のスーツ姿だった。


 ……なんていうか、良識のあるおじさんの感じがする!よかった、僕サイドの人もいた!


 喜んだのも束の間。

 冷静に考えて、そもそもこの人たち誰だ。というか、さっきの「黒き薔薇姫」って優梨のことじゃないよな。


「ふふふ、今日も麗しいな、我が薔薇姫!!――嗚呼、例えこの世界全ての薔薇をかき集めたとしても、君という至上の美しさを表現する言葉にたどり着けないとは、なんという悲劇なのか!?」


 タピオカミルクティーのミルクティーだけ飲んだ厨二病患者の男の人が大仰な物言いとともに、優梨に向かってウインクをしながら言った。

 

 びくっと優梨の細い肩が揺れる。


 やっぱり優梨のことかよ!




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[一言] また濃いのがキタ(ワクワク)
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