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11話 きみを殺しに来た

 




『試験域“ペンタ”への不正アクセスを確認。プレイヤーを検出。アクセス方法不明』


『警告! これより先はプレイヤーに開示されていません! 即刻の退出を!』


『警告! これより先はプレイヤーに開示されていません! 即刻の退出を!』


『プレイヤーからの反応なし。拒否と判断。ウイルスとして認知、対処を実行します』


『保全管理者より提言。最低限の権利は認めるべきであり、あくまでもゲームとしての対処を要求』




 どこかで、何かが話してる。一人の男性と、システムチックなものと、一人の女性。分かるのはそれだけだ。

 声は言葉として伝わらず、ただの音にしか聴こえない。耳が、イカれてきた。


「ゔ、ゔぉえぇええ!」


 激しく嘔吐。血も混じっている、ように思う。肉体の根本が壊れ始めている。

 これで賭けに勝てなきゃ、苦労が水の泡だ。HPの残りはごく僅かしかない。


 不思議だなぁ、と。澱む意識にて思考する。だって、視界は滲んでいるのにメニュー画面だけはしっかりと見えるんだもの。目を閉じていても視認できるのだから当然か。

 アイテムボックスを開けば、一番上に希望の文字が見て取れた。


 それを選択し、使用する。ほんの数ミリを残した地点でHPの減少が止まり、体から発せられる異常シグナルが消える。

 やっぱりドロップしたな、毒消し。即効性で良かった。

 とは言え未だ思考は上手く働かず、視界も不確かだ。回復薬を使用しつつ“空間認識”を展開。索敵と警戒を開始する。


 で、当然ながら御褒美は他にもあって。



──────


ヘラ:人間Lv.8:開拓者Lv.7/捻じ曲げる者Lv.3

スキル:【刃物の心得Lv.9】【空間認識Lv.10】

【肉体操作Lv.10】【洞察Lv.6】【暗視Lv.6】

【二刀の心得Lv.8】【常勝Lv.3】【強脚Lv.6】

【神聖魔術Lv.6】【魔力操作Lv.3】

独自スキル:【飢餓の切望】

称号:【闇に生きる者】【逸脱者】【残忍なる者】


──────



「称号とスキルは貰えず、か」


 不満なんか言ったらいけないよなぁ。レベルは気持ちの悪い上がり方をしているんだから。それだけの強敵だったってわけだ。

 あんなのが居るものかね、初期エリアの一つに。だとしたらレベリングを見直す必要がある。


「雑魚狩りしろって?」


 あんまり好きじゃない。低レベルでも突き進み、弱いながらに攻略していくのが好きだ。

 俺って奴はダメダメで、嫌いな事はなるだけやらない性格。それでいて、自分を変えられない性質でもある。


 つまり、このまま進んで行くんだけれど。


「あー。方角、分かんねぇな?」


 大樹も見えなきゃ視界も通らない。この不思議な領域に入って来た方向も分からず、行くべき道を照らす動線もない。こういう所は徹底して不親切なゲームである。


 でもまあ、なんとなく、漠然とだけど、分かるかな?


「ふん? “洞察”か」


 おそらくは正しい。このスキルが周囲の異様を教えてくれている。つまりは、闇が濃くなる方向を。

 そうだ。これは夜だから生まれた暗闇ではなく、何者かによって意図して作られた闇だ。このリアルなゲームで発生する不思議な現象は、システム的なものとして捉えるべきだろう。


「だから、進むべきはあっちだね」


 俺が制作者なら、そうする。この不気味な領域の奥であるほど闇を深くする。お決まりだものね。


 そうして進んで行けば、ほら。


「ボォー……」

「――ん」


 風が狭い場所を通った時のような音。いや、声か。



──────


グリフォン:幻獣Lv.3

番人/???/???/???

スキル:???


