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戦闘人形と生真面目な錬金術師  作者: うぃざーど。
序章
1/15

2回目の、はじまりの第一歩




 ――――――――――長い、長い時間をかけて、今日という日が訪れた。



 私は一人、古びた家の中で机に向かい、ペンを持ち、手元にある紙に文字を書き始めようとしている。幾重にも連なる白い紙には、まだ何一つ文字も、インクすら乗せられていない。それを目の前にして私は一人、“どのように書き出していこうか”と考える。書きたいことはたくさんある。数えきれないほどの出来事を過ごした私の頭の中は、本当にたくさんのことを振り返ることが出来る。ありすぎて、何から始めたらいいのだろう、そう思えるくらいには。

 ペンを持つ手が進まないまま、窓辺から外の様子を眺める。家の隣に流れる本当に小さな川からせせらぎの音が聞こえてくる。今日はよく晴れている。澄み渡ったダークブルーの色で、天空は覆われていた。気持ちがいい。きっとこんな日は、外に出て日向ぼっこでもすれば、もっと気持ちが良いのだろう。―――――――――かつて、私にそういった楽しさを教えてくれた、あの人に倣って。



 『今まで、本当にお疲れさまでした。そして、ごめんなさい。決して貴方にとって望ましい日々ではなかった。ですが………貴方がこうして独り立ちをすることが出来るのは、』



 私の役割は、昨日ですべて終わった。

自由になりなさい。貴方の思うように、生きなさい。もう何からも縛られなくていいんだよ。そう言われ、その通りになった。これまで私を縛り続けてきたのは、昨日までの役割があったから。縛りつけられていたなんて言えるのは、こうして私自身が考えを巡らせられるようになったからだと思う。私はその役割のために生まれた。



 『戦闘人形』



 その役割が終わりを迎え、明日からは自由だと言われた。でも、何をしたらいいのか、どこへ行けばいいのか、まだハッキリと決めることは出来ない。昨日までの自分とは違う、新しい私。今日はその一日目ということになる。どうして私がペンを持って白紙を前にしているのか。結局、今この瞬間私がこれからしたいこと、というのは無かった。無かったのだけれど、何をしようかと考えた時、あの人の姿が思い浮かぶ。今も、ハッキリと、隣に居続けているかのように。

 ………思いを馳せる。空っぽな欲求に質量を混ぜ込んでいく。ごちゃまぜな絵具のように記憶された出来事から、一つずつ、色付いた記憶を取り出そうとする。思い浮かんだ色は、いったい何種類くらいあったのだろう?長い時間だったけれど、そのどれもが私にとって。



 『――――――――ほらね。やりたいことなんて結局そんなものさ。僕たち人間はそれが有り余るほど大量にあるんだけれど、君のはそうじゃない。一つひとつがどんなに小さくても、どんなに些細なことでも、そう思うことに意味がある。それをはじめてみることに、とても大きな意味があるんだ。君にとっては。』



 そうして私はペンを持った。

今もなお鮮明に思い返すことの出来る日々。長い時間をかけて共に過ごしてきた時間を振り返り、記録しようと思ったのだ。私なりの考えを添えて。………誰かに見せるためとか、そういう大それたものではないけれど。それが私にとって、そうすることが私にとって、新たに始まる今日を踏み出す第一歩になるんじゃないかと、思って。




 「―――――――――――。」

見てくれていますか、■■■■。

私はこうして生きています。

これからを生きることが出来ます。

この声は届かないかもしれないけれど、

この文字は伝わらないかもしれないけれど、

新しい一日目の、新しくすること。

それは、今までの日々を振り返ることであり、そして、

貴方に向けての――――――――――――。









 【戦闘人形と生真面目な錬金術師】







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