27話 だって未来が視えるんだぞ?
二日を戦場都市ダシュアンで過ごし、ブバン・ズルーの大群を撃退し、可能な限り“殺戮荒野”へと突貫し、今は“北ガザン大山脈”エリアの“首刈り山の地下空洞”フィールドに居る。
闇の中に、敵。
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スケルトン/死骸Lv.7
不死族/闇属性/???
スキル:剣技
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スケルトン/死骸Lv.7
不死族/闇属性/???
スキル:槍技
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敵は久しぶりのスケルトン。の、弱体。
前回は入ってすぐモンスターハウスに落ちたから、此処の敵は未確認だった。
で、当然ながら弱い。既に奥へと踏み込んでいるが、それでも相手にならない。
でも暗いよな、と。
洞穴が延々と続くこのフィールドは、暗さとの戦いでもある。篝火なんて気の利いたものはなく、“暗視”がそれなりのレベルに達してなきゃ進む事もままならない。
実際に、道中で出会うプレイヤー達はカンテラや松明で光源を確保していた。今、目の前にいるパーティーもカンテラを所持している。
「すみません、通ります」
「あ、どうぞ――ヘラさんっ⁉︎」
「うわっ、本物!」
「はやっ!」
「どうもです。落とし穴があるから気をつけて」
俺の存在は多くのプレイヤーに知られているようで、こうして名前を呼ばれることが多々ある。
適当に挨拶をし、落とし穴への注意を喚起しつつ、自らも気をつけながら前進して行く。
にしても良いな、カンテラ。あの光には独特の趣きがある。
視覚的な楽しさがあるとは言え、戦闘においては邪魔になるだろう。じゃあ“暗視”を取れよと思わなくもないが、スキル枠一つ分の経験値取得率低下は大きい。そもそも“暗視”がレアだという情報もある。
だからこのフィールドは、敵そのものが持つ厄介さよりも暗闇との戦いになるのだ。
俺にとっては関係ないけれど。
跳ねて、切って、前進を続ける。相変わらず骸骨たちの胸には宝珠があり、それを切るだけで死んでいく。
簡単であった。“常闇の森”と同じか、夜に出会す魔狼に比べればずっと弱い。
心が苛つき、殺すことさえも面倒になる。相手を試したい欲求に駆られ、武器を振らせたくなる。
いけないな。明らかに“刃神の奥伝”から影響を受けている。俺はペンタじゃない。臆病であれ。他者を見下すな。己が弱いと知れ。
だがこの世界は――このゲームは、前進し続ければそれを教えてくれる。
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カーズドナイト/???
エリアボス/北ガザン大山脈/首刈り山の地下空洞/???
スキル:???/???
独自スキル:???/???
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そいつがエリアボスだ。
そこは水が滴る広い空間であった。足場は悪く、俺の背丈ほどもある岩が点在しているため視界も悪い。“強脚”の連続使用には不向きな環境だ。
敵は身の丈3メートルを越す甲冑髑髏で、四本もある腕には剣や槍が握られている。宝珠はどこにも無く、冑の隙間で揺れる青い焔が妖しく揺れている。
激戦の予感。心が震える。今すぐに、殺したい。
おち、つけ。落ち着け。
息を、細く長く吐き出す。そうして、自分を見つめる。
この位置が感知される瀬戸際だろう。ただの勘だけれど。
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ヘラ:人間Lv.19:開拓者Lv.17/捻じ曲げる者Lv.9
スキル:【双刃技Lv.2】【空間認識Lv.20】
【刃技Lv.10】【肉体操作Lv.20】【洞察Lv.20】
【強脚Lv.20】【体術の心得Lv.20】【暗視Lv.20】
【神聖魔術Lv.15】【魔力操作Lv.7】【常勝Lv.11】
【獅子奮迅Lv.7】【マッピング】【急襲Lv.13】
