31.閨教育
「それでは、私は私室に帰ります。なんだか疲れました。」
朝から王女の騒動でふりまわされ、すっかり疲れてしまっていた。
もう学園もないし、今日は私室でゆっくり過ごしてもかまわないだろう。
「ああ、わかった。」
お父様に退出の許可をもらって、執務室から出る。
王弟の宮へと廊下を歩いていると、後ろから抱きしめられた。
「ジル?」
「お願い、ルヴィ。今から時間をくれないか。」
真っ青な顔ですがりつくようなジルに驚いたけど、
いつも以上に真剣なお願いに、頷くしかなかった。
「ええ、いいわ。」
返事をした次の瞬間抱き上げられ、王弟の宮の私室まで連れていかれる。
奥の私室まで行くと、ゆっくりと寝台の上に降ろされた。
履いていた靴を片方ずつ丁寧に脱がせてくれる。
「どうしてここ?私が疲れたって言ったから?」
「それもあるけど、邪魔されずにゆっくり話したい。
この部屋以外だと、侍女と護衛が必ずいるだろう?」
それは確かにそうだ。
連れ去られそうになったこともあって、護衛や侍女の数は増えていた。
私室であれば、間違いなくそばに誰かがつくだろう。
だけど、さすがに寝室には呼ばない限り人払いされている。
そういえば、さっき話していた時にジルが変な顔してたけど、どうしたのだろう。
自分の言ったことはすっかり忘れて、不思議に思う。
「確かに、女官を召したことはある。」
ジルの突然の告白に戸惑いながらも、あぁやっぱりと思う。
それでも、できればそんな話は聞きたくなかったな。
「王子は15歳になると閨教育を受ける。
その後も、定期的に女官を召し上げるように言われる。
これは王子としての義務なんだと。」
それはわかる。お父様以外の王族はジルしかいない。
お父様は側妃を娶らなかったから、
ジルが王族を増やすことを期待されたのだろう。
「ルヴィに会ったとき、俺は15歳を過ぎていた。
閨教育が始まってから、半年が過ぎていた。
その間に何人か女官を相手にしたよ。それが義務だと思ってたから。
だけど、ルヴィに会って、ルヴィを好きになったら、もうダメだった。
兄上に正直に話して、もう閨教育を終わりにしてほしいと頼んだんだ。
兄上は笑って、お前もかと言った。
俺も王妃を好きになってからは無理だった、
王妃が亡くなった今でも、他を抱く気にはなれないと。
仕方ないな、閨教育は止めてやる。
だけど、シルヴィアが16歳になるまでは手を出すな、とくぎを刺された。」
あの時、私はまだ8歳だったのに、
それからずっと待つつもりだったってこと?
とても信じられなくて、ジルの顔を見るけど、その目に嘘は見えなかった。
私はそれを信じていいのだろうか?
「でも、私と離れて辺境に行ってた間は召してたんでしょう?」
「してないよ。ルヴィに会ってからは、誰も召していない。」
「そんなの我慢できるの?」
「女官を召すのを我慢してるわけじゃない。もともといらないんだ。
義務じゃなかったら最初からいらないと言っただろう。
欲しくないものは、我慢するとは言わないだろう?
まぁ、別の意味で我慢していることはあるけど。」
「別の意味?」




