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17話 モンスターハウスに求める出会い

 




 ちょっと何言ってるか分からないわ。そんな事を言うオチョキンさんに経緯を簡単に伝える。30メートルほど落下したこと。“強脚”を持ってて助かったこと。


 と、会話を続けながらも骸骨を斬り捨てていく。

 まあ沸くわ沸くわで、いつの間にか四十体ほどに増えている。

 さすがに勝ち切るのは無理だ。デスペナが厄介である。上手く動けないし、違和感のせいでペンタとの戦いで掴んだ“強脚”の連続使用も無理。囲まれた時点で終わる。


「てことで、すぐに死に戻りそうです」

『簡単に言ってますけど良いんですか?』

「と、言いますと?」


 彼女の返答に愕然とし、内容に戦慄する。

 彼女は淡々と言った。連続で死に戻りするとペナルティー重いでしょう? と。最悪はスキルが消えることだってあるじゃないですか、と。


「……マジです?」

『……無知です?』


 やべぇな、デスペナ。


 さて。危機に瀕した時こそ人間の本性が現れると言うが、だったら俺の本性は『ケチ』になる。これまでに得たスキルを失うわけにはいかない。一つもだ。


 だから、やる気になったぜ骸骨ども。


 作戦は単純。デスペナが切れるまで逃げ回り、そこから攻勢に出る。


 まずは生き残らなければ。



──────


────


──



 集団戦。若しくは集団を相手取る戦い。それにおける生命線は位置取りである。一体を注視せず、全体を眺めることが肝要であり難しくもある。

 武器を振り上げられれば無意識に注視してしまい、危険信号に意識を傾けるとたちまち囲まれる。


「やれるもんだね」


 俺がこうして生きている要因は幾つかある。


 一つに、スケルトンの動きが(のろ)いこと。

 フラリフラリと距離を詰めてくる彼らは、走るという事をしない。上半身を左右に揺らし、下半身がそれに連動していない。それでいて直線的な動きだから捌くのは難しくはない。


 一つに、“刃神の奥伝”や“常勝”の効果を得られていること。

 敵の全てがシステム認知的に格上か同格。さらに刃物を武器にしているのだ。おまけに圧倒的に数的不利。身体能力の向上幅はデスペナを打ち消すほどである。


 一つに、この場所が広いこと。

 地底都市を連想させる此処は、四方が200メートルほどの空間である。地面こそ砂だが足捌きに支障をきたすものではない。


 そして何より、俺が攻撃しないこと。

 ようは鬼ごっこである。鬼は頭が悪く、連携もせず、包囲するような動きは見せない。各々が俺に向かって一直線に距離を詰めてくる。今では50体を越すスケルトンだが、あえて密集させ、広い空間を使い、逃げる。それを繰り返せば良いだけであった。


