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4話 成長への充実感

 



──────


ヘラ:人間Lv.3:開拓者Lv.3

スキル:【刃物の心得Lv.3】【空間認識Lv.4】

【肉体操作Lv.4】【洞察Lv.2】

独自スキル:【飢餓の切望】


──────



 なんと、またレベルが上がりました。スタートダッシュとしちゃ破格。大成功だろう。


「偏りが出たな」


 スキルの成長幅にね。常時展開させている“空間認識”と“肉体操作”が一つ抜けて、あまり使っていない“洞察”は一つ置いて行かれた。

 つまりは敵を殺して得られる経験値以外にも成長方法があるという事だ。努力や苦労が必要なのだろう。


 ここで疑問が生じる。スキルそのものについてだ。

 俺はこれ等の能力について補正力と捉えていたけれど、ほぼ間違いないようだ。

 だってこの世界はスキルに支配されているわけじゃない。同じ“肉体操作”を持つ俺と誰かさんが同じくらい動けるのかと言うと、そうではない。


「実力が認められてるんだよなぁ」


 ますます必要ってわけだ、努力と苦労が。スキルはあくまでも補うものであり、土台となる能力は自分次第。

 そう確信する根拠は、たった今、目の前で行われている戦闘だ。


「へったくそな立ち回り」


 六人の男女が、二匹のキラーファングに嬲られている。

 剣を振るう様はへっぴり腰で、動きにも無駄が多い。隙も、誘いを疑うくらいには目立つ。

 よく此処まで来られたな、と。敵が単体だから可能としたのか、此処までに仲間を多く失いながら強行して来たのか。


 どうであれ、彼等と俺のレベル差なんて無いに等しいだろう。離れていたとしても、最大で二つだ。

 剣を持っているんだ。高確率で“剣の心得”を取得している筈で、なのにひどく拙い剣技である。


「不器用なのか、覚悟が足りていないのか」


 それとも痛覚設定を遮断しているのだろうか? 感覚に差異がありすぎて動けない?

 いずれにせよ、スキルだけじゃカバーしきれないわけだ。


 と言うか、敵の位置を把握し切れていない。

 暗闇での戦闘はひどく難しいから。


 で、疑問。スキルって何だ? 現実じみたこの世界で、どういった意味を持つんだ?


「あ。死んだ」


 プレイヤー達が肉体の端々を燃やしながら消えていく。かわいそうに。デスペナ、きっとあるよな。


 べったりと地面に伏せ、草に紛れ、静かに呼吸を繰り返す。土と草の匂いに世界を感じる。



──────


キラーファング:獣Lv.6

スキル:???


──────


キラーファング:獣Lv.7

スキル:???


