30.尋問
「ラミサージャ王女が来た時に、王女ではなく刺客だとすぐに気が付いた。」
「え?」
「前に来た刺客に似すぎていた。
5年位前かな。女官として入り込んできていた。
俺が気が付いて取り押さえたから、未遂で終わってる。」
…それって、もしかして。
「練習場の近くで取り押さえた?」
「ええ?ルヴィ、なんでそれを知っているんだ?」
「…その時、見てたから。ジルが女官を後ろから抱きしめてた。」
「はっ!?」
みるみるうちにジルの顔が青ざめて、
どうしていいかわからないって表情になる。
いろんなことがつながっていって、その間も私の口は止まらなかった。
話しながらもいろんな感情が押し寄せてきて、話すことでその感情を逃がそうとした。
「ジル付きの女官たちが言ってたの。ジルは夜のお召しを我慢してるって。
私を泣かせないように、女官を呼ばないんだって。
でも、あの時黒髪で美人の女官を後ろから抱きしめてたのを見て、
夜じゃない時に召してるんだと思ったの。」
「え?えっ?ルヴィ?」
「だって、私を引き取る前は夜のお召しあったんじゃないの?」
思ってたことを全部そのまま言ってしまうと、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
あの女官は刺客だったんだ。あれは、夜のお召しじゃなかったんだ。
自分の中でもやもやし続けていたことが無くなって、すっきりした気持ちになる。
まだあわあわしているジルをほっといて、お父様に質問した。
「ラミサージャ王女はどうなるんですか?」
「医術士の診察が終わり次第、話を聞くよ。
もうすぐここに来るんじゃないかな。」
「え?ここに来るんですか?」
「ああ。一度は気を失ったようだが、意識は戻ったようだし、
医術士の診察にも答えているようだから。
こちらに連れて来ても問題ないだろう。」
そうお父様が言い終わるのと同時にノックされる。
入ってきたのはレーベントで、後ろにラミサージャ王女が見えた。
「入りたまえ。」
中に入ってきた王女はおどおどしていて、
あの堂々としていたラミサージャ王女にはもう見えなかった。
座れとは言わないで、そのままお父様は質問を始めた。
「お前の名前は?」
「サージャです。」
「家名はないのか?」
「孤児院で育ちました。姉はいましたが、…行方が分かりません。」
リガール国のことをすべてを忘れるわけじゃないんだ。
あくまでこの国に害意があることだけなんだ。
きっと王女として教育されたことは忘れているはず。
「ここはベルンシア王国だ。倒れているお前を保護した。
どうしてここにいるのか、わかるか?」
「…わかりません。
でも、もしかしたらリガーレ国から逃げてきたのかもしれません。
戦争が始まるかもしれないと聞いていました。」
戦争が始まったのは4年前だ。それ以前から教育が始まったということか…。
お父様はこの女性をどうするつもりなのだろう。
「そうか。何か得意なことは無いか?」
「得意ですか?裁縫なら、孤児院でしていました。」
「ならば、王宮の裁縫室で働く気は無いか?」
「本当ですか!ありがとうございます!」
今のサージャを見て、ラミサージャ王女と同じ人物だとは、誰も思わないだろう。
妖艶な雰囲気が無くなっただけではなく、見た目も変わったように見える。
リガーレ国に帰せば処刑される恐れがあるし、
外見がこの国の女性とは違うためにその辺に放り出すのも難しい。
保護も兼ねて王宮内で働かせるのが一番いいのかもしれない。
「それでは、レーベント。後は任せた。」
「はい。わかりました。それでは、失礼します。」
礼をするレーベントを見て、慌ててサージャも礼をする。
その後はまるで親鳥についていくひよこのように、
一生懸命ひょこひょこ付いていくのが見えた。
あの性格なら、裁縫室でもうまくやっていけるだろう。