 他にもスタミナなど様々な要因はあれど、大きなものとしてはこれ等になる。


 で、死を賭した鬼ごっこを続けること約二時間。()()の解除はやけに明確に体感できた。

 軽くなる身体。溢れる活力。透き通る思考。本来の自分がどんなものかを思い出す感覚。


「――うはは。では、骸骨くん達」


 攻撃開始と行かせて貰おうか。


 目を閉じて、鬼ごっこを続け、一体ずつ丁寧に殺していく。時には縦列となるよう誘導し“強脚”で複数を殺していく。

 とにかく一撃で。急所である宝珠を正確に破壊して。けれども固執せず柔軟に。時には攻撃能力の排除を優先し、窮地には距離を取ることを躊躇わない。


 スキルの成長に助けられている。“空間認識”の有効範囲は二十メートルに達し、刀の扱いには拙いながも(ことわり)が乗ってきた。

 無くてならないのは“洞察”。これの効果は集団戦でこそ生きるのだろう。“空間認識”の効果と相まって、危険度の優先劣後を的確に判断できる。

 あって良かったのは“体術の心得”。体術とは肉体を使用する全てに活きてくるからだ。“肉体操作”との相性は語るまでもない。


「……ラス、ト」


 最後のスケルトンはナイフ持ちである。間合いでは俺に利があり、彼には小回りを活かせる速度がない。

 だから一撃で決めたかったけれど。


「――ぐ、ゔぇ」


 デスペナよりも重い状態異常にかかっている。およそ10分ほど前からで、おそらくはスタミナの枯渇によるペナルティーだろう。


 まあ、殺せますけどね。


『おめでとうございます! 特殊フィールドの攻略を確認しました!』


『モンスターハウス“死骸湧く泉”のソロ突破報酬を獲得しました! スキル【獅子奮迅】が獲得可能になります!』


『シークレットフィールド【首刈り山の古都】への進行権利を付与します!』


 足を引きずりつつ、嘔吐しつつ、闇が深くなる方向へ進んでいく。

 やはり此処は大きな部屋のようで、舞踏会場を思わせる様相であった。

 つまりは入り口があり、それに気づいたのは鬼ごっこ中であり、不思議な光が差し込むことからセーフティエリアの一種だと予想できてもいた。


 逃げ込むという選択肢もあったのだが、こう、興が乗ったと言うか試したかったと言うか。興奮した時の悪癖はいかんともしがたいものである。

 しかしアナウンスを聴くに誤った判断ではなかった。敵を全滅させなければ次のフィールドへは進めなかったし、モンスターハウスという特殊な環境では他の出口なんて用意されていないだろう。


 勝てて良かった。で、死ぬほど苦しいわけですが。


 セーフティエリアは青い光を発する噴水がある小部屋で、一人のプレイヤーが居た。


「無事の生還おめでとうございます」

「ど、も」


 女性で、背中に槍を担いでいる。防具はどれも革製で、身軽な印象を受ける。

 震える腕を上げて挨拶とし、地面に全身を投げ出す。

 彼女の存在にも気付いてはいたのだが、声をかける余裕なんてある筈もなくって。


「あ、無理に喋らないで。回復いります?」

「問題、ない、です」


 アイテムボックスから飲食物を取り出す。それ等を放り込むように呑みくだし、大の字に寝転がる。

 スタミナゲージの回復は見受けられない。体調の改善もなされない。これはマズいかな。


 と、少しばかり焦り出すと女性がこちらに近寄って来る。あー、スタミナが枯渇してるんですね。四時間も戦えば無理もないですよ。そんな事を言う彼女は、これを使ってください、とポーションらしき物を手渡してくる。

 あるのか、スタミナ用の回復薬。と言うか、四時間も戦ってたのか。


 本当に馬鹿だなぁ。ただの自己管理不行き届きである。四日以上もエネルギー未摂取なのだ。

 スタミナに関する先天的才能を所持していようと、無謀と言うにも足りない馬鹿げた行為である。


「――ふぅ。ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ。それ、すっごく不味いでしょ。よく一気に飲めますね」

「美味しいですよ? 味があるし」

「うわぁ、味覚崩壊キャラ来たー」


 さて。代金の支払いを済ませ、四時間もの継戦能力に驚かれつつ、様々な内容について会話を重ねていく。折角の出会いだ。無駄にはしたくない。


 彼女はソロプレイヤーであり、槍を使う魔術士であった。武術スキルと魔術スキルの同時所持は経験値の面ではネガティブだろうに。

 どことなく親近感を抱いてしまうのだが、この場に居る理由も落下トラップに掛かった言うのだから尚更である。さすがはソロと言うべきか防具の類いはしっかりと身につけており、種族はおそらく“人間”かと思われる。

