【3】
「魔王様」
「おおチューダ、いいところにきたな。貴様船は操船できるか。二艘ないと巻き網漁とやらができんのだ」
「魔王様、それどころではありません」
チューダはこほんと咳払いをした。
「ペンギンたちが熱中症になっております」
* * *
大ホールにペンギンたちが倒れている。
「貴様らー!?」
「きゅー……」
手近な一羽を抱え起こすも、ぐったりしている。目もうつろだ。いや目は元からうつろだった。
あわててチューダを振り返る。この配下を失ったら我が郎党は本当に全滅してしまう。
果たしてチューダは頷いた。
「造るしかないでしょう……大プールを!」
* * *
「というわけでこちらが工事の概要となります」
城の見取り図を前にチューダが説明を始める。が、それを遮って確認をする。
「ここ、大ホールの文字に斜線が入って大プールにされておるが」
「リノベーションでございます」
「素人の大規模水回りリノベはあまりおすすめできんのだがなあ」
かつてはロック鳥も馳せ参じた伝統の大ホールである。が、まあ今となってはペンギンしかいないのだ。ペンギンのために改造されるのもまあ、しょうがあるまい。住民満足度100%である。
「幸い大型の鳥類や魔獣が入り込んでも底が抜けないようにできています。ここを利用するのが一番確実かと」
「ワイバーンやキマイラが乗って大丈夫な床であるからな……」
過去の栄光が遠すぎる。
「幸い、前に作っていただいた揚水風車がありますので、水はここからとりましょう」
「もはや出撃通路ですらない滑り台付きプールであるなあ」
「無駄のない構造であると思われます」
「無駄っていったい何であろうな……」
異論はない。異論はないのだが過去の栄光が我に涙をもたらす。
* * *
「フフフ水回りすらも掌中に収めた鳥の魔王など他におるまい」
「お見事でございます魔王様」
大気を操る我の魔法の前においてはセメントの速乾も思いのままである。さすがに二度目になれば慣れた。
徐々に水が満たされていくプールに待ちきれぬとばかりにペンギンたちが飛び込んでゆく。これにて一安心だ。
我は玉座に戻った。目の前に広がる風景を改めて見る。
玉座から外まで一直線に通じる流れるスライダー。そして大プール。
「もはや魔城としての要素がまるで残っておらんなあ」
「玉座が残っているじゃございませんか」
「これアシカとかが乗って芸をする台になっておらぬか?」
「いえ、アシカは鳥じゃありませんのでそんなことがございませんでしょう」
チューダが目を細める。
「飼育員さんが餌をまく台にはなろうかと」
「ほらやっぱりそういう方向になるであろうよ!?」
このままでは我はただ配下に魚を支給するだけの魔王になってしまう!
「これを機に入場料を取って一般開示する方向にすれば復権も早くなろうかと」
「それもう復権ではなく新しい生き方を見つけてしまった我になってしまうのだが」
* * *
「最初から城の外に大プールを作ればよかったのではないか?」
「先に滑り台を作ってしまいましたからねえ」
「移動用のスロープだったはずなのだが……」
無計画なリノベーションのせいで魔城がペンギンに乗っ取られた。