24話 躾のしかた
双頭大蛇は厄介な敵である。
巨体による一撃はHPの殆どを吹き飛ばし、血を浴びれば猛毒に侵される。
硬い鱗、自在な舌、捉え難くも高速の動き、視界を奪っても感知可能なピット器官、どれも凶悪な性能を持つ。
森の踏破によほどの余裕がなければ勝ち得ない。
「でも、戦えてますね」
情報の重要さを実感している。経験の大切さも。
簡単な話だった。一度体験した攻撃は予測がつくし、一度目にした動きであれば慌てる事もない。
つまり今戦は、学習の必要性とボスの厄介さを再確認する戦いでもあった。
ノーダメージ撃破。それを目指して跳ね回る。対価は時間だ。安いものである。
前回はテンションが上がって無茶をしすぎた。応援されて舞い上がっていた。
今回は冷静に。チェスゲームと呼べる戦いを。
舌を切り落とす。最優先に処理すべきタスクはそれだった。正面から行けばたちまち殺される。
彼の意識を散らすべく全体に攻撃を入れ、誘いと釣り出しを織り交ぜていく。
「ズバンっ!」
二本目の首を断てば、その巨体から存在感が消えていく。
二戦目にして快勝だ。なかなか上手く戦えたのではなかろうか。
「新しいスキル、良いね」
実のところ、新たに4つのスキルを入手した。どれも優秀かつ俺向きの能力とも言える。そのおかげで、討伐にかかった時間は三時間。
装備に助けられているな、とそんな感想だ。
結局のところ、オチョキンさん謹製の二刀が優れているという話で。急所である首を切断できるのだから、俺がやるべきは下手に立ち回らない事と、速度で勝る事。
強すぎる装備というのも考えものだな。
「で。次、行きますか?」
「……ああ、……はい」
あれ? なんでヨミさんは元気がないのだろう?
「あの、動画、送っておきますわ」
ああ、撮影を頼んでいたんだった。
「それでどうしたのかな? 俺じゃ実験に不足ですか?」
「あの、いえ、良いのですが。こう、苦戦して頂かないと、バフの意味がないと言うか」
「うん? 意味はあるでしょう? 単純に強化されるんだから」
「まあ、はい。そういう問題じゃねぇんだよ」
つまりはバフ士としてのやり甲斐がないと、そう言いたいわけだ。
彼女の癖、と言うか一言多くて、そこに本音が乗せられてしまう。好きだけどね、こういう人。ポジティブに捉えるなら、嘘がつけないってことになるわけだし。
何にせよやるでしょ? 実験。
「もちろんです。全身を弄くり回して差し上げますから、あの憎ったらしい大蛇を殺してみせなさい」
急に怖ぇよ。性格が分裂でもしてんのか?
さて。パーティ戦である。
彼女のプレイスタイルは知らないが、本人の言う通り直接戦えたりはしないだろう。武器すら持ってないですし。
だから一つの目標を立てる。俺と、彼女のノーダメージクリア。それを戦いの終着点とし、幾つかのタスクを組み立てていく。ただ戦っても楽しくないし、意味を持たせなきゃ停滞してしまう。
だから期待してますよ、バフ。
「当然でしょう。私の力で強化され、犬のように働いてください。御褒美は差し上げます」
いつの間にポップしたのか、大蛇の存在感が森を支配していた。気を抜いて良い相手なんかではなく、相変わらず一撃でも受ければ死ぬ可能性を感じさせる威容を放っている。
「いきますよ?」
ヨミさんの手が頬に触れる。冷たい掌だ。ひんやりと心地よく、それでいて柔らかい。
「スピードラッシュ、フィジカルブラッシュ、ガードアップ、カットネスアップ、ファイアーエンチャント」
ずくり、と肉体が疼いた。体の奥に何かが生まれ、それが全身に広がっていく。
力が、漲る。
二刀に赤い炎が付与されていて、しかし俺自身へのダメージはない。
これは、良いな。
「さあ、行きなさい。私の証明のために」
「はいはい、ご主人様」