 煌めく銀の長髪を持った美しい女性。蒼色の瞳を持った切れ長の目が、その長身と相まって意志の強さを感じさせる。肉体から放たれる魅力は男にとって凶器そのものだ。


 なのに異性を感じられないのは、俺が男として枯れているからなのだろう。悲しいのです。


「あ、自己紹介がまだでした。私はルナリアスです。宜しくお願いしますね」

「ヘラと申します。こちらこそ宜しくお願いします」


 お互いに握手を交わす。女性にしては硬い皮膚。ゴツい掌。凝ったアバターである。


「……間違いだったら申し訳ないんですけど、ヘラさんて、あのヘラさんです?」

「どの、でしょう」

「キラーラットマンを一撃で殺した、あのヘラさん?」


 この人も掲示板を見るらしい。俺が見るとすれば情報を求めて、だろう。それすらもする気にはなれないが。


「掲示板を見なくても知っているかと。色んなところで噂になってますよ。飛び抜けたプレイヤーが居るって」

「飛び抜けちゃいませんよ。偏ったスキル構成で、たまたま上手くハマったってだけで」


 噂、か。好き勝手に言われても気にはしないが、変な輩に絡まれるのは勘弁願いたい。彼女がそうかはまだ分からないけれど。


「ヘラさんて、独自スキル持ってます?」

「持ってないですね。でもまあ、ダブルですから」


 探りだと捉え、情報を小出しにして様子を見る。真実を交えながらも完全に晒すことはせずに。


「わぁ、仲間仲間! 私もダブルなんですけど、経験値が重くって」

「何のダブルですか?」

「“魔女”と“魔法戦士”の――」

「ストップ」


 駆け引きではなかったらしい。根が素直と言うか、純心無垢。それがルナリアスと名乗る女性に対する印象である。


「不用心が過ぎます。俺もゲームに不慣れだけど、簡単に情報を開示しない方が良い」

「うぅ。ですよね。ヘラさんには親近感が湧いちゃって」


 まったく同感である。警戒していたのが馬鹿らしくなって来た。あ、俺って馬鹿だった。

 


──────


────


──



「ラーさんて、馬鹿ですねぇ」


 やはりルナリアスさんは素直であるらしい。初対面の男に思ったことを口に出来る胆力もある。

 既にこの人が大好きだったりする。気持ち良く会話できる人間は貴重でもある。


「デスペナで戦闘って。だから急に動きが良くなったんですね。て言うかあの高速の動き! 凄かったなぁ」


 見られていたらしい。まあ見るよな。どうせなら撮影してもらえば良かったな。


「対策を練る準備くらいの考えだったんですけど。まさかモンスターハウスに落とされるとは」

「私はすぐ此処に逃げ込みましたよぉ。ホラー系は苦手で。上もそうでしたけど」


 互いのことを話しつつ、この先の行動を決める材料を探していく。

 ルナリアスさんはソロにして強プレイヤーのようで、“首刈り山の地下空洞”のエリアボスにあと一歩まで迫っていたらしい。

 ボスを視認した瞬間に此処へと落とされ、途方に暮れていたら俺が現れた。と、材料は見つけられないものの会話を楽しむには十分な内容だった。


 うん。彼女との会話、楽しいのです。


「あの、ラーさん」


 彼女は俺への警戒を失っており、変テコな渾名を使用している。話し方も砕けたものになり、それはきっと彼女本来の話し方なのだろう。


「あそこに登れたりします?」


 彼女の視線が向けられるのは俺が落ちた時に空いたらしき穴であり、“首刈り山の地下空洞”へ戻れる唯一の場所だと思われる。


「無理ですね」


 そもそも、あれは視覚的に存在するだけで実際に戻れるわけではないだろう。

 こうして見ていても影の一つだって落ちてこない。誰も通っていないという事である。今は夜だからプレイヤーが活動していないだけかもしれないが。


 彼女が知りたいのは脱出方法であり、その望みを断ったのは俺でもある。

 モンスターハウスを突破したのに、直接の出口が出現しなかったのだ。つまり、現状における脱出方法はない。


 諦めを乗せてルナリアスさんは言った。やっぱりボスを倒すしかないですよぉ、と。


 ふん? なんですと?


「ボスを?」

「はい。転移ゲートが発生するでしょ? それで帰るしかないかなって」


 さて、初耳である。

 転移ゲートのことはアップデート後のお知らせにも書かれていたと記憶している。しかし、オチョキンさんに脅されての嫌々だった為に流し読みで終わらせてしまった。


 ボスを倒した場所が転移ゲートに?


