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19話 鬼顔の面被り

 



『おめでとうございます! “首刈り山の古都”シークレットボス、大髑髏の討伐が確認されました! 北ガザン大山脈エリア特殊ルートの攻略が確認されました!』


『“首刈り山の古都”に設置された転移ゲートの使用権を獲得しました!』


『隠し拠点“古都アサナギ”への進行権を獲得しました! シークレットエリア“ドバル地底園”への進行権を獲得しました! ポータルおよび転移ゲートが使用可能になります!』


『初撃破報酬、ならびに北ガザン山脈エリア・特殊ルート攻略の報酬を獲得しました!』


『おめでとうございます! 称号【解放者】を獲得しました! スキル【未知への挑戦】が取得可能になります!』



 なんだか騒がしいなぁ、と。内心で苦笑いしつつ、与えられた情報を脳内に記していく。

 転移ゲートの前に寝転がる。全身に込められた力を抜き、昂った感情を鎮める。


 足もとにはルナさん。やはり寝転がり、呼吸は荒れ、美しい銀髪は汗で湿っている。彼女に足を向けるわけにはいかないな。

 そう考えて体を起こせば、寝転んだままの蒼色の瞳に射抜かれる。視線と意識が吸い寄せられる。綺麗だ。


「ラーさん!」


 がばりと起き上がり、両腕を突き出してくる。ハイタッチだろう。


 と、思ったのだけれど。


「うお」


 抱きつかれたのです。役得だな、相棒としての。


 やりましたっ、やりましたよ! そんなふうに喜べる彼女はとても純粋だと思う。

 うん、やったねと返せば、彼女は大きく飛び跳ねて。勝ちました! あの気持ち悪くてウザったくてムカつく大きな髑髏に! そうやって喜んで見せる。


 良いなぁ、と。こうやって喜びを爆発させられるのも彼女の美徳だ。


 そこからは、興奮したルナさんによる演劇が始まった。回想か、または感想戦のようなものだろう。見ていて楽しい。


「ラーさんがヒュンヒュン跳ぶ! 私が魔術をバシバシ撃つ! 髑髏の腕がズバンと切られる! ズドンと落ちる!」


 いや、語彙力よ。

 しかしながら冷静な彼女は賢く、頭の回転が速い。おまけに度胸もある。じゃなきゃ高速で動く俺を縫って魔術を放つことは出来ない。

 プレイヤースキルがとてもとても高い。さらには的確かつ迅速な状況判断が上乗せされる。使用する魔術は低位であっても高威力で、それ等から考えれば、ソロであってもまず死なないだろう。


 良いな。これだけのプレイヤーと出会えるなんて、落とし穴バンザイである。


「ん」


 いつの間にやらルナさんの演劇が終わっていた。静かな空気が熱した身体を冷やしていく。心地良い。

 彼女は俺を真っ直ぐに見つめ、口をもぞもぞとさせ、大きく息を吐く。


「ラーさん」

「うん」

「パーティー戦、すごく楽しかったです。私、ソロだから誰かと一緒に戦うの初めてで」

「うん。俺も初めての経験だったけど、すごく楽しかったなぁ」


 ルナさんのおかげだよ、と言えば、彼女は朗らかに笑ってみせる。私なんて寄生してただけですよぉ、と。そんなわけない。攻撃、撹乱、回復、補助、その他もろもろ。一人で殆どをやってのけるんだから、凄い人である。