前へ。当然、真正面から。それだけの力を予感させ、成すだけの能力を確信できる。
だって速いもの。“強脚”に振り回されるほどに。けれども、跳ね上がった身体能力が瞬発力に対応せしめ、反発力を制御してみせる。
二股に別れた首の間を飛び抜き、勢いのまま胴体に二刀を突き立てる。速度を保ったまま斬り裂いていく。
「キャアアア!」
「うははっ! すんごい!」
舌を落とし、尾を断ち切り、眼球を斬り、口を裂いてピット器官を潰す。
嬲る、というのが適切な表現であった。それほどまでに、強化とは凄まじい力であった。
脳が蠢き、意識が奔り、肉体が脈動していた。刀の斬性は増し、炎が敵を焼き、猛毒となる血液すらも蒸発させていた。
これで勝てなきゃ嘘でしょう。
「スッパリ」
首を断つ。呆気ない。
無理矢理に反省するとすれば、バフが切れたタイミングで動きに淀みが生まれることだろう。
その度にヨミさんに触れる必要があって、だからこそ彼女に危険が及んでしまう。
え、ちょ、こんなに簡単でしたか? そう言ったのはヨミさん。俺も同じ気持ちだけれど。
これでも一時間は戦っていたんだ。なのに余裕だと感じるのは、もはや苦戦が癖になっているのだろう。
と、上手くないジョークを思いつつ、周囲の警戒をする。
「……もしや、ですが。ヘラ様は身体能力向上のスキルや称号を所持してらっしゃいます?」
うん。持ってるね、たくさん。双頭大蛇、格上だし。それ等がなきゃ俺なんて秒で死ねるわけで。
「意味ねぇじゃねーか! ファァァーック!」
なんか、ヨミさんが壊れた。
いや、意味はあるだろうと。明らかに強くなってたし。
「だからっ、そういう意味じゃねーんだよ! バフってのはな、強化能力を複数持った奴とは相性良すぎるんだよ! ウチのメンバーとお前じゃ上がり方が桁違いなの!」
ほぉん? つまりは相乗効果、若しくは乗数効果のようなものか。
実験、失敗です。そう言って項垂れるヨミさんを見ると責任を感じてしまうわけで。
「なんか、すみません」
「いいえ。私が悪いのです。ヘラ様の強さを侮っていました」
さて、考えてみれば責任を感じる必要など全くないことに気づきました。だって依頼内容は達成しているのだし。
と言うわけで、帰ろうと思う。
「さすがはトッププレイヤー。自分勝手で、おまけに人でなし。いえ、良いのですよ? このまま私を捨てて行っても」
良いのか。
「じゃあ捨てていきます。さようなら」
「おいっ!」
なんだよ。面倒くさい子だなぁ。
「追加っ、依頼を追加します!」
「えー。その分、ちゃんと体で支払ってくれます?」
「へっ、変態っ!」
いや、今さら何言ってんだ。こんな格好しても気にしないんだから、どう考えたって変態だろうに。
でもこのお面、カッコ良いと思うのです。
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という事で、三戦目に突入している。
今回の課題は困難だったりする。だって、本人が意外とヘタレだし。
「いやぁああ! 無理っ、無理ですわよ!」
「無理とか知らない。少しでも戦えるようになりたい、って言ったのはヨミさんでしょ?」
それが追加の依頼だ。
彼女に戦闘技術を習得、と言うか立ち回りを教え、簡単には死なないように育てる。
少しでもバフを掛けやすい場所へ自らが移動し、しかし危険から身を置く戦い方を学ばせる。つまりは危機管理への意識向上であり、全体を俯瞰する能力を育むことでもある。
だから、当然、まずは何が危険かを学ばせる必要があるわけで。
「ちょ、ちょ、ヘラ様、なぜ私の首根っこを犬猫のように?」
「そりゃあ、突撃させる為ですよ」
言っても行かないから。
敵の動きを近くで目にして、初めて経験となるのだ。