【未知への挑戦Lv.4】【魔力耐性Lv.4】
【破天荒Lv.7】【魔術の心得Lv.7】【流動Lv.20】
【先陣突出Lv.6】【刹那の思考Lv.20】
称号:【闇に生きる者】【逸脱者】【残忍なる者】
【刃神の奥伝】【森の覇者】
【ダシュアン戦士団からの敬愛】
先天:【竜の因子】
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さて。せっかくの強敵だ。パワーアップしておこうか。
まずは“肉体操作”と“体術の心得”、さらには“流動”の三つを融合。“肉体奏者”に。
次に“洞察”と“暗視”、そして“刹那の思考”が選択可能で、これは幾つかのスキルが選べるのだが。
「……なんだ、これ」
選択可能なスキルが並ぶずっと下。スクロールを続けていけば一つのスキル名が点滅している。
隠すような離れた位置。そして“先見の眼”という名前。選ぶのならコレでしょう。
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ヘラ:人間Lv.19:開拓者Lv.17/捻じ曲げる者Lv.9
スキル:【双刃技Lv.2】【刃技Lv.10】
【空間認識Lv.20】【肉体奏者Lv.1】
【先陣突出Lv.6】【強脚Lv.20】
【神聖魔術Lv.15】【魔力操作Lv.7】
【魔術の心得Lv.7】【常勝Lv.11】【急襲Lv.13】
【獅子奮迅Lv.7】【マッピング】【破天荒Lv.7】
【未知への挑戦Lv.4】【魔力耐性Lv.4】
固有スキル:【先見の眼Lv.1】
称号:【闇に生きる者】【逸脱者】【残忍なる者】
【刃神の奥伝】【森の覇者】
【ダシュアン戦士団からの敬愛】
先天:【竜の因子】
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スッキリして見えるな。ついでに、思考もクリアだ。身体も軽い。
でも、固有スキルだって?
『おめでとうございます! 当世界において初となる固有スキルの取得が確認されました!』
『第一号取得者には特典が与えられます! 特典は第五号取得者まで用意しております! プレイヤーの皆様、是非とも固有スキル取得を目指してください!』
『おめでとうございます! 固有スキル取得により特典が与えられます! 称号【制者】を獲得しました! スキル【空間感知】が取得可能になります!』
突然のアナウンスに、思わずカーズドナイトを注視する。いきなり襲って来たらどうしてくれるのか。
固有スキル、ね。独自スキルとの違いが曖昧だな。ニュアンスとしては“俺だけが持っている”、となる。そこにゲーム的な思考を加えれば、“俺だけが取得できる”、になる。
今はどうでも良いか。
新たに“空間感知”スキルを取得し、視線をカーズドナイトの奥へ。あの先でルナさんが待っている。
信じてくれているのだ。俺が一人で突破できると。ソロでもカーズドナイトに勝てると。
だから、今、ルナさんは此処にいない。彼女の頼み事であっても、手助けなど必要ないと、俺がそんな事を望まないと、明確に理解しているから。
五日あれば、俺が一人で攻略できると確信しているんだ。
「ふふっ」
悪いな、カーズドナイトくん。今日だけは絶対に負けられない。
スキルの詳細把握は後だ。どんなに素敵な文章が書かれていたって、実戦で、俺が、確実に使えなきゃ意味はない。
「あ、あの! ヘラさん!」
「――あ?」
背後に六人のプレイヤー。さっき追い抜いた彼らだ。
「ボス、行くんですか?」
「……ああ、はい。もしかして、横取りになります?」
「いえ! その、もし良ければ見させて貰っても?」
どうでも良いよ。今、良い気分なんだから邪魔するな。
「お好きに。見学だろうが動画撮影だろうが、気にしません」
「マジっすか⁉︎」
「マジっす。後で観せて貰えると嬉しいですねぇ。攻略の参考になるのなら掲示板へのアップもオーケーです。では、行ってきます」
前へ。“強脚”が進むための力を生み出し、“肉体奏者”がそれを効率化させる。乱立する岩を縫い、それ等を隠れ蓑にして肉迫。
でかいな。近づくと嫌でも体格差を意識してしまう。大髑髏や双頭大蛇とは違い、身近な大きさで、人型だからこその威圧感がある。
