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40話 俺は、そんなに退屈させた覚えはないけど?

 



 このジャングルに入って三日が経っていた。

 夜になっても寄生操作された亜竜が出なくなったのはありがたい。


 まあ、イベントを攻略したから。アナウンスによれば、“精霊の強襲”という突発イベントだったらしい。いつ始まったんだよ、と。

 何にせよ“古代の遺林”は平常に戻っていた。亜竜が闊歩する魔の巣窟に、だ。


 此処はこれまで経験したフィールドとは大きく違っていた。亜竜が、かもしれないが。


「遅いな、死体が消えるの」


 一時間、長いと二時間ほどは消えないのだ。やはり朽ちる様を早送りしたような感じではあるのだが、他と比べると圧倒的に遅い。

 巨体ゆえに処理する情報が多いのか、別の理由があるのか。


 まあ良い。今はエリア攻略に向けて少しばかり考えをまとめよう。


 敵性モンスターは主に四種。


 まずは“ブバン・ズルー”。今さらだし群れの規模も五体ほどなので敵じゃない。


 大型亜竜の中で最も小さく最も弱い“ビャナパ・ウル”。頭部は兜のような形をしていて、小さな角が生えている。


 最も凶暴な“ラシャン・シン”。地球からティラノサウルスを連れて来たと言われても信じられる。ただし地球のものより大型で速い。大きさにも個体差がある。稀に30メートルを越す巨体を持つ奴がいて、彼等は黒い炭素繊維らしき骨を持つ。


 そして、蛇のような顔をした“ヨジュ・ガジュ”。

 今目の前にいるこの亜竜はどれも比較的に温厚な性格で、あまり戦闘には達しない。全体数は少ないらしく出会す機会は少ないのだが、最も厄介な敵だ。


 怒らないでくれよ? 俺もきみたちとは戦いたくないからさ。きみたちって大きいし。どの個体も30メートル近くある。

 その中でも今目の前にいる二体は特に大きい。



──────


ヨジュ・ガジュ/???

古代の生命/???/???

スキル:???/???/???

独自スキル:???


──────


ヨジュ・ガジュ/???

古代の生命/???/???

スキル:???/???/???

独自スキル:???


──────



 彼等は押し並べて高レベルだ。種属すら見せてくれない。そして必ず二体で居る。

 おそらく番だと思われるのだが、どちらかを殺すと狂乱状態となり目に見えて強さが増す。青白い神経か血管かも分からないものが全身に浮かび上がり、命を止めるまで暴れ続ける。


「通らせてもらっても良いかい?」

「ケァー」


 髪を揺らすほどの鳴き声を受けて、彼等の真横を通りすぎる。穏やかな声の時は大丈夫だ。

 この亜竜は何せ速い。通常種でも黒い骨を持ち、“ラシャン・シン”を楽々と狩る。そう、彼等にとって他の亜竜は全て餌なのだ。二体であることも大きなアドバンテージだが、単体でもジャングル最強を名乗れるほどに強い。


 一度瀕死に陥ったのも“ヨジュ・ガジュ”との戦闘中であった。

 巨体による高速の突進はそれだけで必殺だ。損傷を与えられたのは尾による一撃だったが、“鬼顔の面被り”で受けていなければ即死していただろう。


 この面被りが無きゃ何度も死に戻ってるな、と。


 今さらになってこいつの性能を把握した。等級10というのも頷ける強度だ。衝撃を受け流してくれる感触もある。他の防具ならバラバラにされているだろう。


 どいつもこいつも大きいからなぁ。大きいというのはそれだけで脅威だ。恐ろしい武器だ。

 大きい生き物は速い。のろまだと描かれたりもするし、実際にそういう生物もいるが、殆んどの場合には違っていたりする。


「遅く見えるもんな」


 簡単に言えば視角と対比の問題である。

 極端に例えると、1メートルのものが10メートル動けば背景も大きく動き、速度感が出る。

 しかし100メートルのものが10メートル動いても背景は僅かにしか変わらず、速度感が生まれない。


 こうして、視覚……いや、視角と比率のマジックが成り立ってしまう。

 しかし近付けは違う印象を受ける。速いのだ、大きいもの達は。それだけの筋力を有しているのだから。


 当然ながら限界はある。かつて地球に生きた恐竜は、地上生物としての限界を証明していた。

 全長30メートルにまで達した四本脚の竜脚種。彼等がそうだ。あれ以上の大きさになると自重すら支えられない。その瀬戸際であったという研究結果もある。

 だが、それを可能とする骨を持っているのだ、ここの亜竜達は。故に二本脚の獣脚種はより大きく、さらに速い。


 ゲームなのだから()()としてしまえば良いのに、相変わらず偏執的なまでに作り込まれている。


 と。そんな、義務教育で習う程度の知識と、謎の物質である骨との関係性について考察する理由と言えば。


「デカすぎじゃんね」



──────


ガブロ・シスルゥ/???

