46話 祭壇への突入
「トルチネちゃん、いつも言ってるでしょーよぉ。噛み付く相手を間違えるなってぇ」
ギルド“十二戦士”の盟主、ティータンさんがそんな事を言っている。相手は間抜け女……トルチネさんだ。
顔合わせが終わり、各々が祭壇の状況を確認し、今からは全員で夕食。まあ、懇親会のようなものだ。
意外と馬鹿にできないのだ、こういう場は。食事という当たり前の日常を共にするだけで仲間意識が芽生えたりする。高校生の剛くん達には辛いかもしれないが、まぁそのあたりはタチミツさんとザオトメさんが上手くやるだろう。
「トルっちは無駄に好戦的なんだよぅ。ほら、情緒がもう」
「それってつまり欲求不満?」
「あれじゃん? こないだの“ナイトメア”とのイベントでPKされてイラついてんじゃないの?」
「安い挑発にモロに乗っちゃって。しかも半分自爆とか笑えるっしょ」
ちーころ、辰辰、アンドロ子、ひょんなもん。そしてトルチネとティータン。この六人が“十二戦士”である。あとの六人は募集中とのこと。
本当に、皆んな強い。トルチネさんだけが魔術士であとはアタッカーばかりなのが特徴だろうか。
「悪いねぇ、ヘラくぅん。ほらぁ、うちのトルチネちゃんが迷惑かけてー」
「少しだけ、苛ついてしまいました。停滞している時間が好きではなくって」
相性が悪いのかねぇ、とティータンさん。相性の問題ではなく、価値観と思考構築の相違が問題だ。彼女と共に行動するのは不可能というだけのこと。
「にしても意外ですね。かの有名な“十二戦士”に彼女が選ばれるとは」
これは素朴な疑問であった。確かに彼等は強い。五人ともが何かしら秀でている。
だが、トルチネさんは違う。とても普通で、剛くん達にも及ばない。まあ、彼等も平均よりは随分と強いのだけれど。
「見くびるじゃん? ウチらの大事なトルちゃんをさ」
アンドロ子さん。人間の女性だ。細剣を二本使うらしい。
眠そうな目からはやる気が感じられない。でも、強いなぁ。
「そうではなく、彼女は明らかに貴方達よりも弱い。システムにおいてもプレイヤーとしても、レベルが低い」
「あれ、分かっちゃうんだ。ヘラっちって超能力使えちゃう系?」
答えてくれたのはちーころさん。エルフの女性。大きな剣を背中に担いでいる。“迅雷”の速度を目で追えた人だ。
「これでも強敵とばかり戦って来ましたから。見抜く力はそれなりです」
「それってつまり自慢?」
皮肉げな言葉とは反対に爽やかな笑顔を見せるのは辰辰さん。魔人の男性で、彼も大剣を使うらしい。
「自慢ではなく事実ですね」
「うんうん。ヘラさんほど格上相手にしてる人いないっしょ」
そう言ったのは、ひょんなもんさん。男性で、狐の獣人、だろうか? 武器は……よく分からない。と言うか色んな種類の武器を装備している。
「青田買い、ってやつさぁ。将来に投資するのも悪くないでしょーよ」
ティータンさん。狼の獣人で大男。ハルバートを背中に担ぎ、腰には二本のナイフ。
この人、謎だな。強さが見えない。勝てる、とは感じるが、手こずる予感もあるし、そうでないような気もする。こういう底が見えない人は要注意だ。
「では、彼女には素質があるのですね」
「んー? なんのぉ?」
「外し方を習得できる素質です。あなた方は五人ともが外している」
空気が、明確に変わった。五人からは笑顔が消えていて、トルチネさんが慌てた様子で食べ物を配り始める。
突然の緊迫感にへーエルピスの皆んながこちらを見てくる。何でもないと手を振って、念のために警戒。
「ほら、食べませんこと? せっかくの料理が――」
「それっぽいこと言うじゃん? あんたも外してるって?」
代表して、と言うわけではないだろうが、アンドロ子さんが敵意と共に尋ねてくる。表情は無気力なのだが。
「ええ、まぁ。じゃなきゃ今頃はまだゴッドレスの中です」
「いやいや、それはないっしょ。ヘラさんてブッ飛んでクレイジーだし」
「ひょんなもんさん程ではないかと」
何種類もの武器を使う人には負けるよ。
「それぇ、なんで外してるプレイヤーが分かるのかねぇ?」