──────



 敵だ。その名の通り、翼を持つ上半身と顔は鷲で、下半身は獅子のそれだ。

 問題はコカトリスよりも強いのか弱いのか、だけれども。


「どうかなぁ?」


 彼よりは弱そうだ。少なくとも種族は見えているし、“洞察”もそう言っている。

 つまりコカトリスより下位の存在なのだろう。幻獣という種族が守護獣と同等か、それ以下なら、だが。そもそも守護獣が種族を指すものかも分からないけれど。


「もう退けないものなぁ」


 残された時間は四時間だ。夜の7時までが“飢餓の渇望”を使用できるタイムリミットである。


「まだ三日たってないのかよ」


 濃厚だったものな。強敵とばかり戦って来たから。


「で、きみはどうかな?」


 相応しい敵なら使用を躊躇わない。コカトリスに使う余裕は無かったし、魅力も感じなかった。強さとしては申し分なかったけれど、毒を与えるだけなら魔術でも出来そうだ。


 いや、そうでもないかな? 恐ろしくも、なかなか強い能力だ。奪えるのはスキルだとは限らないようだし。

 だが失敗したとは思わない。だって、強大な敵と出会える予兆があるもの。



──────


領域システムキー 4/7


──────



 コカトリスも鍵持ちだった。残り3つを手に入れた時に何が起こるのか。または何が出るのか。それは分からないけれど。


「きみも持ってるんでしょう?」


 ねえ、グリフォンくん。

 鍵を揃えよう。そうして、それに賭けよう。“飢餓の渇望”を使うに相応しい敵と出会える機会を得るために。


「ボボォオオ」

「――おっと」


 まずは目の前の敵に集中しないと。

 彼が相応しくなければ、可能な限り奥へと踏み入り、鍵を手に入れ、()()と戦い殺すだけだ。


「フラッシュ!」


 いつものように目を閉じて、同じ戦闘法で。


 さあ、前進あるのみだ。



──────


────


──



「ざっくり」

「キァアアア!」


 二刀の動きが冴えている。意識が奔っている。肉体が脈動している。レベルが三つ四つ上がっただけで、これだ。たったそれだけで、こうも違う。

 この先どう成れるのか。そんな事を考えると、膨らむ期待に胸が弾けそうになる。


「きみも体力が多いな」


 翼を切り落としたグリフォンに言ってみる。理解できる筈もないけれど。


 グリフォンはコカトリスよりも弱い。言ってしまえば数段落ちだ。厄介さに天と地の差がある。

 しかし、体力が多い。或いは生命力が強い。

 体格から考えれば死に至る出血を強いても動き続け、重要だと思われし内臓器官を傷付けても生きている。時間がかかる。


 ただ、焦る必要はないわけで。


 この領域には魔物が居ないのだ。正確には、グリフォンしか存在しない。しかも単体であり、等間隔で待ち構えている。

 まあ、三体目だからサンプリングとしては不十分だけれども。


「でも、きみが最後だろ?」



──────


グリフォン:幻獣Lv.5

番人/??????/???

スキル:???


──────



 そう、彼が最後だ。ここまで二体のグリフォンを殺し、領域システムキーの所持数は6個になっている。


「そろそろ楽になりなよ」


 システム上じゃ格上ではある。でも、今の俺にとっては敵じゃあない。

 とは言ってもやってる事は簡単だ。“強脚”の力で跳ねて、グリフォンへ二刀を振るう。攻撃の予備動作を捉えたら“強脚”で離脱。着地の時はすっ転ぶけれども。

 だって、反発力が大き過ぎるんだもの。攻撃の時は二刀へと伝え、敵を斬ることで逃しているから止まれるわけで、つまりは相手が居なきゃ出来ないのだ。空振りした時などは前方へすっ飛んでしまう。


 何にせよ、勝てるのだけれど。


 だから。


「――バイバイ」


 首を切り落とす。油断することなく構え直し、“空間認識”に語りかけて索敵と警戒を開始。

 10秒、30秒、1分と待つが何も起きない。

 アイテムボックスを開けば主張するかのような点滅。



──────


領域システムキー 7/7


お疲れ様! 面倒だったでしょ? 嫌がらせじゃないからね!