エリアボス/古代の遺林/???/???

スキル:???/???/???/???

独自スキル:???/???/???


──────



 竹のような植物に身を潜めて敵を観察する。それは40メートルはあろうかという化け物だ。やはり獣脚の肉食恐竜。ずらりと並ぶ牙からも間違いない。

 だが顔は細長くてワニに近い。首も長いし。ついでに背中には大小様々な棘がある。


 まさかのエリアボスだ。


 そこは密林の奥地ではあった。だが予想とは違う場所だった。


「あっちが本命か」


 四日目の朝、つまりは今朝のこと。

 マップのほとんどを埋め、残されたのは2ブロックとなっていた。

 どちらも重要なポイントであった。一つは“古代の遺林”のエリアボスが居ると考えられ、もう一つは“竜棲む雨林”への入り口か、若しくはそのものだと予測していた。


 残ったのはダシュアンから真東のブロックと、南よりのブロック。

 この先を考えれば東にあるブロックにエリアボスが居ると考えられた。当然だ。ゴッドレスからずっと東進して来たのだから。


 故に、竜を求めて南にあるブロックを選んだのだが。


「こっちがエリアボスかよ」


 改めて考えれば、ありがちな設定ではある。“竜棲む雨林”というシークレットエリアを迂回する形で正規ルートが敷かれているのだろう。


 相変わらず頭が悪いなぁと。


「で、やるか、退くか」


 もちろん戦うんですが。躊躇いもない。どうせなら強襲しよう。


 駆けながら、始まりはいつもの神聖魔術。目眩しと、聖なる槍と鞭、そして人型で縛る。


「コォオオオ!」


 効いちゃいないか。良いさ。俺の本分は接近戦だ。どうせ近付かなきゃならないんだ。

 いつもと同じ。敵は格上で、速度を駆使して一点突破を仕掛ける。相手が倒れるまで何度も何度も。


「“薄刃伸刀”」


 を左だけに。MPゲージに注意しつつ、そうして、さあ、“迅雷”を使って突貫だ。


 この巨体だ。すぐに終わるとは考えていない。先手を取って反応を見る。それを踏まえてタスクを組み立てていく。必要なのは情報である。


 だから、まずは初手をください。


「斬れろ」


 右の刀で斬りつければ装甲に容易く弾き返される。だよな。なら、左はどうかな?


「もひとつ!」


 スルリと刃が通る。魔力の刃はすぐに消えてしまったが、これは大きな情報だ。

 つまり俺が挑むべきは消耗戦。敵の攻撃から逃げ、“薄刃伸刀”を発動して何度でも攻撃する。MPが底をつけば回復し、また攻撃する。それを敵が倒れるまで繰り返す。


 何時間でも付き合ってやる。クソイベントのおかげで耐久力は完璧に把握できている。


 攻撃を予測すれば大袈裟に距離を取り、隙を見て肉迫。魔力の刃で斬りつけて、斬りつけて、攻撃の予兆があれば退避する。

 それを何度も何度も繰り返す。MPポーションを馬鹿みたいに消費するが構ってはいられない。お金の力でごり押しする。


 前進。攻撃。退避。


 前進。攻撃。退避。


 前進。攻撃。退避。


「死ね」


 前進。攻撃、攻撃。退避。


 前進。攻撃、攻撃。退避。


 前進。攻撃、攻撃。退避。


「死ねっ」


 前進。攻撃、攻撃。躱す、攻撃、退避。


 前進。攻撃、攻撃。躱す、攻撃、退避。


 前進。攻撃、攻撃。躱す、攻撃、退避。


「死ねぇえ!」


 全身が血塗れであった。敵の返り血でずぶ濡れであった。

 はっきりと脅威だ、巨体ってのは。耐久力は高いし、攻撃を受ければ一撃で殺される。人間なら貫ける刀も内臓にまで届かなかったりする。

 だがしかし、俺にとって真の意味では厄介たり得ない。

 手数。状態異常。俺を上回る速度。そうした特性を持つ敵こそが脅威であり厄介だ。例えば触手を持った亜竜とか。こいつは違う。


 だから、死ね。


「うははっ!」


 装甲を削り、肉を剥がし、骨を裂く。

 さすがと言うべきで、全身から血を吹いているのに倒れない。流した血の分だけ、より苛烈に、より獰猛に暴れまくる。

 それで傷が開こうとも、傷が深くなろうともお構いなしだ。こちらはただの足踏みですら殺されると言うのに。


 だったら、意思ごと切り裂いてやる。


 1時間、2時間と突貫退避を繰り返す。慣れたものだった。長時間の戦闘も、何時間も集中するのも。

 決して途切れさせることなく思考し、試行し、機能させていく。全霊でもって繰り返す。


 が、ボスとは厄介なもので、劣勢など一手でひっくり返してくる。



 それは突然にやってきた。



 背中の棘群が激しく発光し、バチバチと乾いた音を鳴らす。何かしらの攻撃であることは明白だ。“先見の眼”も警笛を鳴らしてる。


「ウソだろ」


 視えた未来は最悪であった。感じた幻痛は超常であった。ガブロ・シスルゥの背中から広範囲に(いかずち)が発され、それに焼かれる未来と痛みを感じ取る。

 取れる手段は限られていた。取るべき手段も。すぐに、退避を!