「ラーさんに言われてもなぁ。ピンと来ないなぁ」


 ピンとは来るでしょ。意外と自己肯定感が低いのかな。それとも謙遜だろうか。


「ラーさん、スキル取りました?」

「まだだよ。“未知への挑戦”ですよね」

「ですです。悩むなぁ。これ以上スキル増えると必要経験値が重くなるし」

「俺は取りますよ。記念すべき十五個目のスキルです」

「じゅうごっ⁉︎」


 私はまだ十二個目なのに、と言うルナさんに“変わらないでしょ”とツッコミつつ、スキルを取得する。

 新たなスキルは誰もが欲しがる能力であった。



──────


未知への挑戦


初見の敵に与えるダメージが上昇する。初見の敵との戦闘において身体能力が上昇する。


──────



 とても単純で、素晴らしい力だ。何故なら、フィールドリーダーやエリアボスに対して必ず効果を発揮するのだから。

 雑魚とは違い唯一種だと考えられる彼らは、強く、特殊な力を身につけ、プレイヤーとは比べものにならない生命力を持っている。

 つまり初見で勝ちきるのは困難で、だからこそ“未知への挑戦”は大きな力になる。与ダメージ上昇という効果が、特に優秀すぎる。物理も魔術も選ばないのだから。


 と、それ等をルナさんに説明したのだけれど。


「ありがとうございます……」


 彼女は本当に悩んでいるようで、色々なことを相談してくる。残念ながら相手を間違えているのです。


 ルナさんは、この先もソロでやるの? そう尋ねれば、目を閉じて考えこむ。


「ソロのまま続けるかどうかで変わるんじゃないかな」


 もしも固定パーティーを組むのなら話は変わってくる。明確な数字で表すことが出来ない与ダメージや身体能力の上昇とは違い、スキル数による必要経験値上乗せは確実に発生するからだ。

 一人なら少しでも与ダメージを上げたいし、身体能力も高くしたい。

 一人じゃなければ先を見越した成長率を考慮すべきであり、ダメージソースは別の人間で補える。


 いつでも取得できるのだから保留にしても良いのだし。


「ギルドに参加するなら信頼できる人を紹介しよう」


 タチミツさんに頼まれているから。良い人材がいれば紹介して欲しいと。正確には、“きみでも納得のいく強さを持ったプレイヤー”、だったかな。

 ルナさんなら文句なしに推薦状を書ける。そんな物が必要か分からないけれど。


「ラーさん」


 呼びかける彼女を見れば、真剣な表情で見つめて来る。暗闇の中でも輝く彼女は、凛としつつも戦いの時とは違う美しさで。


「私、ラーさんと一緒に戦えて、すごーく楽しかった」

「うん」

「どのゲームもソロだったから、お互いの息が合う瞬間に感動しちゃって」

「うん」

「だから、パーティーとかギルドにも興味が出てきて」

「うん」

「でも、でもね。私はやっぱりソロで進みます。一人でしか見れない景色とか、一人でしか経験できない感動があるから」


 分かるよ、すごく。と言えば、ルナさんが嬉しそうに微笑む。つられて俺も笑う。やっぱり似た者同士だなぁと。


「でもでも、もしも、あの、ラーさんが良ければ、なんだけど」


 歯切れの悪い物言いはこれまでの彼女と違っていて。

 何かに挑むような、何かを恐れるような、そんな儚さを感じさせる。でもね、俺も同じ気持ちだよ。そして、それを言葉にするには勇気が必要なのも。


「分かったよ、ルナさん。俺からもお願いする」

「え?」

「また一緒に冒険しようピンチの時は声を掛けるからヘルプお願いします」


 早口でそう言えば、目の前の女性は眩いばかりの笑顔を見せた。勇気を出して言ったかいがあったなぁ。こんなに素敵なルナさんを見られたのだから。


「ルナさん、宜しくね」

「こちらこそ、宜しくお願いします! よしっ、スキル取ろー!」


 明るいルナさんが良いよ。笑顔と空気感だけで他人を癒せるなんて、どんなスキルにも不可能だ。

 まあ、美人さんすぎて容姿だけで癒されるけれど。これで見た目を変えてないんだぜ? 未婚なら土下座しながら求婚してた。


 と、心の中で馬鹿げた冗談を言いつつも、そろそろ胸の高鳴りが抑えきれない。どれだけ成長できたかな?


