24.馬車の中
どこに御者が隠れていたのだろう。
私とメイが乗った後、ジョイン王子も乗り込んできてすぐ、馬車は動き出した。
エルドリア国の手のものを隠していたのだろうか。
私の護衛とジョイン王子の護衛は、いつから離されていたんだろう…。
いろんなことがあって疲れていたせいか、周りを気にしていなかった。
王宮のものが早く気が付いてくれればいいのだけど。
「やっと王女を連れ出せた。あー疲れた。
もう学園での授業なんか、とっくに終わってるってのに。
いい子ぶるのも楽じゃないな。」
シャツのボタンを2つほど外して緩め、ジョイン王子がそうつぶやく。
これが本当のジョイン王子なのだろう。
たしかに、こっちのほうがしっくりくる。
「なーシルヴィア王女、先に言っておくが、エルドリア国では女に発言権はない。
王妃だろうが、後宮に入ったら出てこれない。
無理に逃げ出そうとか、誰かに助けを求めたりは止めておけ。
無駄なことだからな。」
「…知っています。
ジョイン王子が留学に来るとわかった時に調べました。
第一王子を生んだ正妃もジョイン王子を生んだ側妃も、後宮内で暮らしていると。
王女も嫁ぐまでは後宮内から出られないそうですね。」
言い返されるのが気に入らないのだろう。
ジョイン王子の笑みは消え、少し眉間にしわを寄せる。
「なんだ、知ってたのか。
だから俺の求婚を断ったのか?」
「いえ、それが理由ではありませんが、私も聞いてみたかったのです。
お母様はとても自由な方でした。
それなのに、後宮内でしか生活していなかったのですか?
それがとても不思議で…。」
記憶に残るお母様はとても自由な発想の持ち主だった。
王妃としての仕事だけじゃなく、時には大臣と議論するような、
お父様よりも発言するような王妃だった気がする。
生まれてからずっと後宮内で、発言権も無い国で生まれたのに、
そんなことがあり得るのだろうか?
「ん?叔母上が?まさか。
ほとんど部屋から出ないで本ばかり読んでいたような王女だぞ。
女官ですら声をほとんど聞いたことがなかったと聞く。
こちらの国に来てから変わったということか?」
「…そうなのですか。」
おかしい。まったくお母様の印象とは違う。
亡くなってしまった人の性格を今更考えて、どうするわけじゃないけれど。
ふと、目の前のメイが震えているのに気が付いた。
少しだけ顔が青ざめているようにも見える。
さきほど刃物をあてられたのが怖かった?まさかね。
「すみません…一度降ろしてください。お願いします。
馬車の中で粗相するわけには…。」