どうと言う事もないけれど。
「おおっ!」
二刀を振るう。光源もないのに刀身が鈍い光を放って奔る。腕の一本を断つ。
こうまで違うんだな、と。“肉体奏者”に関してはそんな感想だ。身体を思ったままに操れるってのは、現実でも味わった事のない体感だ。
「うはは!」
強くなっているぞ、俺は。明確にして大きく。何せ身体は思うように動き、さらには、全てが視える。
乱立する岩も、足場の凹凸も、カーズドナイトの動きも。“空間認識”だけでは捉えきれなかった細部を“空間感知”が補助し、補正し、正確に描いてくれる。
これは、素晴らしい。相性の良いスキルを得ると、なるほど、劇的に変わるものだ。
「ん。きみ、魔法が使えるのか」
反転と同時。彼の頭上に漆黒の槍が無数に生み出される。多いな。躱すのは難しいか。
彼から距離を取る。岩を隠れ蓑にし、身を隠す。暗闇と漆黒が溶けるように混ざり合い、視認は困難だ。
と言うか、ボスと雑魚とでエネミーレベルの差がありすぎじゃないですかね。やはりレベリングは必須なのだろう。
などと、のんびり考えている暇はなくって。
漆黒の槍が襲い来る。傷られた岩が礫となって飛来する。痛いじゃないか。
厄介な魔術だ。視認が難しいから射線は読めず、おまけに速い。至近距離で撃たれたら躱せないかもな。
撃ち終わり。と同時に前へ。肉迫。二刀を振るう。
防がれる。まだ三本の腕が残っている。鎧もかったい。やっぱり強いな。
「――っ」
頭上。漆黒の槍。さっきよりも多い。自分ごと貫くつもりか?
退避、したかったんだけれど。
「へぇ?」
右足に黒い鞭が絡み付く。動けない。ダメージも入る。
でも、意識がガラ空きだぜ? どうせ躱せない。だったら進む。
「バッサリ!」
腕を断つ。同時に無数の槍が撃ち出される。
その最中に、一筋の光が視えた。俺を貫くような射線。全身に走る激痛。なのに、HPは減っていない。これ、なんだ?
――迷うな!
思考は、一瞬だった。
縛り上げられた右足を軸にして体を捻れば、漆黒の槍が俺の周囲に、挟むようにして降り注ぐ。
その内の一本は、さっき見た光と同じ位置に刺さっている。つまりは、俺が立っていた場所だ。
カーズドナイトから伝わる驚愕の気配。俺も同じだけど。
でも、停滞しているのなら足を貰いましょうか。
切断。入れ替わるようにして俺の右脚が自由になる。
「うわ」
再び漆黒の槍が生み出される。距離を取り、岩に逃げ込む。
「なんだ、今の」
あの光。全身に走った痛み。まるで漆黒の槍を幻視し、幻痛を体験したかのような。
「……“先見の眼”か!」
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先見の眼
視力が強化される。
暗部での視界が利き、敵の強さを見抜く。
時折、自身への攻撃を予見する。
予見した場合には実際に与えられる損傷と同程度の痛みを感じる。
痛みは痛覚設定値に関わらず強制的に発生する。
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「この、スキル」
最ッ高じゃないか! 痛み? そんなもん耐えりゃあ良い! 比較になんねぇよ! だって未来が視えるんだぞ⁉︎
「うはっ、うははっ!」
さて、事情が変わった。状況も。
試したい。このスキルを。見たい。“先見の眼”の底を。
だから、悪いなぁカーズドナイトくん。少し遊ばせて貰う。
真っ赤な靄なんかまとって。空間を震わせる怒りを放って。強化でもしたのかい? 一定の損傷を受けたことで発動するのかい?
ああ、でも、嬉しいねぇ。
おあつらえ向きだ、今だからこそ。
さぞ、苛烈に攻め立ててくれるんだろうなぁ?
『おめでとうございます! カーズドナイトの討伐が確認されました! “北ガザン大山脈”エリアの攻略が確認されました!』
『“北ガザン大山脈”に設置された転移ゲートの使用権を獲得しました! 第四の拠点、“魔法都市ショーイカ”のポータルの解放、及び転移ゲートが使用可能になります!』
『ソロ撃破報酬を獲得しました!』
『おめでとうございます! 称号【退魔者】を獲得しました!』




