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もしも一つ願うなら【本編完結】  作者: 庭村ヤヒロ
芸術の町 ミスキー
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第58話 再会

 診療所に戻った私達は、ルクスが淹れたハーブティーを飲んで一息ついていた。

 残る魔力は光と闇。大神官を訪ねればいいというヒントも得た。実に順調と言える。


「それで、話はできたのか?」


 問いかけたルクスは机に向かい何やら書き記している。

 サラサラとペンが紙の上を滑る音が心地良い。


「ええ、出来ましたよ。目的は果たせました」

「それは何より。彼の様子は?」

「問題ないと思います」

「そうか……良かった」


 ペンを置いたルクスは体を伸ばし、立ち上がる。


「明日の朝出発なのだろう? 次はどこに行くんだ?」

「パノプティスまで戻るつもりです」

「それはまた遠いな……なら今日はゆっくりするといい。食事は俺に任せてくれ」

「助かります」


 ここからパノプティスまでは大体三週間かかる。ここでしっかり休ませてもらうことにしよう。

 それにしてもルクスは優しい。初めはピリついた関係だったが、やはり道中で助けたことが大きいのだろうか。

 ……今回エクメドの妻子を蘇生させたわけだが、ルクスがそれを知った時どうなるのだろうか。

 彼がどこまでエクメドの事情を知っているのかは知らないが、いずれ蘇生については知ることになるだろう。


「俺が見に行った時は落ち込んでいたからな……心配だったが、良い方向に向かったのなら良かったよ」


 ここで言っておくべきだろうか。

 彼の家族のことについて知っているのは私しかいない。

 どうすればいいか相談するわけにもいかないだろう。


「さて、そろそろ昼食にしようか」

「……ええ、お願いします」


 キッチンへ向かうルクスの背を見送る。

 結局、彼へ伝えないまま明日を迎えた。

 どう言っても傷を抉ることに繋がりそうで、下手に伝えるよりも自然に知る方がマシなのではないかと思った。

 ……要するに、私は逃げたわけだ。


 こういったことは苦手だ。セキヤなら上手く伝えられたのだろうか。

 かといって、勝手に彼の事情を話してもいいものか。

 私は思っていたよりルクスに対し同情しているのかもしれない。


「はい、ドット草の花と白樹の蜜。出来るだけ早めに使い切ってくれ」

「ありがとうございます」

「元気でな」

「……あの」

「うん?」


 キョトンとしているルクスの目は綺麗だ。

 言葉が詰まる。ここを逃せば、当分会うことはないだろう。

 開きかけた口を閉じる。


「いえ……何でもありません。貴方も、元気で」


 手を振るルクスに小さく手を上げて応え、背を向ける。

 じっとりとした何かを背に感じながらも足を進めた。

 ぐっと目を瞑り、思考を切り替える。

 いくら彼が同じ被害者だとしても他人であることには変わりない。これ以上気にしたところで意味がないのだ。


 次に会えた時、言及されたら……その時はきちんと答えよう。

 それが私の行き着いた答えだった。



 門までの道は相変わらず人がいなかった。

 もし次に来ることがあれば、芸術の町としての顔を見てみたいものだ。


「ここから三週間かー、遠いね」

「今度は魔力溜まりにも魔消渦にも遭遇しないといいのですが」

「慎重に進もう」


 門に近づくにつれ、人の気配を感じる。門番だろうか?

 エクメドが立ち直った今、もう毒による流行病は落ち着いたことだろう。

 門を通る時、咄嗟にその場から飛び退いた。

 見れば、フードを深く被った何者かが腕を伸ばしている。


「あーあ、再会のキスでもと思ったんだがな」


 フードを脱いだその男は、ニタリと笑う。


「……ソラン」

「もう兄様とは呼んでくれないのか? ゼロ」


 その後ろには、二人の取り巻きがいる。サバカと……小さい方はクリシスだったか。

 兄様とはもう呼ばない。呼びたくもない。


「ああ……いい目だ。その美しい瞳で、もっと俺を見つめてくれ」


 うっとりと目を細めたソランが両腕を広げながら近づいてくる。

 袖からナイフを取り出し、構えた。


「ゼロに近づくな」


 ソランを挟んだ向こうでセキヤが銃口を向けている。

 ちらりとセキヤの方を見たソランは、深くため息をついた。


「サバカ、クリシス」

「御意」

「チッ。やりゃいいんだろ、やりゃあ」


 ソランの命令を受けた二人がセキヤの方へと向かう。ヴィルトを背に庇ったセキヤは銃で牽制していた。

 二対一はまずいかもしれない。加勢した方がいいか?