「がぁああ!」


 無理でした。視えたからと言って間に合うわけがない。あまりにも範囲が広すぎる。

 痛みに囚われるな! ポーションを使え! いつまでも放ってはいられない!


 ――本当に?


 雷が、途切れを見せない。木々を燃やし、大地を焼き、さらに範囲を広げていく。


 これは死んだかなぁ。


「クァアアア!」

「コォオオオ!」


 この鳴き声。さっき見た大きなヨジュ・ガジュ達。

 雷を放つ“ガブロ・シスルゥ”に突進し、体当たりを決め、そうすれば全身が痛みから解放された。


 助けてくれた? まさかな。


「いっ、たいなぁ」


 言いつつ、前へ。目の前では怪獣映画さながらの戦いが繰り広げられている。

 自分達よりも大きな敵に組み付き、噛みつき、巨体を押し留めるヨジュ・ガジュ。


 何が彼等をそうさせる?


 疑問は一瞬で氷解した。ガブロ・シスルゥの黄色い目が一点を見つめている。その先に窪みがあり、中には1メートルほどの白い球体。

 あれは、おそらく、ヨジュ・ガジュの卵。あれを守るためにエリアボスに襲い掛かったのか。雷が卵を焼く前に止めたのか。


「ゴァアア!」

「――ああ?」


 卵に向かってガブロ・シスルゥが突進する。二体を背負ったまま、しかし高速で駆けて行く。


「クソったれ!」


 動いたのは咄嗟であった。何の思考もせずに走り出していた。目指すは、卵。


「おおっ!」

「ガァアア!」


 早く、速く、もっと前に! あれを潰させるな!


 我ながら呆れてしまう。敵性モンスターの未来を守ろうとするなんて。

 でも、俺は、こういう馬鹿な奴だから。


「がっ、あああ!」


 ミシリ、と右脚から響く嫌な音。踏み潰されたな。大事な時に発動しないんだものな、“先見の眼”。


「ヒッ、ヒール、ヒール、ヒール」


 魔術と回復薬を併用しつつ、卵を抱えて走る。それを木の上にそっと下ろし、敵を見定める。

 二体のヨジュ・ガジュを振り解こうともがくガブロ・シスルゥ。体格が違う。肉体の根本も違う。スキルの優劣もある。有利なのは圧倒的にガブロ・シスルゥだ。

 現にヨジュ・ガジュは引き剥がされかかっていた。傷つき、血を流し、しかし卵を守らんと立ち向かっていく。そうしてまた弾き飛ばされる。でも大丈夫。無駄にはしない。


「良い高さにあるじゃんか」


 ワニのような顔が目の前にある。肩に取り付いた一体を噛み砕かんと口を開いている。

 馬鹿らしいほどの隙であった。千載一遇のチャンスでもあった。


 飛びかかり、まとわりつき、黄色い目を切り裂く。


「クソ野郎!」

「キャアアア!」


 ざまぁみやがれ。()に意識を割くからだ。


「俺は、そんなに退屈させた覚えはないけど? ――“薄刃伸刀”」


 二刀を振り上げる。それを力の限りに振り下ろす。破壊目標は脳。

 激しく暴れる頭部に左を突き立て、それにしがみつき、右を連続で振り下ろす。遮二無二になって繰り返す。


 突き刺し、抉り、MPポーションを飲み、“薄刃伸刀”を発動し、また突き刺す。


 装甲か骨かも分からないものが皮膚に刺さり、血か脳かも分からないものが全身に張り付いていた。

 何度繰り返したかも分からない。赤く染まった視界と意識の中でひたすらに刀を振り下ろしていた。


 が、それは落下の浮遊感と共にやってきた。





『おめでとうございます! ガブロ・シスルゥの討伐が確認されました! “古代の遺林”エリアの攻略が確認されました!』


『“古代の遺林”に設置された転移ゲートの使用権を獲得しました!』


『初撃破報酬、ならびにソロ撃破報酬を獲得しました!』


『おめでとうございます! 称号【遺林の覇者】を獲得しました! スキル【原始の細胞】が獲得可能になります!』


『おめでとうございます! スキル【金剛髄】が獲得可能になります!』




『おめでとうございます! “古代の遺林”が攻略されました!』


『これにより新たなるエリアが解放されます! 第十二の拠点、“迷宮都市パルブチ”のポータル、並びに転移ゲートが使用可能になります!』


『これよりアップデートを行います』




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