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私、女王にならなくてもいいの?  作者: gacchi(がっち)


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33.陛下とハンス

「なぁ、ハンス。シルヴィアが育ったら、本当に引退するのか?」


シルヴィアが出て行った後、慌てて追いかけるようにジルバードも出て行った。

それを確認してハンスがお茶を運んできたのを、

ハンスもソファに座るように勧めた。

もう高齢もいいところだ。引退して当たり前と言えば、当たり前だが。


「どうでしょうね。ジルバード様次第でしょうか。」


「まぁ、そうか。

 ハンスが引退できなかったのはジルバードのせいだもんな。」


ハンスがシルヴィアの教育係を続けているのには理由がある。

8歳のシルヴィアに王妃教育をさせようと家庭教師を探したが、

礼儀作法以外の教科は若い男性しかいなかった。

高度の教育を受けている令嬢は少ない。

その少ない中で王宮に通えるものは、探しても見つからなかった。

仕方ないとあきらめて、若い男性にシルヴィアの家庭教師を頼むことにした。


それを嫌がったのはジルバードだった。

護衛や侍女がいたとしても、

シルヴィアが男性と同じ部屋に居続けるのは許せないと。

どうしても若い男性を家庭教師にするのであれば、

全ての授業にハンスが同席してほしいと言ってきた。

もうすでに引退する気だったハンスだが、

ジルバードの初めての我がままにそれを受け入れたのだ。


「私は嬉しかったのですよ?

 全てのことに無気力だったジルバード様が、

 シルヴィア様のことになるとあんなにも必死で。

 お二人で笑い合っているお姿を見た日は涙が出ました。」


「そうだな。それは俺もそう思う。

 無気力なジルバードも心配だったが、

 母親を亡くして心が壊れかかっているシルヴィアも心配だった。

 二人が一緒にいて幸せになるなら、それいいと思ったんだ…。」


「離れていた理由が、あれですか…。」


人払いはしていたが、ハンスは隣の部屋に控えていた。

話の内容は聞こえていただろう。


「あれだったようだな。ほっとしたよ。

 俺はジルバードが我慢できずに襲ったのかと思ってた…。」


「…実は私もです。

 シルヴィア様はジルバード様を避ける理由を全く言いませんでしたから。」


ずっと俺とハンスは疑っていた。

まだ11歳だったシルヴィアに、ジルバードが何かしたのだろうと。

リガーレ国から来た刺客を取り押さえた後、

尋問や処刑などで忙しい日々を過ごしていて、

二人の仲が悪くなったと聞いたときにはもう遅かった。


もっと早くに理由に気が付いてやれればと良かったと思うが、

リガーレ国との戦争はどっちにしても起きていただろうし、

4年離れていたのは結果として変わらなかっただろう。


「まぁ、元通りになった、ってことで良いのか?」


「そうですね。お二人が幸せなら、それでいいじゃないでしょうか。」


「そうだな。」



今日はこれからリガーレ国への書簡を用意しなければいけない。

王女と偽って送り込んだようだが、身分がバレて女は逃走した。

もう二度とリガーレ国のものは受け入れない、と。こんなところだろうか。


あの国がこれで懲りることは無いだろうが。

ジョイン王子の件でエルドリア国とは同盟強化することで合意できた。

リガーレ国がまた戦争を起こすようなら、

エルドリア国もこちら側で戦いに参加するような軍事同盟だ。

これでリガーレ国もうかつに攻め込んでくるような真似はできなくなる。

ジルバードが王位につく頃には落ち着けるんじゃないだろうか。


ちょうどいいから同盟の件をジルバードの最初の手柄として、

戦争で疲弊しているこの国を立て直してもらうことにしよう。


シルヴィアを追いかけて行ったジルバードの必死な顔を思い出す。

あれなら孫の顔は早くに見れそうだな。




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