「ふん? ティータンさんは分からない?」
「わっかんないねぇ。でも、僕等が仲間にするメンバーの条件はそれだよぉ」
へぇ。十二人も揃わないわけだ。ルナさんほどじゃないが、獅子丸くんやポイさんよりは外せている。そんなプレイヤーは居ないだろう。
「うわー、ヘラっちっておもしろーい! ねえ、ティータンたん、ヘラっちも入れようよ!」
「その呼び方ぁ、やめてくれないでしょーかぁ」
「それってつまり勧誘?」
「うほっ、マジで? あの鬼人と同じギルドとか胸熱っしょ!」
「はぁ? 無理じゃん? そいつ、一人でサードエリアまで行っちゃうようなヤツだし。しかも東」
もっと殺伐とした雰囲気の集団。それが“十二戦士”に対するイメージであった。
彼等の実態は、誰よりもゲームを楽しむ人であった。きっと、へーエルピスの人たちよりも。どちらかと言えば俺に近い。
だが、違うのは、彼等は意識の全てを強さや戦闘に向けていること。だだの勘だけど。
「でぇ、実際はどうでしょー? ヘラくん、ウチに来ない?」
「行きませんねぇ。俺、ソロだし。ああ、分かっているのです。“十二戦士”の皆さんも普段はソロなのですよね?」
「それでも来ない、とぉ。残念だぁ」
「ちょっとティータンたん! 簡単に諦めすぎでしょ!」
「だからぁ、その呼び方やめてほしぃぃ」
さほど残念では無さそうに言うティータンさん。本当に掴みどころがない。
でも、何かこう、惹きつけられるものがある。カリスマ、ってやつだろうか。タチミツさんとは別種の、ミステリアスなカリスマ性だ。
と、ここでメールが来る。差出人は我が相棒。タチミツさんに内容を知らせようとしたのだけど、店の入り口から感じる気配に口を閉ざす。たぶん、彼女の登場は派手な方が良い。
店に居る全員がそちらを一斉に向いた。なんせ、扉が軋むほどに力強く開かれたのだから。
「こんばんはー!」
聴こえた声も大きい。しかも発したのは絶世の美女である。
「遅れて申し訳ございません! ワタクシ、今回のイベントに参加希望のルナリアスであります! いやぁ、ギリギリセーフですな!」
「どちらかと言えばギリギリアウトだけどね」
「そこ! 余計なこと言わない!」
ビシッ、と指を指されてしまった。
我が相棒はいつでもどこでも元気いっぱいである。
でも、今、この時に、俺は明確に自覚したんだ。誰かと組むのなら彼女だと。俺がソロをやめるとしたら彼女に誘われた時だと。そうハッキリと理解したのだ。
「ラーさん、もー! 何でもっと早く言ってくれないの? 地中深くから戻るの大変なんだから!」
「俺もあの時に知ったんだよ。ルナさんこそ掲示板を見てれば知れた筈だけど?」
「むむむ。ラーさんのくせに正論を」
「ほら、俺は頭脳担当だからね」
ははは、と笑う。お互いにだ。落ち着くなぁ、と。彼女の空気に触れるだけで癒される。それだけで活力が湧いてくる。
「ちょっと、ヘラが笑ってるわよ?」
「強敵の予感がするのです!」
ポイさんとヨミさんがこちらに手を振っている。ルナさんを紹介しろってことだろう。
タチミツさんを見れば深い頷きが返される。やはり俺に紹介しろ、と。でもまあ、今ので終わったような気もするが。
「んー……」
「ラーさんどしたの?」
「……うん、そうだな。ねぇ、ルナさん。魔法発動までの時間は、1秒くらい?」
そう問えば、彼女はアハハと明るく笑った。
「そんなわけないよぉ」
「つまり?」
「半分、の半分くらい? 1秒もかかってたらソロとか無理だし。ってラーさん知ってるでしょ?」
そうして、俺の思惑通りに、特大の爆弾を落としたのであった。
「タチミツさん、明日は彼女と突入しても?」
「ルナリアスくんと、か。なるほど」
「ええ。彼女となら、どんな相手でもこじ開けられる」
攻略メンバーから発される様々な空気。驚きとか、興味とか、少しの敵意も。
これで彼女の紹介は終わりだ。ついでにスケープゴートになって貰おうか。
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「……御武運を」