──────



 どうせなら行こうか。


 抜刀して、目を閉じる。半端な視界を遮断し、“空間認識”に語りかける。有効範囲は半径7メートルと言ったところ。意識の闇に浮かび上がる地形と、敵の容姿。

 やっぱりだ。最初に出会した数体より大きい。おおよその見た目は変わっていないように感じるが、明確に目視したわけじゃない。


 目を閉じたまま、ずり、ずり、と。匍匐前進っぽいもので進んで行く。意図的に風下を取ったけれど、どこまでの意味があるのかは分からない。

 いや、これだけ作り込まれた世界だ。意味は必ずある。問題は、二匹の狼に対してどれだけの効果を得られているのかってこと。


「……おっと」


 停止。警戒。そして覚悟を決める。

 一匹が鼻をひくつかせている。そんな動きを察知できるほど、“空間認識”は成長しているのだ。

 匂いを嗅ぎながらこちらに向かって来る一体。スンスン、とか。時折、フーフー、とか。生きた音を携えて狼が来る。

 一直線というわけじゃなく、匂いの根源へ手探りで向かっている動き方。リアルに過ぎる。


 彼が1メートルほどの場所に。

 手を伸ばせば届く距離であり、それは狼さんにも言えるだろう。

 俺の鼓動は落ち着いていて、それは筋肉と精神も同じだ。


 だったら動け。先手必勝。


「むん」

「キャン⁉︎」


 右の前脚を、ゴキリと。体勢を変えずに首へ突き。上手い角度を得られたのか深く入る。


「うはは、悪いね」


 捻じ込む。そのまま振り回す。暴れるから血がドバドバーだ。

 動きが鈍くなったのを確認して、首を大きく斬り裂く。ドッと大量の血が流れ出て、狼さんが動きを止める。それを自分に被せるようにして。


「グルゥ」


 もう一匹から隠れる。目を閉じつつ地面に這ったまま、呼吸を鎮め、けれども止めることなく繰り返す。

 近寄る存在感。肌にまとわりつくベタベタとした感覚。鼻につく血の臭い。


 来い、早く来いよ。死体が消える前にさっさと。


「グルル?」


 仲間の死体に鼻をあてる狼くん。そこ、良い位置なのです。


「とう」

「ギャンッ!」


 被せた死体を跳ね除けながら首へ刺突。これも入る。捻じ込み、斬り裂き、振り切る。

 狼くんがのたうちまわる。

 さて、絶好の機会だ。幾つか試してみよう。

 まずはダメージ。若しくは生命力。或いはHP。これ等の判定基準について。


 異常なほどに作り込まれているだけあって、敵にHPバーなんてものはない。素敵だね、世界観が壊れないから。


「看破スキルを得たら見えるのかな?」


 それはそれで便利かつ有用だけれど。


「自分のは表示されてるしなぁ」


 残念だ、世界観が壊されるから。おまけにMPゲージまである。


 さて、ダメージだ。明確なのはクリティカル判定の存在。当然ながらシステムとしてのHP管理はなされているだろう。

 じゃあ、どこまで現実に近いのか。

 最初の一体の死因は失血死だ。つまりは継続ダメージの判定があり、ならば一撃で死ぬ事もあり得るはずで。


「ごめんね。よっ、と」


 苦しむ狼くんをうつ伏せにして踏みつける。刀を両手で握り、振り上げる。

 狙うは首。頸髄だ。ここを断てば、おおよその生き物は死ぬことになる。傷付けば肉体は麻痺する。後者は身をもって経験済みだ。

 何かを感じ取ったのか、狼くんが激しく暴れだす。そこに本来の膂力はなく、弱った力を無理くり押さえ付ける。


 気分、悪いなぁ。


 せめて一撃で楽にしてやりたい。だから頼むぜ、“刃物の心得”さん。



──────


────


──



 同じ方法と手順で奇襲を繰り返す。敵は二体ないし三体となり、正面から戦っても勝てる未来が想像できない。

 ただ、変えた事もあって。


「ギャ――、────」

「うん、狙い通りに一撃だ」


 この世界にはクリティカルよりも上がある。一撃での死だ。命を保つ大切な器官や部位を、それに足る攻撃でもって破壊する。

 案外これが楽しい。そう考えられるのは、やはり心のどこかでゲームだと理解してしまっているからだろう。


「現実でも同じだったりして」


 消えゆくキラーファングを見ながら言ってみる。プレイヤーとは違う消え方で、生き物が朽ちる様を早送りしたかのような描写だ。

 これも好きだ。ポリゴンになって消えたりされたら世界観が損なわれてしまう。


 草原を走る。身体能力の向上は、ほんの僅かなレベルで自覚できている。肉体のステータスが閲覧できないのも、個人的には好みだけれど。


「もう少し成長を実感したいのです」


 取り憑かれたな、戦闘によって得られる成長に。分かりやすいものな、とてもとても。

 メニュー画面の時刻は午前4時を示していた。この世界に来たのは夜の7時だったから、もう9時間も経過した事になる。けれども体感時間は何倍にも及び、それはきっと濃密な時を過ごしているからだろう。


 このまま続けようか、戦闘を。楽しくって仕方ない。開発者には感謝感謝だ。


「でもこう、もう少しなんとかならんかね」


 腰が痛い。腰痛ではない。鞘が擦れることによる痛みだ。

 吊るしているならともかく、腰帯に差しただけ。だから骨にあたって痛いのです。


 テンポが悪くなる。ゲームとしてはどうなのか、良くも悪くもあるのだろうが。個人の好みが別れるところだ。


「もしかして、コレも不壊だったり?」


 鞘だって初期装備だ。事実として衣服や手袋、靴に損傷は見受けられない。


「じゃあ、コレも武器になるでしょ」


 うん、なる筈だ。どうせ差したままじゃ痛いだけのダメージソースだ。使えるものは使ってしまおう。


「良いね」


 目を閉じて、逆手に持った鞘を軽く振り回す。両手を別々に動かすのは難しいけれど、そこは“肉体操作”に頼ってしまおう。動作の確認は“空間認識”に。


 暫くを、その場で訓練にあてる。鞘は軽い。刀も同じく。正確には、随分と軽く感じられるようになった。膂力が上がったからなのか、技量が上がったからなのか、どちらとも判断できないけれど。

 軽く感じるのは事実であり、なら、片手それぞれに武器を持ち手数を増やす。うん、そうしよう。


 なんせ見えているもの、視界の向こうに大きな狼が。これまでの奴等とは別格の巨体と存在感。

 できるなら夜明け前にぶつかりたい。強いままの彼と戦いたい。頭の悪い選択だとは分かっているけれど、どうせなら今の自分を試したい。


 だから、目を閉じて、自分に潜り、ギリギリまで訓練を続けて。


『おめでとうございます! 特定の条件を満たしました!』


『称号【闇に生きる者】が獲得可能になりました! スキル【暗視】が取得可能になります!』


『称号【逸脱者】が獲得可能になりました! 職業【捻じ曲げる者】が取得可能になります! 魔法に属するスキルが取得可能になります!』


 脳内に流れたのは、どこか違和感を感じる声。

 無機質な存在、例えばロボットに無理くり感嘆させたような響きがあった。


「ふぅん?」


 何やらパワーアップの予感。それも大きな大きな。

 少しだけ、悩む。チュートリアルによれば、スキル数の増加は成長率の低下に繋がるらしいから。それは職業も同じだろう。


「まあ、取得するんですけど」


 ソロなのだ。出来ることは多い方が良い。選択としては非効率と言える。それを補うためにパーティーシステムが存在しているのだから。

 でもまあ、ソロですし。今も、これからも。


 だから好きにやって、好きに生きるのだ。




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