「ちなみに、犬や猫にこんな酷いことは絶対にしないよ」
首根っこを掴んで持ち上げちゃかわいそうだ。
「それ、言う必要あります? と言うかっ、何も大蛇でやらなくっても良いと思いますのよ⁉︎」
「パーティーとして大蛇に勝ちたいんでしょ? ならコイツで鍛えないと」
「正論は時に人を傷つけるとは思いませんこと⁉︎」
何だよその話し方は。急にカマトトぶるなって。
「ほら、ぶん投げるから上手く着地してよ?」
「こ、心の準備が――ぐむぅ⁉︎」
「要らねぇだろ、そんなもん。あー、来るぞ?」
喋り続ける喧しい口に“幸運のナイフ”を咥えさせ、細い身体を全力で放り投げる。
むぅううう! と叫びながら飛んでいくヨミさんを追いかける。さすがにPKになるのは嫌だ。
「PKになると制限が大きそうだし」
自由が失われるのは嫌だ。
「そういう問題ですか⁉︎ ――きゃああ!」
「叫ぶからナイフ落ちたじゃんか。ほいっ」
ナイフを咥えさせ、彼女の首を引っ張り、尾の一撃から退避させる。その先に、舌。
いやぁああ! などと乙女のように絶叫するヨミさん。うるさいな。叫んでる暇なんて無いぜ?
様々な攻撃に晒し、目に焼き付けさせ、脳に刻み込ませる。
それを何度も何度も、悲鳴を上げなくなるまで繰り返す、予定だ。
「無理ぃいいい!」
無理か。恐怖心て奴は厄介だからな。
「良いかい、ヨミさん」
「ひゃ、ひゃい」
「アイツは、ヨミさんが殺すべき敵で、ヨミさんは狩人だ。恐れるのは当然で、警戒は必要だが、慌てても焦ってもいけない」
「そんなっ詭弁では、きょ、恐怖心はどうにも――」
「違う」
詭弁ではなく事実だ。じゃなきゃ戦いを選んだりしない。それを選んだのはヨミさん自身であり、勝ちを目標とするから戦う意志が生まれる。
そうでなければ自分を責め、向上志向を抱いたりはしない。死に戻りしたのは仲間のせいだと考え、彼等を責める筈だ。
だからこの子は責任感が人一倍強くて、最前で戦う仲間を尊敬している。
だからこの子は自分で戦う術を模索して、重いペナルティーを受けるほど死に戻りを繰り返している。
「持っている筈だよ、きみは、戦う意義と意味を。だから此処に居る」
迫り来る牙を躱し、舌から距離を取り、跳ね続ける。悲鳴が、止まる。
「……そう、ですわね。ええ、私は自分で戦いを選びました」
「うん。だからしっかりと目と意識を開き、前へと進みましょう」
「は、はいっ」
「大丈夫。痛覚設定は遮断すれば良い。ダメだとしても実際に死ぬわけじゃない。今は学ぶ時。それがヨミさんの戦いだ」
「はい!」
よし。ナイフもしっかり握ったみたいだし、じゃあ行こうか。
まあ、そうは言っても。
「安心しなよ。絶対に死なせねぇ」
「ッ、はいっ!」
俺は俺のやるべきことを。吐いた言葉の責任を全うしなければ。
「上だよ」
「ヒッ、うぅ!」
歯を食いしばる彼女は無表情の時と違い、ひどく人間臭くって。しかし、だからこそ輝いて見える。
分かってるんだ、無茶な要求だって。けど、こんな方法しか知らないんだ、俺は。
「よく見て。あれが舌を出す予備動作だ」
「はい!」
一つ一つを学ばせる。急がず、何度も経験させる。
意識への擦り付けと、俺への信頼を刻み込むために。
彼女の戦闘スタイルは、ある意味で最も難しいと言える。最前で敵と相対するわけではなく、だからと言って危険に晒されないわけでもない。
彼女が理想とするのは、味方がバフを受けに来るのではなく、彼女自身が付与しに駆け回る“強化士”だ。求める戦闘スタイルがそれなのだから、危険とは隣り合わせであり、連携以上に全体を見抜く視野と思考が必要になる。連携の外側で、彼女自身が判断し、対応し、動き回らなきゃならない。
だがしかし、このゲームのクリエイターは最悪の性格をしている。“強化士”は戦闘スキルを獲得できないのだ。
