25.助けてくれるのは
「なんだと?」
「すみません、王宮へ帰るのならすぐに着くと思っていたので、
お手洗いに行っていなかったのです。
馬車の中を汚してしまうのは嫌です。
すぐ済ませますから、一度降ろしてください。
大丈夫です。姫さまを置いて逃げようなどとは絶対に思いませんから!」
最初は取り合っていなかったジョイン王子も、
半泣きで訴えてくるメイに負けたようで、御者に止まるように命じた。
「すぐに済ませろよ。シルヴィア王女は馬車の中で待って。」
ほっとした顔のメイを馬車から降ろす前にジョイン王子が先に降りる。
二人が降りたと思ったら、すぐに刃物がぶつかったような音が聞こえてきた。
何!?
身の安全を考えなければと思い、ドレスに隠していた刃物をそっと出す。
もし馬車が賊に襲われているようなら、自決することも考えなければいけない。
馬車の奥側に身をひそめるようにして、刃物を前に構えた。
すぐ近くで馬の鳴き声が響き、馬の足音が去っていく音がした。
どういうことだろう。外の様子をのぞいてみたいけど、危険なことに変わりない。
何も音がしなくなったと思ったら、ギィっと馬車のドアが開かれてた。
刃物を持ちなおして身構え、開いたドアの先を見た。
「待たせてごめん。怖かっただろう。
もう大丈夫だよ、ルヴィ。」
馬車の外には大きく手をひろげて、ジルが立っていた。
すぐさま持っていた刃物を捨てて、何も言わずにジルに飛び込んだ。
「良かった、間に合った。
怪我は無い?ひどいことはされていない?」
「うん。うん。大丈夫。」
落ち着くまで抱きしめられた後、怪我が無いかもう一度確認される。
ドレスに乱れはないし、ずっとメイも一緒だった。
王子と一緒ではあったが、純潔を疑われるような状況ではない。
ジョイン王子としても王妃にする予定だったのなら、
私の貞淑を疑われるような真似は出来なかったのだろう。
周りを見ると、ジョイン王子と御者らしき男が気を失ったまま縛られている。
縛っていたのはメイだった。
さきほど馬車を降りたのは、ジルから何かの合図が来たのだろう。
メイは侍女の姿をしていたが、女騎士が本来の仕事だ。
もし何かあって私が連れ去られるようなことになっても、
命がけで守るのが仕事だった。
首に刃物を突き付けられたのは、失態として怒られるだろうけど、
これで少しは騎士としての仕事もできたのではないだろうか。
「さぁ、帰ろう?馬で来ているんだ。
俺と一緒に乗ろうね。」
ジルと馬に乗るのも久しぶり。
でも、私は大きくなったけど馬は重く感じないかな…なんて思ったのに、
ひょいっと持ち上げられて、そのまま馬にのせられた。
なんだか悔しい…。
後処理は別部隊があとから来ると聞いて、メイはその場に残すことにした。
乗っていた馬車の馬は逃がしているらしく、使い物にならない。
別部隊が到着したら、ジョイン王子たちの護送と一緒に帰ってくるだろう。
横すわりのまま馬に乗ると、安定しなくて落ち着かない。
身体がぐらつくのを不安に思っていると、ジルが後ろから抱き込むように支えてくれる。
「ジル、久しぶりに乗るから、ちょっと怖い。」
「俺がルヴィを支えるから、寄りかかるようにしていて?
大丈夫。落ちないようにゆっくり走るよ。」
それならと思って、ジルに寄りかかる。
包みこまれる感じで、ほっとしてジルに抱き着いた。
くっついて離れなくなった私にジルは嬉しそうに笑ってる。
頭やこめかみに何度もキスをされて、少しくすぐったい。
もしかして心配させてたのかな…。すぐに助けに来てくれたし。
ここ何日からのモヤモヤが少しだけすっきりして、
そのまま何も言わないで王弟の宮に帰った。




