9.二人の距離
「大丈夫よ、初めての公式な夜会だし、少し緊張してたみたい。」
「そうか。この後のダンスは踊れそう?」
挨拶を受けた後、私と叔父様で最初のダンスを披露しなければいけない。
王妃であるお母様がいないためしばらく行われていなかったが、
今日の夜会では久しぶりに行われることになっている。
「平気よ。何曲でもいけるわ。」
叔父様が相手だとどうしても素直になれない。
また少し強がってしまった。慣れない靴だし、緊張でもうすでに疲れてきている。
1曲踊ったら、足が痛くなって歩けなくなってしまいそうだ。
叔父様はその強がりを見抜くようにふふっと笑って、手を差し出してくる。
何がおかしいのって言いたいけれど、ここで騒ぐわけにはいかず黙って手を乗せる。
連れ出された広間の中央、周りの視線が集中する中で静かな音楽と共に踊り始めた。
あぁ、やっぱり叔父様の身長には全然追いつけなかった。
あの頃はいつか追いつくよなんて言ってたのに。絶対に嘘だわ。
わざわざ踵の高い靴を選んで履いても、ちっとも近づけなかった。
ふと見上げた叔父様が笑った気がした。
「もっと無理しない靴でいいんだよ?」
「何のことかわかりません。」
「いや、だって、ルヴィの身長もっと小さいでしょ。」
「…これだけ身長差があったら、踊れませんから。」
あまりにも身長差がありすぎるのだ。私の頭の先が叔父様の肩にも届かない。
踵の高い靴で差を縮めても、こんなにも差がある。
これでは大人に振り回されている子どもにしか見えない。
…まぁ、年齢差もあるし、間違っていない。それが悔しかった。
せめて身長差だけでも縮まればいいのに…。
「俺はルヴィの身長が小さくても、ちゃんと踊れるよ。
だから、次はルヴィの足に合った靴を贈らせてね。」
それは…叔父様なら、どんな令嬢にでも合わせられるんでしょうけど。
そう思うと、自分の努力がいかに馬鹿らしいものなのかと思う。
軽く睨みつけると、それに気が付いたようで困った顔をする。
「ルヴィ、俺はね、無理をしてほしくないだけなんだ。
痛くなったり、つらくなったりしてほしくない。
笑顔でいてくれるなら、身長なんて気にしないよ。」
ほら、これだもの。いつだって、叔父様は私が欲しかった言葉をくれる。
私の気持ちも知らないで。
曲が終わり、足が止まる。
やっぱり慣れない靴で少し痛くなってきたかもしれない。
歩こうとするとつま先に違和感があった。
でも、王女として最後まで堂々としていなければいけない。
「ルヴィ、ほら、俺の腕につかまって。」
私の異変に気が付いた叔父様が腕を差し出してくる。
このままでいるわけにもいかず、仕方なく叔父様の腕につかまる。
王族の控室のほうに連れていかれるのだろう。
痛む足を意識しないように背筋を伸ばして歩きはじめる。
もう少しで人混みをぬけると思ったところで、声をかけられた。