故に、ヨミさん自身の力を引き上げる。プレイヤースキルを積み上げる。その先に彼女が求めている自分がある。
そうする為の力は得られる筈だ。俺の“強脚”に追走できるほどの強化を施せるのだから。
「あれは、尾を振る時の」
「正解」
「舌が来ます」
「だね」
「接近です!」
「うん」
よし、と。よく見え、よく判断し、よく思考できている。
だから後は、彼女が目指す戦い方へと擦り合わせる。実戦による確認だ。同じように何度も何度も。それには、俺が大蛇を引き付け、なるだけ長い時間を躱し続ける必要があって。
「でも、ヘラ様の危険が」
「気にしない気にしない。死なないよ。だって、ヨミさんが強化してくれるでしょ?」
「――っ! もっ、もちろんですわ! ヘラ様の為に頑張ります!」
いや、自分の為だろうに。
でもまあ、行ってみましょうか。
「間近で見た敵の動作を、脳内でしっかりと展開しながら描いてください」
「はい!」
「じゃ、行きましょう」
俯瞰する力とは、つまりは視野を広く保ち、そこから得た情報を組み上げるイメージ力である。経験した危険を心象へと結びつけ、予測し、瞬時に判断する。そうして全体像を作り上げていく。
だからまずは、俺の動きというものを理解してもらう。自惚れるわけではないが、当然、全てについて来るのは無理な話で。
けれども、彼女は賢いから俺の癖を見抜くぐらいやってのける。
「ヘラ様っ!」
「ん。最っ高のタイミング」
場所もね。
戦場を駆け回る彼女の速度は素晴らしく、しかし時には立ち止まって、こちらの動きに合わせた立ち位置を確保する。敵のヘイトが向けば強化よりも退避を優先する。
すごく良いと思います。彼女、プレイヤースキルかなり高いよ。
三戦目は既に四時間が経過していて、間もなく夜になろうとしている。そうなればヨミさんは戦えないだろう。
「てことで、終わらせます」
宣言するタイミングで、すぐ背後にヨミさんが飛び込んで来ていた。ナイスだ。
「スピードラッシュ、フィジカルブラッシュ、ガードアップ、カットネスアップ、ファイアーエンチャント」
頬に触れるヨミさんの掌。それを受け入れ、受け止め、想いを引き継ぐ。
自分で戦えない分、仲間に託す。それはきっと辛い選択だ。傷つく仲間を見るだけで何も出来ず、それでも強化して危険に送り出す。
ヨミさんの懸命さが、その戦い方が、とても尊敬できて、大好きだ。
「行って来ます」
彼女の手に触れ、前へ。
「お願い、しますっ!」
背後からの言葉に心臓が大きく脈動する。想いを紡ぎ、二刀に乗せる。
本当に、この世界に来られて良かった。
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「ナイフ、お返ししますわ」
「あげるよ。それ、大蛇のソロ突破報酬みたいだから、もう一本手に入ったし」
ヨミさんが差し出す“幸運のナイフを押し返して、新しいナイフを見つめる。
気のせいかもしれないが、どうにも別物のように感じる。同じ名前、同じ見た目なのだが、こう、威風が違うと言うか。
ヨミさんが持つナイフ、つまり一本目の方が強くて、今回手に入れた方が弱い、気がする。
「ま、とにかくあげる。効果は、全ての行動に対する成功率が上昇する、ってやつ。それに、ヨミさんの新しいスタイルには武器が要るでしょ?」
よく分からない効果だ。示す範囲が大きすぎるし、あまりにも曖昧な言い回しである。
「プレゼント……お揃いの。ありがとうございます。大切にしますわ」
都合三度に渡り双頭大蛇を打倒し、夜のゴッドレスへと帰還していた。
露店で飲食物を買い、噴水の周囲に置かれたベンチへと腰掛ける。
隣にはヨミさん。小さな口で肉に齧り付く彼女は、俺にピタリとくっ付いている。