ひどく小さな声でそう言ったのは、キュアリー教会の長である司教様だ。
黒いヴェールの向こうは相変わらず少しも見えない。神秘、ってやつだ。
豪奢な部屋だった。奥は広大な庭に面していて、数えるのも嫌になるほどの騎士達が並んでいる。教会には莫大な富があると叫んでいるようなものである。
騎士団は金を生まない。むしろ金食い虫だ。あれだけの騎士を囲えるのだから、まあ、お金持ちなのだろう。
「めっちゃ戦力あんじゃん? 自分らで始末つけろっての。自分らが蒔いた種なんだからさ」
部屋を出てすぐに、アンドロ子さんが大声でそう言った。
確かにな、と。今回の騒動に対する答えはそこにある。
蝋燭がふんだんに並べられた廊下を歩いていく。5分もしない内に目的地へと辿り着いた。
「全員いるね?」
タチミツさんの確認に応える参加者たち。やる気に満ちた気配が頼もしい。
さて。やっと攻略だ。さっさと終わらせて帰る予定だったのだが、物事は予定通りにいかないのが常である。
とまあ、無理矢理に自分を納得させ、大きな扉に手をかける。縦横15メートルほどの、まるで巨人のために作られたような門であった。
もう良いですか? タチミツさんにそう問えば苦笑いが返される。横に並ぶティータンさんも同じような表情で。
「各々の役割を確認しておきたかったが」
「もぉ行きましょー。今さらやるべき事が分からないプレイヤーなんて、ここには居ないでしょーよぉ」
トルチネさんの肩を叩くティータんさん。あからさまなその態度にトルチネさんが鼻息を荒くする。
お兄さん、マジで大丈夫なのかよ、と剛くんは不安げだ。まあ、中の状態を確認してからは誰もが同じようなものだった。武器を振るうスペースすら無いのだから。
「大丈夫だよ。経験したことあるし。それに、ルナさんがいれば何とでもなる」
「えへへー。少年、お姉さんとこのおじさんに任せなさい! 君たちが暴れる場所くらい作ってみせるさ!」
彼は奇妙な表情で頷いた。怪訝な表情、とも言える。俺達の自信と、ルナさんが俺をおじさんと呼んだことに疑問を感じるのだろう。見た目は逆だからね。
「ヘラくぅん、頼んだよぉ」
「ティータンさんもお願いします。なるだけ引きつけますが、二の矢はあなた達だ」
「任されましたとも。対策だってバッチリさぁ。ま、君たちが失敗したらそれも無駄になるんですがー」
明るく笑う狼男。値踏みのつもりか。
だったら、見ていれば良い。
扉を思いきり引く。昨日の時点では一人で動かせるのは俺だけであり、なんとも非効率この上ないが仕方ない。まあ、一人で開ける必要もないのだが。
しかし他のメンバーには準備がある。だったら待てば良いだけなのだが、俺にそのつもりはない。
「ヘラくん、ルナリアスくん、任せた」
「任されました」
「がってん!」
開ける視界。当然のように埋め尽くされた空間。耳障りな甲高い鳴き声。さて、数は。
「数は千五百ちょうどです」
「それってつまり大体の数?」
「いえ、正確です」
「はあ? ウソ? 数えられるわけないじゃん」
「いえ? これくらいなら数えられますが」
「うわぁ。壮観だよねぇ! ヘラっちとルナっち、ホントに突っ込むのー?」
そんな会話が呼び水になったのか。
ギョロリ、と。無数の目がこちらを見る。首だけを動かす様はなんとも不気味であり、しかし言ってしまえばそれだけである。
「うひょー! やばいっしょ! ここに入るとか胸熱!」
「ヘラッ、頑張んなさいよ!」
「ヘラ様、どうかお気をつけて。すぐにバフをかけに参りますから」
「あー、ヨミ? ヘラさんのとこに行かれたら自分らが死ぬっす」
感想や応援や、色々な感情と言葉を背に受けて、脚に力を込める。
「ルナさん、行くよ。いつもと同じく」
「ラーさん、行こう。いつもと同じで」
前へ。入り口をまたぐ瞬間に跳躍。上へと舞って、抜刀。
下には蜥蜴の顔を持つ化け物がひしめいている。重厚な鎧、肉厚の槍、縦に割れた黄色い瞳、硬質な鱗。どれもありきたりだ。
人間より大きな肉体はハッキリと脅威だ。“死床山”の亡霊騎士のような宝珠も無いし、強さもリザードマンの方が明確に上。けど、さしたる問題じゃない。