「ですよぉ。ラーさんが進行権利を獲得してくれたから先に進めますし」


 彼女が指差す方向に、水が揺蕩うような壁がせり立っている。あれが此処を抜ける通路になるのだろう。


 それよりも。


「え? ルナリアスさんも進めるの?」

「え? パーティー組めば可能でしょ? ここに、そう書いてありますし」


 噴水に浮かび上がる文字。それによれば、此処は特殊なフィールドであり、ルナさんの言葉通りでもあった。


 ブレサンて、特殊なフィールドは一人が権利を持っていれば進めるらしいですよ? 全てではない、とも聞きましたけど。その言葉に愕然としてしまう。

 そうなのか? だとしたら、俺が全てのエリアを攻略する必要なんて無いじゃないか!

 そうなのだ。忘れてはいけない。俺がこの世界に居るのは旅をするためである。進行権利を得るためにボスを倒さなければならないと考えていたが、どうやら全てを自分でやる必要はないらしい。


 いけないなぁ。思考が戦闘に傾き、偏っている。


「でも、特殊なフィールドだけですよ?」


 分かってる。けど、特殊なフィールドを越えた先にこそ、素晴らしい感動が待っていそうだし。


「それに、ラーさんてソロプレイでしょ?」


 まあ、そうなのだが。また、誰かと組むつもりも無いのだが。

 天秤がどちらに傾くかという話ではあるが、なかなか答えを出せるような話でもない。


 何はともあれ。


「ボス、行くしかねぇか」

「ボス、行くしかねぇですよね」


 どうせ此処からは楽に脱出する道などないのだ。その方法とは現状で一つしかないのだ。

 だったら簡単なことで、それを成せば良い。悩むだけ無駄である。考えても仕方ないことは考えない。精神を健全に保つ上でも必要な事だ。


 彼女と俺なら可能とする。そんな予感がある。


 攻略できなければ死に戻るだけ。またあのモンスターハウスを突破するのはゾッとするし、また此処に戻って来られるかも分からない。でもまあ、やれる事をやるだけだ。


「あの、私もご一緒して良いです?」

「あ、すみません。勝手に戦力計上してました」

「やったぁ! ついにフレンドができます!」


 何やら悲しい言葉が聴こえた、ような気がする。

 こちらを見つめる彼女から視線を外し、ステータスを確認する。



──────


ヘラ:人間Lv.11:開拓者Lv.10/捻じ曲げる者Lv.5

スキル:【刃物の心得Lv.12】【二刀の心得Lv.12】

【刃技Lv.3】【空間認識Lv.13】【肉体操作Lv.13】

【体術の心得Lv.5】【洞察Lv.10】【暗視Lv.10】

【神聖魔術Lv.7】【魔力操作Lv.3】【常勝Lv.5】

【強脚Lv.10】【急襲Lv.6】【獅子奮迅Lv.1】

称号:【闇に生きる者】【逸脱者】【残忍なる者】

刃神(はじん)の奥伝】

先天:【竜の因子】


──────



 成長を遂げている。それを肌で感じてもいる。あれだけのスケルトンを殺したのだから当然でもある。

 スキルの成長度合いに大きな偏りが生まれてきた。使用頻度にそれほど差があるようには思えないのだけれど。


「あのぉ」

「――ん?」


 こちらを見つめるルナリアスさん。不安な様子ではなく、むしろ期待に満ちた眼差しである。

 ああ、待ってるのか、俺からフレンド申請が来るのを。可愛い女性だなぁ。


 初のフレンド申請を震える指で行い、彼女も震える指で承認する。

 フレンド欄に三人目となる名前が刻まれる。

 プレイヤー名はルナリアス。種族は人間。職業は魔女と魔法戦士の二つ持ち(ダブル)。これは、良いな。


「開拓者? 素敵な職業選択ですねぇ」

「でしょう? ルナリアスさんもナイスだと思います」

「でしょでしょ。運は良いみたいで」


 魔法戦士のことを言っているのだろう。響きからは“魔術も使える戦士”だと認知できるけれど。さあ、どんな職業なのか。

 初めてのパーティ編成。二人きりのパーティ。ああ、良いね、良い。とても良い。


「魔術特化戦士のルナリアスです! お世話になります」

「何一つ特化してないヘラです。ドンと来いです」


 さて。


 初のパーティ戦への期待に胸を高鳴らせつつ行きましょう。


 いざ新たなるフィールドへ。




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