少し、緊張する。できれば離れて欲しい。俺、汗臭いし。変なとこまで再現しやがって。
ヘラ様、少しばかり確認したいことが。そう言って急にかしこまるヨミさん。どうしたのだろうか。
冷静に考えてみたのですが。そう前置きして語り始める。
「ヘラ様は、その、少し異常なのです。バフの影響が大きすぎるのです」
「ん? でもそれって、身体能力を上げるスキルや称号のせいでしょ?」
「そうなのですが、にしても強化幅があり得ませんわ」
へえ。それってたぶん、脳を操作しているから、なのかなぁ。
俺と他プレイヤーの最も違う点はそれだ。そして俺は、他プレイヤーよりも色々を高効率で引き出させている。だってフルダイブこそが脳を操作した結果なのだから。
あまり、考えないようにする。嫌なことに気付いてしまいそうだ。
ヘラ様、良ければ私が所属するギルドに参加して頂けませんか? そんなふうに誘われたのは初めてのことで、言葉の意味を理解するまでに少しのラグが生まれ、理解した瞬間に歓びが溢れ出した。
お誘いは嬉しいのだが、当然、断るけれども。
俺はソロだ。これからも、この先も。ギルドや固定パーティーに縛られるのは本意ではないし、好きでもない。
「そう、ですか。ヘラ様が居てくださったら心強いのですが」
このゲームに対するヨミさんの向き合い方は、俺にとっては不思議に思えてしまう。
使命、というものを感じる。自分が解放しなければならないという追い込み方をしている。まるで職務だ。
幽閉されている状況を打開したい気持ちは分かるけれど。
どんなギルドなのですか? そう問えば、そうですねぇ、と星を見上げるヨミさん。青い髪がさらりと流れ、人間で言う耳が露わになる。あるのか、普通の耳も。もしや猫耳もコスプレか? でも種族は獣人だしな。
「皆が皆、何かのスペシャリストです」
ゲーム的になのか、現実でなのか。どちらとも取れる事を言って、ふわりと笑う。
そんな表情もできるのか。好きなんだな、ギルドメンバーのこと。
「マスターは信頼でき、いつも最前で戦います」
「へぇ。凄い人なんだね」
「ええ。人員の管理や組織作り、そして素晴らしい指揮能力を持っています」
私達は、この幽閉状態を打破したいのです。ヨミさんは笑いながら呟いた。
宣言だ、それは。宣誓だ、それは。自分と、このゲームと、他のプレイヤーに対する。
俺が言えたことではないが、彼女にも楽しんで欲しいなぁ、と。
根を詰めて向き合うばかりでは精神が破綻してしまう。だって今は非常時。未来を思うだけで億劫になる筈だ。寝たきりの実体はひどい筋力低下を起こし、帰った後には厳しい現実が待っている。そもそも帰れる保証はゼロ。ストレスの受け方は並じゃない。
「今日、俺は楽しかったな。ヨミさんと出会えて、一緒に戦えて、色々な新しいものに触れることができた」
「え、ええ、そうですね。私も、その、とてもとても楽しかったです。感動と興奮を体験しました」
なら、良いのだ。こんな若い子が潰れるとこなど見たくない。
笑っていて欲しいのだ。大人の勝手な願望だから、口にしたりはしないけれど。
「ちなみに、ギルドの名前を教えてくれる?」
「はい。“へーエルピス”、ですね」
あれ? “チームタチミツ”じゃないのか。彼が言っていたキープレイヤーとはヨミさんの事だと考えていたのだけれど。
へーエルピス、ね。良い名前だ。まさに今を打破するのに打って付けの。
俺も、そう在りたいものだな。
そう、成ってみようかな?
だからまずは、強くならなければ。
先に進み、見たことがない景色と出会い、さらなる感動を体感しに。
未来ある若者達が希望を忘れず笑っていられるように。
気合い、入りました。“殺戮荒野”、突破しましょう。