「うはは」
馬鹿どもめ。そんなに密集するから槍を振り上げることもできない。
だから、俺の攻撃が先にあたるんだ。
「薄刃伸刀」
二刀に、さらなる先が生まれる。それを頼りに下へと突き出す。狙いは二つの蜥蜴頭。
軽い手応え。魔力の刃が消えた感覚。遅れて聴こえる生々しい音に紛れるようにして、棒立ちになっている一体へと蹴りを放つ。彼を足場にして。
さあ、切り拓こう。
自分に潜り、“迅雷”を発動する。足に伝わるのは、踏み台にした分厚い鎧を砕く感触。
「薄刃伸刀」
生じた二体分の隙間を利用して、突撃。
狙いは扉側に立つ二体の首。ぬらりと光るそれに向けて二刀を振るう。スルリ、とまたもや軽い手応え。
扉まではあと五体。動く暇も思考する隙も与えるな。
でも、どうせなら少しばかり派手にいこうか。
フラッシュを皮切りに魔術を全方位へと乱発する。
前進。雷を模して、魔力の刃を携えて。そうして、連続で、駆け抜けろ!
「うはっ!」
明らかに色々が増している。成長しているのだ、“薄刃伸刀”の全てが。発動速度も、強度も、長さも。硬質な鱗を物ともしない。
念のために鎧を避けて、剥き出しの首を刎ねる。或いは四肢を切り裂き、首を断つ。
新しい力は大当たり。称号で言えば“魔の求道者”。スキルで言えば“魔塊”。この二つと“薄刃伸刀”の相性は最高だ。
だから、大群にもこうして突貫できる。だから、こうして切り拓ける。
「やあ、待ったかな?」
「遅いぞー、きみ」
肉塊が転がった先に、神々しいまでに美しい女性。
「お待たせして失礼を。お迎えにあがりました、姫」
柄にもないセリフを吐いて手を差し出せば、フワリと彼女の掌が重ねられる。
「苦しゅうない、爺」
爺、かよ。王子くらいにはなりたかったが。
不満の表情を、なるだけそれっぽく作ってルナさんを見る。彼女は笑顔で前を見つめていた。それは、全てを忘れさせるほどに魅力的な笑顔で。
「――ッ、うわ」
敵を見据える彼女の顔を、なんと表現すべきなのだろう。敵意を剥き出しにした彼女の貌を、どんな言葉で綴れば良いのだろう。
惨たらしいほどに、悍ましいほどに、恐ろしいほどに、ただひたすら美しい。
「行くよっ、相棒!」
「任せろよ、相棒」
反転。祭壇の奥へ。背後からは轟々と魔力が放たれていて、それが体を加速させてくれる。
リザードマン達もようやく動きを見せ始めた。千五百に迫る数の敵。同じ数の槍。同じだけの殺意。しかも一体ごとにしっかりと強い。
けど、ああ、少しばかり反応が遅すぎるんじゃないかね。
「ロックレインッ、アイスレインッ、フレイムレインッ、ライトニングッ、ライトニング!」
「薄刃伸刀」
この、エフェクト。何度でも感動させてくれる。いつだって求めてる。その世界を、全力で行く。
降り注ぐ雨も、迫り上がる岩も、追加で放たれる雷も。全てを感知し、予知し、躱して、駆け抜ける。
無意識のうちに二刀を振るっていた。そうするのが正解だと確信していた。どうするべきかを理解していた。
ルナさんの魔力を感じて、浸って、示された生命を奪い取る。それが俺の役目であった。
「ヘラっちやばーい! 魔術を躱しながら敵を殺してるぅ!」
「これ、マジ? こいつらオカシイじゃん?」
「お兄さんとお姉さん、すっげぇ……」
「なんであんな事ができるんでしょーかぁ?」
やれるさ、ルナさんとなら。どんな事だって。
「うははっ!」
やれると思ったからといってやれるものではない。そう言われた事がある。俺の技術は尖っているだけで華がない、とも。
がむしゃらに挑戦しながら生きていた。自分の可能性も、未来も、少しだって考えた事はなかった。ただ、やれると思ったからやっていた。
師を超え、独立し、人を雇えるようになっても、少しだって満足できなかった。いつ死んでも後悔がないように。それだけを考え、そうして楽しむことを忘れていった。
未来を見もしない男に、現実は真っ正面から突っ込んで来た。全てを失ったのは一瞬だった。たったの一瞬で、築き上げた全ては簡単に崩れて無くなった。死ぬことすら許されないままに。
――なら、今はどうだ?
