40.告白
ジルの話は、どこか違う国の話を聞かされているようだった。
心を持たないもの、そんな話は聞いたことが無かった。
だけど、気が付いてしまった。
私は、この国の王族の話を聞かされていない。
お父様の話ですら、聞いたことが無かった。
王妃になることが決まり、祈りの塔の真実を知って、
初めてお母様とお祖母様のことを知った。
歴代の王たちの話を知らないことに、疑問すら持っていなかった。
おそらく周りの人間は、王族に関する話を避けていたんだろう。
それがジルの話に関わってしまうことを知っていたから。
閨教育に嫉妬してしまっていたのは、
ジルが私にするように女官たちを愛したのかと思っていたから。
まさか、そんな一方的に暴力を受けるようなものだとは知らなかった。
さっきからジルの目が私を見ようとしない。
そのことが、ひどく悲しかった。
「ごめんなさい。知らなかったからって、言っていいことじゃなかった。」
「そうじゃないよ。言ってくれて良かった。
このまま誤解されて、ルヴィを暗い気持ちにさせたままにする方が嫌だ。」
「…でも、話すの嫌だったでしょう?」
もうジルが私を見てくれなくなったらどうしよう。
こっちを向いてほしいけど、もしジルに軽蔑されるような目で見られたら。
こんな我がままで、嫌なことを思い出させるようなことをしてしまった。
「…この話をして、俺が汚れているって、汚いって、
ルヴィに思われるんじゃないかと思ってた。」
「そんな。」
「ルヴィがもし、あの時の俺のような気持ちだとしたら、もうしない。
初夜の儀だって必要じゃない。無理にしなくたっていい。」
そうじゃない!そうじゃないのに。
思わす伸ばした手がジルの頬にふれる。
びくっとジルが反応したのを見て、手を引っ込めてしまう。
怯えている?
怖がらせたのは、私?
「…ジル。私がさわるのは嫌?」
「そうじゃない。だけと、俺にさわるとルヴィまで汚れてしまうんじゃ…」
ジルが言い終わる前に抱き着いた。
初めて、自分からジルにくちづけて、顔を抱えるよう手を伸ばした。
驚いているジルをきつく抱きしめて、離せないように何度もくちづけた。
「ジルが好き。大好き。
ジルが私をさわるのも、くちづけるのも、全部好き。
つまらない嫉妬で、嫌なことを思い出させてしまってごめんなさい。
…ジルは綺麗よ?」
「ルヴィ…俺、ふれてもいいのか?」
「うん。ふれてほしい。
私以外はさわらないって約束してくれるなら、私には何してもいい。」
「約束する。ルヴィだけいればいいんだ。
俺にはルヴィしかいないから。」
やっと目を見てくれた。
泣きそうなジルを見て、どうしようもなく愛しいと感じる。
「私もジルだけ。私も約束するから。」




