41.一緒に
昨日夜更かししたせいで、2人とも起きたのは昼近くになってからだった。
寝室の隣にある私の私室に移動してジルとご飯を食べる。
忙しいジルと食事を共にするのは難しく、
こんなにゆっくりと食事を楽しめるのは初めてだった。
「この国は、王族と国民のためにあるんじゃないんだ。
祈りの塔を守るために王族が存続していて、それを支える国民がいる。
だから祈りの塔に反しないかぎり王族は変わらない。」
「祈りの塔に反すると王族が変わるの?」
「そう言われてる。反すると子どもが生まれなくなるらしい。
子が生まれなければ、次の王は塔が選ぶことになる。
祈りの塔に関する儀式はいくつかあるんだが…。
一年前、俺が帰ってきた次の日に、一緒に塔で祈ったことがあっただろう?」
「うん。お礼を言ったときだよね。覚えてる。」
「男女の王族で一緒に祭壇にあがるのは、結婚の許可をもらう時だけだ。」
「え?」
「婚約してただろう。その上で、一緒に祭壇にあがってる。
その時に何の問題もなく祈りを終えた。
あれで祈りの塔からの許可をもらえたことになってる。」
「…そうなの?」
「ああ。許可が出たってことは、
問題なく子どもができるってことだから、安心していいよ。」
もし、私に子どもが出来なかったら側妃とか娶るんだろうか、
跡継ぎをどうするんだろうと思っていたことが、あっけなく答えが出た。
以前の私だったらその話を疑ったかもしれない。
だけど、光の檻を見た後だと、そんなものかと思う。
じゃあ、子どもの事は今心配しなくても良いんだ。
何人産まれるかによって何か言われるかもしれないけど。
そういえば初夜の儀がどういうものなのか説明受けてないけど、
直前に言われるのかな…。
「ねぇ、ジル。初夜の儀って、何か特別な儀式あるの?」
「ああ、それね。俺たちは初夜の儀はしないと思う。」
「え?なんで?」
「初夜の儀が必要なのは、
王妃が間違いなく国王の子どもを身ごもったかを確認するためなんだ。
だから初夜の前に身体検査して純潔なのを確認して、
終わった後も確実に契ったのかまで確認される。
だけどね、ルヴィの場合は、ルヴィが王族だろう?
たとえ俺の子じゃなかったとしても、ルヴィが産んだら王族なのは間違いない。
だからする必要ないと思ってるし、やらないことにしようと思ってる。」
「そうなの?いいの?」
「だって、相手が医術士だとしても俺以外にルヴィの身体見せるの嫌だし。
裸になって何人もの男にあちこち見られて調べられるんだよ?
そんなのはルヴィだって嫌でしょう?」
「うん…嫌だ。」
歴代の王妃や側妃はそれをしたのかもしれないが、そんなのは嫌だった。
想像しただけで絶対に嫌だと思ってしまう。
そう伝えるとジルはほっとしたように笑った。
「じゃあ、しなくていいって兄上に言っておくよ。」
ん?お父様…何かあったような気がする。
「あ。思い出した。お父様と昨日会ったときに伝言頼まれてたの。
ジルにもう我慢しなくていいぞって伝えてって言ってた。」
「…。」
ん?食事中だっていうのに、ジルが顔を両手で覆って隠してしまった。
手の隙間から見える顔は真っ赤になってる。
耳まで真っ赤。え?ジルが真っ赤になるなんてめずらしい。なんで?
「どうしたの?ジル。ねぇ、我慢って何?」
のぞき込むように聞いても答えてくれない。
仕方ないから、静かに食事を続けてジルが話してくれるのを待った。




