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1/5

【1】

「我が魔城にスロープを作るだと……」

「左様です」

 ツグミの魔人である鳥丞相兼秘書のチューダがいう。かつては我の配下として人間を恐怖に貶める献策を次々と成してきたデキる女だったが、我と一緒に封印から解き放たれてからというものずっとこんな有様だった。

「普通の階段だと、配下のものどもが移動すらできませんので」

「なぜこんなことになった……」

「きゅー」

 頭を抱える我の目の前には無数のペンギンどもが期待のこもった目でこちらを見上げている。

 これが今や我が郎党の全てなのだ。


    *    *    *


 我は古き魔王の一柱だった。翼あるものすべての王、と呼ばれた時期もある。無数の鳥類やそれに連なる世魔神や妖魔を率いて神々や人間の軍勢と何度も戦いを繰り広げた。最期は嵐を司る神々と戦い、そして封印されるに至ったわけだが……

「まさかあの戦いで郎党が全滅しておったとはなあ……」

「きゅー!」

「ああ、すまん、ほぼ全滅しておったとはなあ……」

 空中にあった郎党はすべて薙ぎ払われ、海中にいたペンギンたちだけが残ってしまったらしい。

 いやペンギンだからといって侮ってはいけないのだ。こやつらもかつては大いに役にたった。空ばかりを気にしている人間どもの隙をついて船を襲ったり港を襲ったり定置網に無意味に絡まったりして大混乱をもたらす恐ろしい軍勢ではあったのだ。人間どもにも「まさかの横からダチョウキック部隊」とともに大いに恐れられていた。

 弱点は取り回しの面倒くささだ。自由に空を高速で移動できる他の軍勢とは明らかに足並みがそろわない。全軍突撃命令を出した数日後にひっそりと上陸して復旧作業中の大工のすねをフリッパーで割ったりすることもあった。ぶっちゃけると封印される前は管理をチューダに任せていた。

 その結果、長年親しんだ腹心どもはいなくなり、つながりの薄い手間のかかる部下だけが残ってしまったのだ。我の自業自得である。

 つまり、だ。

「私も手伝いますから頑張りましょう」

 にっこり左官姿でほほ笑むチューダとともに、こうしてセメントをこねているのも、結局は我自身のツケなのだ。


    *    *    *


「ふはははは、さすがは我。なかなかの仕事であろう!」

「お見事でございます魔王様」

「きゅー!」「きゅー!」

 こうして見事魔城の玉座の間からエントランスまでのスロープが完成した。滑らかさにこだわった匠の仕上がりである。もともとは巨大航空戦艦の外壁のために開発した空気抵抗を減らす技が今次代を超えて役に立った。

「よし行け我が下僕どもよ! 人間どもに恐怖を思い出させてやるのだ!」

「「「きゅー!」」」

 ずざー

 ペンギンどもが完成したばかりのスロープを滑って玉座の間から出撃していく。フフフこうしてみるとなかなかに頼もしい。我好みの高速移動である。


 ぺてぺてぺてぺてぺて

「「「きゅー!」」」

 ずざー

 戻ってきた。そしてまた出撃する。


……

「チューダ、奴ら遊んでおらぬか」

「ペンギンとはそういうものでございます」


    *     *     *


「次は水を流してほしいと要望が出ております」

「鳥の住む魔城に揚水設備などあるわけがなかろうがっ!」

 


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