ラブラブモードが一転 恐怖モードへ
石が転がってきた。
やばい!
すぐ左を通過した。
パックが薄笑いを浮かべて首を捻る。
おかしいな? 雨も降っていないのに。
馬鹿! ここは落石地獄だ!
最後の看板を見る。
落石地獄引き返せ!
そう言ってる側から小石が左側を通過した。
続けて少し大きめの石も流れてきた。
危ない!
右に避ける。
何とか回避。
まともに当たっていればただでは済まない。
それどころか動けなくなれば命の危険もありうる。
引き返せ!
もう遅いっす兄貴!
パックは頂上目がけ走り出した。
次の落石の前に登ってしまおうと言う考えらしい。
まったく! 付き合いきれない!
二人だけでも……
プラスティ―も一緒に駆け出した。
バカなのだろうか?
それともパニックになっているのか。
危険な賭けに出る。
自分達の衝撃で再び落石が起きたらどうするのだろうか?
急がば回れは奴らに通用しない。
仕方なく走り出す。
恐怖のクライミングの始まりだ。
イベントとしてはすこしハードな気もする。
慎重に急ぐ。
落石の恐怖に耐え、ついに頂上へ駆け上る。
気持ちいい!
雄たけびを上げる。
やった!
私たちの愛の力ね。
まあうん。無謀だけど結果さえよければ問題ない。
あれが俺らが目指すところ。
第一チェックポイント。
温泉! 温泉!
さあ、急ぎましょう。
二人が張り切りだした。
これはマズい兆候。
急ぐな! 慌てずにゆっくり行こう!
兄貴がそう言うなら。
うん?
どうしたのプラスティ―?
ううん。何でもない。ただ何となく見られているような気がしてさあ。
そんな馬鹿な! 俺ら以外誰がいるんだ?
さあ、なんとなくそんな気がしただけ。
嫌な感じがする。
プラスティ―は何かを感じ取ったようだ。
いやいや、この人は自意識過剰だからさ兄貴は気にしなくていいよ。
新たな展開。
パックは走り出した。
ちょっと!
パックのスピードに追い付けそうにない。
こんな時に役に立つのがお助けアイテム。
まあそんな都合のいい物をアル―が用意してくれるはずもなく。
だがアイテムの代わりになるような物が落ちてきた。
落石が迫ってきた。
慎重に下ればさほど問題ないのにパックが気にせず駆けるものだから褒美として石が返ってくる。
パック!
避けて!
叫ぶがまったく届いていない。
右だ! 右に行け!
聞こえたのか方向を変える。
石は一定の方向にしか転がらない。
法則さえ分かってしまえば対応は可能。
プラスティ―の手を掴みパックの方へ。
危機一髪で回避に成功。
うわ!
後方から人の声が上がったような気がした。
無言で山を下る。
もう少し。
あと少しで目的地と言ったところで日が暮れ始めた。
まずい!
早く!
迷ってしまう!
いくら麓付近と言えども遭難もあり得る。
急ぎましょう!
プラスティ―が先頭に立ち誘導する。
暗闇に浮かぶ小さな光。
前方に民家が見えた。
ラッキー!
おお飯だ! 飯にありつける!
空腹のパックと野宿はもうこりごりのプラスティ―。
止めるのも聞かずに駆けていく。
おーい! 早く兄貴も来て!
失礼の無いようにね。
もうお邪魔する気満々の二人。
うん?
違和感。
こんな所に民家一つだけ。
他には見当たらない。
副市長の話では大きさはどうか知らないが温泉郷があると言っていた。
これではないし、近くにも見えない。どういうことなのか?
待て! ここは第一目的地ではない。
兄貴。そんな固いこと言わないで中に入りましょう。
そうよカン。ここで一晩お世話になりましょう。
待ってくれ! 何かが変だ。おかしい。
兄貴も心配性だな。
もし、もし?
中から人が出てきた。
どうされましたか?
白髪のやせ細ったまるで骸骨のような老女が目の前に現れた。
敵か味方か?
外から話し声が聞こえると思ったらお前さん方は他所の者かい。
ええ、事情は話しますので今晩泊めて頂けませんか。
プラスティ―はまるで子供の母親かのように振る舞う。
そうかそうか。なら一泊していくといいよ。余りものなら用意できるしね。
老女の好意に甘え一晩お世話になることにした。
狭い薄汚れた室内。
電球が切れかかってるのか点滅してチカチカする。
どうする? お風呂にしますか? それとも食事にしますかなあ?
お風呂はありがたい。旅に出てからロクに風呂に入っていない。
お風呂!
食事!
プラスティ―とパックの意見が割れる。
俺としてはまず風呂で泥や垢を落としたいのだが。
風呂は歩いて十分もすれば天然の温泉がある。行くんだったら裏口に回りな。
まっすぐ行けば見えてくる。
もう真っ暗になった道を歩いていく。その怖さと面倒臭さから先に食事にすることにした。
がつがつ!
お代わり!
もうないよ。一体何杯食べるんだい?
カンは二杯で我慢したがパックは止めるのも聞かず三杯も四杯も食べてしまう。
旨い! 旨い!
この味噌汁が最高!
中には煮干しと鶏肉、それから得体の知れない野菜やキノコ類。
漬物と練り物が付き、メインの焼き鳥が食欲をそそる。
パック食べ過ぎだぞ! 少しは遠慮して喰え!
プラスティ―も焼き鳥ばっかり食べないで他もちゃんと喰え!
フォフォオ
若いね。いいよいいよ全部食べな。
すみません。本当に恥ずかしい。
兄貴だってたらふく食べたくせに!
そうよそうよ。
批判の声。
ゲップ。
赤ん坊のようにゲップをし横になるパック。
やっと寝てくれた赤ちゃん。
プラスティ―は母性全開。
さあカンももう寝なさい!
おいおい。風呂に入ろうぜ! せっかくだしさあ。
もうカンったら。
ええ?
ふぉうふぉう。
行くがいい。こ奴の世話は任せておけ。
食事を済ませ露天風呂に向かう。
真っ暗な山道。光を失っては最後。ここがどこか分からなくなってしまう。
迷わないように慎重に進む。
怖い!
平気だって!
プラスティ―が抱き着いてきた。
胸の内から湯気。
興奮が収まらない。
再び歩き出す。
あれ、迷ったかも。
ちょっと! まっすぐの道をどうやって迷うっていうのよ!
ラブラブモードが恐怖モードに変わる。
仕方がない引き返そう。
カン! 大丈夫?
ああ、たぶんね。そんなに歩いてないよ。
来た道を戻る。
しかしそこには恐怖モードがマックスとなる光景があった。
あのー 迷っちゃった。
聞こえなかったのか老女は姿を現さない。
仕方なく中へ。
と同時にパックの叫び声がした。
おい、どうした? 何があった?
駆けつける。
ヒヒヒ……
止めろ!
パックが逃げる。
馬鹿め! 誰も来んわ! 大人しく餌食になるがよい。
ふぉふぉふぉ
化け物!
見たな!
白髪鬼がパックに襲い掛かっている。
お前は何者だ?
そうよ姿を現しなさい! 妖怪!
儂の正体を見た者はいない。
大人しく三人とも喰われるがよい!
絶体絶命のピンチ。
この危機の場面を三人はどうやって乗り切るのか?
続く