 しかし、目の前にはソランが立ち塞がっている。


「会いたかったぜ、ゼロ。前は話せなかったからな」

「……やはりあの時、クレイストで馬車に乗った私を見ていたのは貴方だったんですね」

「ああ、やっぱり分かっていたんだな。嬉しいよ、ゼロ」


 ねっとりと絡みつくような声だ。

 ぞわりと肌が粟立つ。


「なぜここへ?」

「そりゃあ会いたかったからに決まってるだろ? 愛しい愛しい弟に会うため……他に理由なんて必要ない。分かってくれるよな?」

「分かりたくもないですね」


 舌なめずりをしたソランは、一歩一歩近づいてくる。

 自然とナイフを持つ手に力がこもった。


「ああ……可哀想なゼロ。そんなに俺が怖いか?」

「……何を適当なことを」

「気付いてないのか? 脚、震えてんぞ」


 まさか、そんな。

 見てみれば、彼の言う通り私の脚は震えていた。

 恐怖を感じている? この、私が?


 キッと睨みつける。

 深く呼吸して、精神を落ち着けていく。


「安心しろ、お前を傷付けるつもりはないんだ」

「……散々やっておいて何を今更」

「昔の事を言っているのか? あれは必要な事だったんだ。な? 分かるだろ?」


 必要だった?

 本気で言っているのだろうか、この男は。

 自分に恨みを向けさせるために、わざわざ仕組んだあれが、必要な事だって?


「っ、ああ……本当にいい目をするな。そうだ、俺はその目が見たかったんだよ、ゼロ……!」


 急に走り込んで来たソランにナイフを振り下ろす。

 腕を掴まれ、即座に腕を引いて膝をソランの腹目掛けて振り上げた。

 体を捻って避けられ、反対の腕にも手が伸ばされる。

 相手の手首を鱗が生えた腕で打ち、どうにか掴まれた腕を振り解こうと力を込めた。


 パッと手が離され、距離を取る。

 ニヤリとソランの唇が弧を描いた。


「なあ、俺はただ話したいだけなんだよ」

「その割には随分と暴力的なようですが」

「悪い悪い。可愛い姿を見せてくれるものだから、つい……な」


 ふいに視界が紫色の光に包まれる。

 足元を見れば、紫の丸い陣が浮かび上がっていた。


「でも、ここまでだ」


 まずい。

 逃れようにも、脚に魔力の糸が絡みついて離れない。


「なに、心配するな。傷つけはしない」


 じわりと、頭に霞がかかる。


「……ッ、これは……」

「うん? 効きが悪いな……その指輪か?」


 陣は消えたようだが、空が青くて体が重たい。

 逃げようと脚を動かそうにも風が冷たい。思ったように動いてくれない。いや、そもそも体が……じゃない、思考がまとまらない?


 頭を押さえる。きらりと指輪の石が光を反射する。セキヤ達は……ソランが近づいてくる。あっちは無事そうだが、このままでは。


「まあ、でも充分か。急ぐ必要はないんだろ? 多少俺に時間をくれてもいいよな」


 力が入らない。逃げなければ。逃げなければならないのに。ああ、光が眩しい。地面が硬い……じゃない、そんなことを考えている場合では。

 体が持ち上がる。ソランの顔が近い。姫抱きにされている?

 暴れようにも弱々しい抵抗にしかならない。


「行くぞ、お前ら」

「ゼロ!」


 パン、と乾いた音が鳴る。


「危ねえなあ。ゼロに当たったらどうするんだ。ま、安心しろよ。パノプティスまで送ってやる。精々急ぐことだな」


 その言葉を最後に、視界が白んだ。

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