29.嫁ぐ者
「お父様、私はあの祈りの塔は王族しか入れないと聞いていました。
どうして、ラミサージャ王女は中に入れたのですか?」
王族以外ははじかれると聞いていたけれど、王女も塔の中に入れた。
あの光の檻には驚いたけれど、はじかれるというのとは少し違う気がした。
私は塔の中に入ることができないのだと思っていたのに。
「…あの祈りの塔は、王族以外にも入れる場合がある。
それは、王族の妃として嫁ぐと思っている者だ。」
「嫁ぐ者、ではなく、嫁ぐと思っている者ですか?」
「そうだ。婚約とかそういう形は必要ではない。
あれは嫁いで来ようとするものに悪意があるかどうかを見る。
その後で、王族が娶るかどうかを決めろというものだ。
あの儀式を行ったから娶らなければいけないというものではない。」
それを聞いて安心する。
あの塔に入ったからといって、必ずしも娶る必要は無いんだ。
「シルヴィア、落ち着いて聞いてほしい。
あの儀式は、他国から嫁いできたものは必ずしなければいけない。
他国からの害意を持ち込ませないように…。
あの儀式をすると、たいていのものは祖国のことを忘れる。
他国での文化や風習は、わが国には必要ないということなのだろう。」
他国から嫁いできたもの…。
「だからお母様は、エルドリア国にいた時とは全く違う性格になっていたの?」
「そうだ。あれは祖国を恐れていた。
操り人形のように縛られていた。
あの儀式のことはきちんと説明したが、喜んで儀式を受けた。
終わった後の性格が、本来の性格なのだと思うよ。」
「どうして、私は塔の話を知らなかったの?」
「他国から嫁いできたのは、お前の母親だけではないだろう?」
そう言われてハッとした。お父様のお母様、私のお祖母様のことだ。
リガーレ国から来て、害意を持っていないわけがない。
「もしかして、お祖母様は違ったのですか?」
「何の説明もされずに塔に連れていかれたようだ。
儀式の後は、ほとんど何も反応しない人形のようになってしまった。
祖国のために考え、祖国のために生きていたのだろう。
それを消されてしまえば、もう人間ですらない。」
リガーレ国のために考え、リガーレ国のために生きた。
それでは、ラミサージャ王女は?
「母がこの国に嫁いだのは、この国を乗っ取るためだった。
父はわかっていて、母には伝えることなく儀式を受けさせたのだろう。
儀式さえ受けてしまえば、もう何の心配もなくなるからな。
だが、人形のようになってしまった母では王妃の仕事すら務まらない。
だから、父は側妃を娶った。それがジルバードの母親だ。
一方で、母が何も行動していないことに腹を立てたリガーレ国王は、
この国に刺客を度々送り込んできた。」
あぁ、ジルも言ってた。ずっと命を狙われてきたと。
そういう理由だったんだ。ジルを見ると頷いて、説明してくれる。
「ラミサージャ王女が来た時に、王女ではなく刺客だとすぐに気が付いた。」
「え?」