──────


ヘラ:人間Lv.14:開拓者Lv.13/捻じ曲げる者Lv.6

スキル:【刃物の心得Lv.15】【二刀の心得Lv.15】

【刃技Lv.5】【空間認識Lv.16】【肉体操作Lv.16】

【体術の心得Lv.9】【洞察Lv.13】【暗視Lv.13】

【神聖魔術Lv.10】【魔力操作Lv.5】【常勝Lv.7】

【強脚Lv.14】【急襲Lv.8】【獅子奮迅Lv.3】

【未知への挑戦Lv.1】【魔力耐性Lv.1】

称号:【闇に生きる者】【逸脱者】【残忍なる者】

刃神(はじん)の奥伝】

先天:【竜の因子】


──────



「すごーい……」


 と言ったのはルナさん。彼女は彼女で自身のステータスを確認していたのだろう。俺も同じ気持ちだけれど。

 何も語る必要はない。単純に、全体が底上げされ、向上したという話。明確に体感できるほどの成長である。


 で、新たなスキルがもう一つ。“魔力耐性”は名前そのままの能力で、おそらくはルナさんの魔術に突貫し続けた事で獲得可能となったのだろう。

 アナウンスなんか少しも聴こえなかったけれど。あの激戦じゃ聴こえるはずもない。改善を要求したいのです。


「あ」


 ルナさんの声から察するに、彼女も獲得可能となったスキルがあるようだ。


「ラーさんも?」

「“魔力耐性”。ルナさんのおかげ」

「私は“動体視力向上”と、“魔術発動短縮”です。ラーさんのおかげー」


 互いに取得したスキルの能力を教え合う。もはや警戒心のカケラも残ってやしない。


 それはさて置き。


 行けるなぁ。これなら“常闇の森”の完走は現実的だ。前回のような運ではなく、実力で捻じ伏せられる。


 ラーさんはこの後どうするんです? そう問いかけられて、少し迷う。

 オチョキンさんは心配しているだろうし、タチミツさんとの約束も無視してしまっている。第五の拠点を見てみたいし、今回のご褒美である隠し拠点も気になる。


 人との約束があるのでとりあえずゴッドレスに帰ります。そう言えば、ですかぁ、じゃあ私も戻ろうかな、新しい装備が出来る頃だし、とルナさんは言った。

 新しい装備か。今の時点でそれを可能とするのだから、ルナさんはやはり優秀である。

 で、俺も依頼していたなと。タチミツさんとは武具店ジャミジャミで会おう。


「ラーさん、こうしましょう。“古都アサナギ”へ行く時は二人で一緒に」


 二人で獲得した権利ですから。そんな事を真剣に、嬉しげに言ってくる。

 一緒に、か。良いな、素敵な響きだ。なんだかワクワクする。新しい景色を相棒と見るのも悪くない。約束ってやつも良いものだ。


「じゃ。またね、ルナさん」

「はい。またです、ラーさん」


 転移ゲートから消えるルナさんを見送り、暫くを待ち、俺もその中へ飛び込む。


 楽しかったなぁ。また、彼女と一緒に戦いたいなぁ。

 あまり考えないでおこうか。素敵な出会いであるほど、心躍る約束であるほど、二度と会えなかったり、果たせなかったりするものだ。


「やめろよ、フラグを立てるなんてらしくない」


 本当に、らしくない。俺は一人が好きだし、感動も景色も独り占めしたい。


 だから、気持ちをソロに戻していこう。



──────


────


──



「お帰りなさいませ、独走プレイヤーのヘラ様」


 なんだその呼び名と敬称は。と、そんな心のツッコミを入れさせるのは、お金大好き美人エルフのオチョキンさんである。

 分かりやすく怒っている。無茶をして心配をかけたのだから大人しくするべきだろう。とりあえずの正座である。


 で、何故そんな呼び名が付けられたかと言えば。


「ごめんね、ラーさん……」


 フラグを数分で真逆に圧し折ってしまう我が相棒、リアル美女ルナリアスさんが原因である。

 あの哀愁を返して欲しい。と言うか、どうしてルナさんまで正座させられているのか。


「はははっ! 良いじゃないか、オッチー!」


 何故かとても上機嫌なのは、見た目も心もジェントル魔人のタチミツさん。

 てかオッチーって。キャラ、変わってないか?


「喜ぶべきだって分かってはいるのよ? こんなに優秀なプレイヤーが二人も居て、二人とも我がジャミジャミの顧客なんだから」


 なんと。ルナさんが武具の制作を依頼していたのはオチョキンさんだったのか。此処に居るのだから当然だけれど。


「優秀か。オッチー、そんな言葉では足りないよ」


 そんなふうに喜ぶタチミツさんにオチョキンさんが釘を刺す。タッチーは楽観的すぎるわ、とか。今のブレサンは何が起こるか分からないのよ? とか。解放できる力を持っているこの二人に無茶はして欲しくないの、とか。


