20.リガーレの王女
「リガーレ国から書簡が来たのですか?」
「あぁ、そうだ。」
私とジルがお父様の執務室に呼ばれたのは、卒業まであと二週間という時期だった。
先日まで戦争していたリガーレ国から書簡が来たというのは、
もしかして和平交渉する気なのだろうか。
それにしてはお父様の顔は渋いままで、怒りをこらえているようにも見える。
何が書かれていたのだろう。
「兄上、何か問題が起きたのですか?」
「その通りだ。…書簡にはこう書かれている。
長い間、誤解による争いで国は荒んでしまった。
お互いの国を立て直すためにも同盟を結び直したい。
同盟の証として我が国の第二王女を、
ジルバード次期国王の側妃として娶ってくれ、とな。」
レガーレ国の第二王女をジルの側妃に?
側妃は廃止してしまっているが、同盟のためなら受け入れざるを得ない?
思わずジルを見上げてしまう。
それに気が付いたジルは、私に微笑んでお父様に向き直った。
「兄上、もちろん断りますよね?」
「それはもちろんだ。」
え?即答で断っていい話なの?
国としての打診に、それでいいのかな。
「だいたい、第二王女ってなんですか?
あそこは王子の他は第一王女しかいなかったはずです。
偽装して送り込ませたいんじゃないですか?」
「だろうな。だがな、問題はここからだ。
すでに王女がこちらにむかっているそうだ。
着くのは明後日だ。
すぐに断って帰るようならいいが、居座るだろうな。」
「そういうことですか。どうするかな…下手に殺すとまずいか…。」
殺すって…平然と言ってるけど…あぁそうだった。
ジルは先日まで、そういうところにいたんだわ。
5年前と変わらないジルに安心していたけど、変わっていないわけがない。
私の前では変わらないでいてくれているだけなんだ。
「着いたらまず俺に謁見するだろう。
その時に向こうの申し出は断るが、居座ったあと追い出すまでの間、
二人とも隙を見せないようにな。
もちろん留学中の王子のほうも、帰るまで気を抜くなよ。」
「はい。」「ええ、わかりました。」
謁見室からエスコートされて王弟の宮に戻ったけど、
ジルはなんだか考え込んでいるようで、それ以上は聞けなかった。
2日後、謁見室で会った王女に、私もジルも、なぜかお父様も驚いていた。
黒髪の妖艶な王女は、あの時の女官にとてもよく似ていた…。
「リガーレ国第二王女、ラミサージャ・リガーレです。
どうぞ、サージャとお呼びください。」
「リガーレ国の第二王女よ、わが国は側妃を廃止している。
そのため、あなたを側妃として歓迎することは無い。
もちろん、妾などの立場のものも考えていない。
このまま帰ってくれないだろうか?」
第二王女は困ったわという表情で頬に手を当てた。
あふれ出るような色気に、護衛たちがざわついている感じがした。
「わたしく、このまま帰ったらお父様に殺されますの。
せめて何日か滞在させてもらえませんか?
その間に覚悟を決めたいのです。」
「覚悟とは?」
「王女として他国に逃げるか、平民に落ちるか、
潔く帰って殺されるか、ですわ。」
微笑んで答えるような内容ではなかったが、
王女は迷いなくそう言った。
「…10日だけやろう。今、他国から王子が留学してきている。
その王子が帰る時には、あなたも去るように。」
「それは、その王子の国に行けるよう交渉しろということですわね?
わかりました。温情に感謝します。」
こうして王女は10日間王宮に滞在することになった。
滞在先は王子のいる離れた宮に近い、今は使っていない先々代の宮だった。