やれるさ。思っているわけじゃない。解っているのだ。背後で苛烈に魔力を練り上げる女性となら、このくらいの敵は取るに足らないと。
前へ。前へ。前へ。
簡単ではないと、それは理解している。ただの刀では鱗を裂くのがやっとで、大きな槍は一撃でこちらを貫く。
しかし違うのだ。刀はより鋭さを増し、敵の槍は視えている。
心臓が胸部を押し上げるほど強く脈打っていた。熱い血が、人間としてはありえない圧力で押し出されている。
肉体がそれを余すとこなく受け止めていた。酸素を始めとした色々を高効率で取り込んでいる。
音が消えていた。色を失くしていた。それでも、意思だけは奔っていた。
「サンダーレイン!」
だから相棒だって容赦ない。頭上に生み出された雷の雨は、どうやっても躱せそうにない。
――できるよ、ラーさんなら。
音が消えた世界でそんな声が聴こえた。そしてそれはきっと空想でも空耳なんかでもない。
なら、やらねば。相棒から向けられる信頼にだけは応える必要がある。
「がっ、ああああ!」
まあ、無理なんですけどね。雷を躱せたら全クリでしょう。
もっと気楽にイベントを消化したいものだ。今さらになってそんなことを考える。
でもまあ、そうなるまであと少しってところ。雷に焼かれたせいか、音も色も戻ってしまったけれど。
さあ、道は切り拓いたぜ?
「いくら何でも切り拓きすぎでしょーよ。ほら行くよぉ。“十二戦士”、いざ出陣ってねぇ」
「それってつまりは皮肉?」
「実際は六人だしねー」
「笑えるっしょ!」
「しょーがないじゃん?」
「さあ、私の出番ですわ!」
締まらないねぇ。そう言いながら狼男が突進し始める。埋められかけた空間をハルバートで切り裂いていく。
後に続くのは五人のプレイヤー。誰もが強く、リザードマンを確実に殺していく。トルチネさんも想像とは違い善戦している。魔術の発動は遅いものの、なかなかの高威力だ。
「この中に入んの? マジかよ」
「剛、行こうぜ」
「さっさと終わらせてお肉たべるわよ」
「怖いけどっ、頑張ります!」
続けて剛くんたちと、へーエルピスの一班が。
彼等もやはり強い。先の六人には劣るが、それでもファーストエリアで戦うプレイヤーからは一線を画す。
「さて。我々も行こうか」
「あー、自分、一人で突っ込んでも良いっすか?」
「調子に乗らないの。あんた、レベル低いんだから」
「良いじゃねぇか。男にはやらなきゃなんねぇ時があるんだよ」
「若いって素敵ねぇ」
「さぁ行きなさい、私の犬たち。その卑しい肉体では届かない場所に到達させてあげましょう」
最後に、タチミツさん達が入ってくる。彼が今回のキーマンだ。彼の指揮と状況判断に攻略が懸かっている。
獅子丸くんたちが彼を守れなきゃクリアから遠退いてしまう。
でもまあ、後続のやり取りを眺められる程度には余裕がある。
これで役者は揃ったというわけだ。さあ、攻略しようぜ。