「……分かったわ、ごめんなさい。私が勝手だった」


 結局はそうやって謝罪するあたり、彼女は大人である。


 大人二人に虐められる若者二人。側から見ればそんな構図だろう。俺、おっさんだけれども。


 と、そんな寸劇はどうでも良くって。


 オチョキンさんから武具を手渡される。同時にメールも飛んで来る。

 二振りの刀。鎧とガントレットが一体になった防具。太腿の半ばまであるグリーブ。

 どれも黒を基色としている。


 添付されたスクショを確認。



──────


妖鬼(ようき)殺し・共魂(きょうこん)/等級5

攻撃28/重量13/耐久46

攻撃24/重量10/耐久52

特殊:二刀に関するスキルの経験値取得率上昇


幻獣と刃鬼(じんき)の素材によって生み出された夫婦(めおと)刀。

二振りを同時に使用する時のみ斬性が向上する。


──────


守護を受けし鎧籠手/等級6

物理耐性30/魔力耐性42/重量29/耐久135

特殊:魔力耐性スキルの効果にプラス補正


コカトリスの装甲と腱、グリフォンの皮で生み出された革鎧と肘上までを守る籠手。

鎧と籠手が一体型の特殊防具。

稼動部位には魔力が込められており、装備者の動きを阻害しない働きをする。


──────


健脚逸足(けんきゃくいっそく)/等級6

物理耐性20/魔力耐性20/重量4/耐久58

特殊1:スタミナ消費低下

特殊2:全力疾走時の速度上昇。移動スキルの効果アップ


コカトリスの装甲と腱、グリフォンの皮で生み出された膝上までを守る脛当て。

稼動部位は魔力が込められており、装備者の動きを阻害しない働きをする。


──────



「どうかしら?」


 ふふんと得意げなオチョキンさん。なのに嫌らしさを感じないのは、彼女の柔らかな雰囲気のせいだろう。

 怒っている時だってそうなのだから、ある意味では損なのかもしれない。


「最高、としか言えませんね」


 それ以外の言葉が見つからない。


 まだあるわよ、と言うなりメールが飛んでくる。

 大きなテーブルには、腰回りの防具と、頭? 顔? よく分からないが、お面だ。

 これ、ペンタを連想してしまう。漆黒で、後ろに流れる二本の角と丸い白の目は、まさに彼そのものだ。髪らしき物があるけれど。



──────


夜忍びの腰巻/等級6

物理耐性32/魔力耐性24/重量8/耐久70

特殊:夜間のみ、消音効果が得られる


グリフォンの羽を編んで作られた、膝までを覆う腰巻。

剣帯と一体型の特殊防具。

股下で別れる部分により音を相殺する。


──────


鬼顔(きがん)の面被り/等級10

物理耐性52/魔力耐性52/重量3/耐久180

特殊1:格下に恐慌状態を付与

特殊2:竜合(りゅうごう)により成長する


刃鬼(じんき)が素体となったお面に、グリフォンの羽を縫い付けた面被り。

刃鬼の加護により、装備時の視界と呼吸は未装備時と変わらない。


──────



 言いにくいのだけれど。そう切り出したオチョキンさんは、紅茶を口にあてて暫くを黙る。


「このお面ね、私は殆ど何もしていないのよ」

「と、言いますと?」

「勝手に出来たと言うか、いつの間にか出来上がっていたと言うか」


 ふん? やっぱりこれ、ペンタだろ。彼自身だとは思わないし感じもしないが、彼の何かしらは込められていそうだ。


「ちなみにこれ、装備できないのよね」


 なんですと?


「ほら、自分で制作した装備は何度か身につけてみるの。持ち重り感だったり、バランスだったり、確認の為にね」


 でもこれは出来なかったと。


 どうやら無理矢理に装備しようとすると弾かれるらしい。おまけにダメージも入るのだとか。


 ああ。ペンタは選り好みをしそうだものな。基準は、強さ、だろうか。

 ならば、失礼ながらオチョキンさんは無理だろう。でも、タチミツさんもルナさんも無理だったと。


 では、俺はどうだろうか。間違いなく装備可能だ。なんせ『竜合』の文字がある。


 面被りを手に持つ。不思議な見た目だ。鼻も口もない顔に沿った丸みを帯びた造形。その中に浮かぶ丸の白い目。お面の上部からは後ろに流れる二本の角。

 全てが漆黒で、しかし上淵から髪のように生えるグリフォンの羽だけが白銀だ。


「――ん」


 被る。吸い付く。頭から何かが流れ込んできて、それが全身に走る。嫌なものではない。邪魔なものでも。大切だとすら感じる。


「ヘラさん、装備、出来た」

「ふむ。人を選ぶか」

「ラーさんっ、憧れの銀髪になれたよ! 黒髪も見えてるけど」


 そうか。ペンタが選んでくれたのか。


 応えなければ。今より強く、さらに高みへ。


 待ってろよ、ペンタ。




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