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5話 さあ、突貫だ

 



 強敵を向こうにして新たな自分を観察する。胸の高鳴りはどうしようなく荒ぶっていて、期待感に吐き気すらこみ上げる。



──────


ヘラ:人間Lv.3:開拓者Lv.3/捻じ曲げる者Lv.1

スキル:【刃物の心得Lv.3】【空間認識Lv.4】

【肉体操作Lv.4】【洞察Lv.2】【暗視Lv.1】

【神聖魔術Lv.1】【魔力操作Lv.1】

独自スキル:【飢餓の切望】

称号:【闇に生きる者】【逸脱者】


──────



 さて、考察すべきの多いこと多いこと。

 まずは職業で、二つ持ち(ダブル)になってしまった。ごく稀にスタート時から二つを与えられるプレイヤーも存在するようだが、これは現時点で大きなパワーアップかつアドバンテージと言える。


「成長率低減を逸脱、か」


 この世界のスキルは大きく二つのカテゴリーに分類される。武技と魔術だ。この二つは相反する存在で、同時に所持すれば種族、職業、スキルのレベルアップに必要な経験値が著しく増加する。つまるところ成長にとって大きな不利を招く。

 それをナシにしてくれるのだ、“捻じ曲げる者”は。若しくはペナルティーを小さくしてくれる。細かな効果は分からないが、おそらくは後者かな、と。


「効果の分かるものとそうじゃないものがある理由は何だろう?」


 それ良いとして。

 取得した称号の一つ、“逸脱者”。これはいわゆるトリガーであり、直接的な効果は無いようだ。

 引かれたトリガーは職業とスキル取得の機会であり、得たものは職業“捻じ曲げる者”であり、スキル“神聖魔術”であり、同じく“魔力操作”である。

 魔術スキルの取得には条件が設けられていた。ポイント、と言っても良い。取得可能なスキルはいくつかあって、けれども強そうなものだと一つしか選べない。


「まあ、良い選択だと思う」


 うん、そう思う。

 にしても魔術か。あまり好きじゃない。だって複雑そうだもの。


「闇に生きる者と暗視は、まぁそのままか」


 夜目が効いている。さっきまでは影としてしか捉えていなかった狼くんを明確に目視できるほどに。これ、視力も強化されてるな?



──────


ワーウルフ:???

フィールドリーダー/風切り草原・奥地/???

スキル:???

独自スキル:???