──────



「なんだこの説明文は」


 俺に宛てたもの、じゃないよな。よく分からないが、それは良い。


「揃ったぜ?」


 点滅するアイテム名を見つめ、気を鎮める。自分に深く潜り、五感を解き放つ。

 集中。どうなるか分からない。何が出るか分からない。だがら、覚悟だけは決めて。


 タップ。


「――ん」


 予想していた光や衝撃、強大な敵の出現はない。なんの知覚もないままに景色が変わった。突然、知らない場所に立っていた。


 どうやら広い空間に居るようだ。どこから発されているのかも分からない光源を頼りに周囲を見回せば、遠く四方に壁。まるで木の中にいるような、そんな質感。

 床も木そのものが畝っている。天井だけが低く、5メートルほどの高さ。そこもやはり同じ質感。

 本当に木の中にいるかのようだ。


「入り口も出口もないなぁ」


 転移、というヤツだろうか。だとしたら、どのようにして帰るのだろうか。


 まあ、今は良い。


 俺は空間の中央に立っていて、真上には巨大な木の実らしき物がぶら下がっている。

 脈打ち、鼓動じみた音を鳴らし、それに合わせて明滅している。中には膝を抱えて座る人型のナニカ。


「大きいな」


 木の実もだけど、中にいるナニカも。身長は2メートルを越えていそうだ。


「――来る」


 木の実が激しく揺れ始める。脈動の間隔が短くなり、鼓動音も大きくなる。人型のナニカは動かない。けれども、何と言うか、存在感が増した。


 バリ、と木の実が裂け、大量の液体と一緒に人型が流れ落ちてくる。

 全身は光を吸い込むほどの漆黒。身長はやはり2メートルを越え、頭から二本の角らしきものが後方へと流れている。真っ白い目だけが強調され、鼻や口は見当たらない。

 敵か? だとしたら、今のうちに攻撃するべきか? するべきだ。分かっているのに、動けない。


「う、うわ」


 全身にのし掛かる重さ。実体を持たない筈のそれに縛り上げられる。


 これは、なんだ?


「ヴゥ、ヴォおお」


 人型が動く。伸び、だ。よく寝たと言わんばかりに。

 緊張感の欠けらもない間の抜けた動作。なのに、動けない。動いてはいけないと、そう感じる。だから、呼吸すらひそめるようにして存在感を隠す。


 ナニカが立ち上がった。ナニカがあくびをした。真っ赤な口が見えた。歯は漆黒がそのまま伸びたようにギザギザだった。

 俺はそれを注視していた。いつでも逃げ出せるように備えていた。


 ナニカが己を見て、上を見て、緩りと下を見る。右手に握られるのは、何処から取り出しのかも分からない漆黒の長剣。


「ぅ、あっ」


 あれ? やっぱり体が動かない。これって?


「ヴァア」


 ナニカが、俺を、見た。




 ――逃げろッ!




「っ!」


 一人でに動き出そうとする全身を、意思の力でこの場に縫い付ける。頭に響く“逃げろ”の大合唱。細胞の一つ一つが叫ぶようなそれを感じながら、震える脚に力を込める。捻じ伏せて、抜刀する。


 これは、恐怖だ。それも大きな大きな。


「ヴォ」


 人型のナニカが一歩を踏み出す。とてもゆっくりと。しかし美しく流れる動作で。


 そうして。


「――消えたッ⁉︎」


 違う! “空間認識”は別の答えを出している。それに合わせて脳が激しく蠢いている。

 俺の眼が追い付けないだけだ! これは、攻撃だ!


「――っ!」


 二刀を眼前で交差。前傾姿勢を作り、脚に力を注ぎ、アイテムボックスを開く。


「がっ!」


 衝撃。飛翔。遅れて、バキリと響く嫌な音。何ヶ所か折れた。視界の端に映るHPゲージは一割をきっている。回復薬を使用。全身から激痛が走り、壊れた色々を治していく。


 地面を滑り、転がり、やっと止まった頃にはまたもHPが一割ほどに減っていた。

 回復薬を使用。体勢を立て直すべく立ち上がる。急げ、攻撃が来る!


「――っ、あれ?」


 ナニカは中央で座っていた。長剣で肩を叩き、またもやあくびをする。


 クソ野郎。余裕ってわけだ。


 全身に鳥肌。今の一撃を思い返し、戦慄し、感動する。なんと美しい斬撃だろうか。ああまで刃物を活かせるものだろうか。

 彼は解っているのだ、刃物とはどう在るべきかを。なんと羨ましい。



──────


ペンタ:???

site-penta_エリアボス/???/???/???

スキル:???/???/???/???

独自スキル:???/???/???/???

■■スキル:???/???/???/???

称号:???/???/???/???

特殊:能力抑制/Aphroの封呪


──────



 なるほど、余裕があるわけだ。俺なんか敵にも見えないだろう。せいぜいが、邪魔な物くらいか。

 勝ち得る未来が見えない。手順と道筋も。こいつは別格だ。コカトリスが可愛らしく感じるほどに。


 ステータス欄からは弱体化していると読み解けるが、それでも挑む気にはならない。


「う、くく。最高だ」


 とうとう巡り合えた。“飢餓の渇望”を使うに相応しい敵だ。


「ヴォ?」


 ナニカが立ち上がる。敵意に反応したか。

 良いことだぜ、やる気になるのは。俺だって、今、同じだ。


「俺の名前は、ヘラ――きみを殺しに来た」

「……ヴェラ」


 だから、行こう。


 目を閉じて、前傾姿勢で。


 そうして、さあ。これまでと同じく突貫だ。




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