──────



 フィールドリーダーと来たか。スキルどころか種属レベルすら見えないってことは圧倒的な格上だ。


 名前から湧くイメージとは違い、狼とそう変わらない様相である。直立することもなさそうだ。だが、大きい。

 体高は俺の目線と同じくらいで、つまりは180センチほど。全長は4メートルをゆうに越えている。巨狼と言って良い。怪力だろう。

 紅の毛並みが夜空の光に照らされていて、ひどく硬質な印象を受けてしまう。この刀が通るのか。


 やめろ。ネガティブな思考なんてクソの役にも立たない。

 初見で、強敵で、格上だ。勝ちへの手順も道筋も見えやしない。ただ一つ、敵を殺す事だけを心に刻み込む。


「よし、行こうか?」


 視線を前に。意識を自分に。想いを敵に。


 そうして、さあ――突貫だ。


 ザザザ、と。足音を立てて疾走する。全力かつ繊細に。ブレない重心をイメージしつつ、だからこそどうとでも動けるように差配する。

 右の刀を握り締め、左の鞘を軽く持つ。風下で、背後で、スピーディーに。つまりは奇襲だ。


 尻を向けたワーウルフの毛が逆立つ。敵意に気付いたか。


 やろうぜ、生と生のぶつかり合い、死闘ってやつを。


「おおッ」


 俺の間抜け野郎。奇襲しながら声を出すなよ。興奮するな、根っこまでクールになれ。


「ガァアアッ!」


 ほら、バレたじゃんか。なんて素早い反転だろうか。俺の動体視力じゃ捉えられない。

 つまりは彼の攻撃も同じだろう。


「フラッシュ!」


 神聖魔術を使う。いわゆる目眩しってやつ。深い闇の中に突如として現れる強烈な白光。

 単純で簡単な子供騙し。けれどもこの環境下では有用だ。

 敵の視界を奪い、肉迫。なり振り構わず開かれる顎門を避けるようにして彼の背後へ。

 太い尾が振るわれる。イメージとしては防げそうだが、感覚が無理だと告げている。


 下へと掻い潜る。首筋に伝わる風が、感覚こそが正しかったと言っている。尻尾でこれだ。噛みつきや殴打は一撃で死ねるだろう。

 でも動けてる。それに、あるじゃんか、弱点。

 振り切られた尾の下に、雄としての象徴的部位。ご丁寧に揺れる二つの玉まで。思わず潰したくなるほどに雄々しくて。


「とう!」

「ギャアアア!」


 悲壮な叫びに、唇が吊り上がる。痛いよなあ? 止まるでしょ、思考と呼吸が。


「ジャンプ!」


 跳び箱の要領で彼の背に。なんだよ、かなり上がってるじゃんか身体能力。

 バリバリ、と逆立つ毛に皮膚が削られる。マジで通るのかな、斬撃。


「試しましょう」


 彼の逞しい肩に乗り、鞘で左耳を強打する。ながらに刀でもって首へと突き刺し攻撃。


「ゴァアアッ⁉︎」

「うはっ、通るじゃんか!」


 浅いけれど、吹き出す血を見るに十分な結果だ。さあ、一旦離脱しよう。置き土産として左の前脚へ攻撃、鞘と刀で。

 血が滲み、骨が晒され、肉がはみ出る。その向こうから迫る大きな口。


「――ッ、うぉ!」


 今度こそ離脱、全力で距離を置く。

 初撃にしちゃ十分すぎる結果を得られた。これで負けたらかっこ悪いぜ。


 さて、もう一度。同じ手順と、同じ方法で。


「フラッシュ」


 目眩し。これが素晴らしい。夜だ、今は。殆どの生物は視界を確保するため躍起になる。そこに浴びせられる強烈な光。効果は絶大だ。

 本来ならば自分にも襲いかかる白光が、けれども目を閉じたまま戦う俺には意味をなさない。ありがとね、“空間認識”さん。


「魔力操作も良い仕事してるぜ?」


 なんてものじゃない。このスキルは破格の性能を持っている。

 魔術の発動には決められた法則がある。その代表は使用と効果の範囲。フラッシュという魔術に関して言えば、決められた位置にしか白光を発現させられないのだ。ただし、通常であれば、だ。

 それに少しの自由を与えてくれるのが“魔力操作”の能力だ。発動位置はある程度は任意になり、なんなら僅かながら強弱もつけられる。弱くする事の利点もあるわけで。


「――ガァ⁉︎」

「うははっ! まだ光ってんですよ!」


 弱いぶん、長く光らせられる。

 ワーウルフだって馬鹿じゃない。魔術に対応しようとする。発動を予感し、目を閉じて凌ごうとする。

 でも残念ながら悪手です、自滅です。発動時間を長く設ければ目を焼かれることに変わりはなくて。だからと言って長く目を閉じていれば――。


「ざくりっ!」

「ギャァ!」


 こうやって攻撃を受ける。


 我ながら良いスキルと組み合わせを選んだな、と。


 攻撃と離脱を繰り返す。鞘で打撃を。刀で斬撃を。鍵になるのはやはりフラッシュだ。目眩しが成功しなきゃ、俺なんてとっくに殺されている。


 ワーウルフの動きが鈍っていく。それに反して俺の動きは鋭くなっていく。

 良い。実に良い。成長を実感できるってのは素敵だ。レベルやスキルというシステム上における成長ではなく、俺自身の能力が昇る感覚。これは、病みつきになる。


『おめでとうございます! 一定の条件を満たしました!』


『スキル【二刀の心得】が取得可能になります!』


 今度はシステム上の成長機会がやってきた。

 ふぅん? やっぱりだ。この世界じゃ努力と苦労が確実に報われる。


「とう!」

「ギャン!」


 ワーウルフの鼻っ面を強打して大きく距離を取る。ながらに“二刀の心得”を取得。そしてまた攻撃へ。


「こんなに違うのか」


 スキル取得前と取得後じゃ明らかに違う。動きは滑らかになり、斬撃も強くなる。不満はないが疑問はある。違和感も。

 スキルとはいったい何だろう? 現実に限りなく近いこの世界で、それを取得させる意味は何だろう?

 ゲームだから? そう考えれば納得できるけれど、もっとやり方がある筈だ。


 現実と同じ過程と結果を取り入れた事象と、ゲーム的なそれ。どうして分かれているのかな。なぜ分ける必要があるのかな。

 リソースの不足。ゲームとしてのテンポ配分。確かに納得するには十分な理由で、でもやっぱり違和感がある。


「ゴァアアッ!」

「おっと」


 今は戦闘に集中しようか。

 ワーウルフの攻撃は恐ろしいけれど、身体が大きいぶん読みやすい。

 こちらの攻撃はより精度と威力を増し、MPゲージにも余裕がある。


 うん。これは勝てるね。目指すかな、ノーダメ撃破。




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